第五十七話「ダンと語らいました」
お待たせしました。第五十七話です。
ダンとペパーの関係性が明かされます。
いよいよ王城へ向かう日を迎え、俺たちは朝早くから馬車に揺られていた。乗っているのが俺とカリアだけであれば普段と変わらない見慣れた光景なのだが、今回は珍しい同乗者がいる。
「いやあ……ルーナ様とこうして外に出る日が来ようとは、夢にも思いませんでしたなあ……」
「確かに、普段屋敷でしか顔を合わせないダンがこの場にいるのはなんだか新鮮ね」
「そうですねえ……心なしかダンさんからいい匂いがする気がしますう」
そう言いながらカリアが鼻をひくつかせながらよだれを垂らしてしまっている。ダン=料理という固定観念からそう思い込んでいるのかとカリアにツッコミを入れようとしたが、それを聞いたダンが懐をまさぐりだした。
「流石はカリアさん、鼻が利きますなあ。道中のおやつにと思ってクッキーを持参していたのですが……よかったら食べてください」
ダンは観念したかのように、包み紙にくるまったクッキーを取り出した。カリアはそれに目を輝かせながら、飛びつくようにクッキーを手に取って頬張り出した。
その様子を幸せそうな表情で確認したダンは、今度は俺の目の前にクッキーを差し出してきた。断る理由も無いので1つ手に取ると、その香ばしい匂いに釣られたのか、クロウの姿をしたユエが俺の右肩に現れた。
物欲しそうな目でクッキーを見つめるユエにも、ダンはクッキーを一枚差し出す。するとユエは嘴を器用に使ってクッキーをバリバリと食べ始めた。やがてユエはクッキーを全て食べ終えると、その口を開いた。
「うむ、やはりダンの作るものは絶品だな。鳥の姿でなければもう少し味わって食べたいところだ」
「お褒めに預かり光栄です。私としてもユエ様はとても美味しそうに食べてくださるので、こちらも作る甲斐があるというものです」
「ペパーさんの料理も美味しかったですけど、やっぱりダンさんの料理が1番ですよねえ。行く先でもダンさんの料理が味わえると思うと、今からよだれが止まりませんねえ……」
ペパーという名前を聞いて何やら感慨深そうな表情をするダンに、俺はかねてから気になっていた質問を投げかけた。
「そういえば、ダンとペパーは知り合いなのよね? ペパーは貴方のことをライバル視していたようですが……一体どういう関係なのです?」
「ペパーと私は同じレストランで修行を積んでいた身なのです。何かにつけて私に色々と勝負を申し込んでくる負けず嫌いなやつでしたね。それにしても、そんなペパーが今は王城の料理長ですか……。あいつも成長したもんですねえ」
ペパーはダンに一度も勝てなかったことを相当根に持っていたようだが、対してダンはあまり意識していないようだ。ペパーとの関係性を聞けば聞くたび、ダンの底知れぬ実力がひしひしと伝わってくる。
だが、こうなると別の疑問も自然と浮かび上がってくる。カリアも俺と同じ疑問を抱いていたらしく、それをダンに問いかけた。
「でもダンさんの方が実力で勝っていたなら、なんでダンさんが王城の料理長にならなかったのですかねえ?」
「実は私も王からのスカウトは受けていたのです。ですがそれと同時にルーナ様のご両親からもアプローチを戴いてまして、どちらを受けるべきか迷っていたところにソニア様が直接私の元へ来てアプローチをかけてくださったのがきっかけで、私はカトラス家の料理人になった訳です」
ダンからすれば王からの誘いも捨てがたいものであったのは間違いないだろう。それを捨ててでもとなるとソニアがどんなアプローチ方法をダンに試したのか気になるところではあるが、なんとも言えない表情をしながら答えるダンに、俺はその質問をすることはできなかった。
「まあ細かいことは気にせんでも、今こうやってダンの味を堪能できるだけ良いではないか」
「……ユエは本当いつでもブレませんわね」
しんみりとした空気になりそうな雰囲気もユエの現金な発言でガラリと変わり、再びダンのクッキー片手に他愛ない話が続いた。
俺やカリアからは学園内での様々な出来事を、ダンからは俺らがいない間の屋敷内の様子を互いに話し合った。ダン曰く、俺がいない間は「次ルーナに会えるのはいつかしら……」と口癖のように呟いているらしい。俺への対応はゲームの時と違えど、やはり根本的な子煩悩ぶりはそのままのようだ。
そんな話を続けているうちに、いつの間にやら馬車が目的地に到着したようだ。名残惜しさもあるが、帰りの時にもまた話ができると割り切って俺たちは馬車から降り立った。
「いやあ……改めてお城を間近で見ると圧巻ですね……」
俺はもう何度も来ているのですっかり慣れてしまったが、初めて王城の麓までやってきたダンは、俺が初めて王城に招かれた時と同じリアクションをとっている。このリアクションをとるのがごく自然の反応だろう。
「なんだかダンその反応、私にとっては懐かしいですわね……」
「ルーナ様はもう何回もここに来てますからねえ」
「そうね。誰かさんのお陰でね」
「ルーナよ。いい加減根に持つのはやめてくれんか」
「あら、誰もユエのことだとは一言も言ってませんわよ?」
「……お主、後で覚えておけよ」
王城を目の当たりにした時のダンは緊張で表情が固くなっていたが、俺とユエのやりとりを見て緊張がほぐれたのか、いつもの朗らかな表情に戻っている。これで満を持して、夏休みの思い出作りに励めそうだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は21日投稿予定です。




