第五十六話「夏休みに入りました」
お待たせしました。第五十六話です。
激闘から明け、ここで一区切りです。
ワイバーン及び魔人との戦いが終わったその後も、俺には多忙な日々が待ち構えていた。その原因となったのは、何を隠そうユエの存在だ。
俺を遥かに超越する闇魔術の使い手、そして今回の一件の黒幕であった魔人との関係性。そのことが王族騎士団から即座にアルバー国王の耳に入り、また王城に赴いてことの顛末を話す羽目になった。
話を聞いたアルバーは益々俺らに興味が湧いた様子で、何度も宮廷魔術師にならないかと提案をしてきた。その度にユエが「我はどこにも縛られるつもりは無いわ」と軽く一蹴していたが。
更に学園では学期末が近づいており、それに伴い期末試験も行われた。俺は勉強は苦手ではないので自分自身はそこまで苦戦しなかったが、マルシアとジェイドがどうも勉強が苦手らしく、メリアやコニーらと共につきっきりで2人に勉強を教える羽目になった。
そんなこんなであっという間に季節も夏を迎え、俺たち学園生は夏休みを迎えた。カトラス邸へと帰省した俺はというと、今までの多忙さの反動でここ2〜3日は何もしないぐうたらな生活を送っていた。
「おいルーナよ、休みだからと言ってこんな自堕落な生活を続けたら体に毒ぞ? ほれ、さっさと起きて特級魔術を覚える為の努力をしてはどうだ」
「誰のせいでこんな疲弊したと思ってるんだ? こういう時ぐらい少しは休ませてくれよ……」
「……事情は聞いとるが、ルーナの見た目でそんな喋り方をされたら違和感しかないな」
あれ以降、ユエはずっとクロウに憑依したままとなっており、俺が暇な時の良い話し相手となっている。だが、その時もルーナを演じるのは流石に疲れるので、俺はユエを信用し、俺が転生者であり、見た目はルーナだが中身は違うという事実を話した。
驚かれるかとも思ったが、ユエは「まあなんとなくそんな気がしてたわ」とあっさり受け入れてくれた。それ以来、俺はユエと話す時は素に戻って話している。
「努力をしろとは言うけどさ、なんかアドバイスとかは無いわけ? 例えばあの時みたいに技を実際に見せてくれるとかさ」
「そうしてあげたいのは山々なんだが……こやつに憑依している都合上、一度大きい魔力を消費してしまうと回復に時間がかかるみたいでな。当分は使えないと思うぞ」
「そっかあ……じゃあまた地道に魔力量を上げるしか無いか……」
「魔力を上げる鍛錬なら我も付き合うぞ。このままでは不便極まりないからな。……ふふ。魔力を鍛えるなんぞ、一体いつ以来かな」
そう言ってユエが懐かしげに微笑む。あれほどまでの魔術を使うユエがどんな鍛錬をしていたのか、興味がないと言えば嘘になる。
ユエとの話でようやく体を動かす決意がついた俺はベッドから体をなんとか引き剥がして起き上がる。そして着替えようとベッドから足を下ろした瞬間、自室のドアを激しくノックする音が聞こえてきた。俺が一声かけると、赤髪のメイド服の少女、カリアが転がり込むように俺の部屋へと入ってきた。
カリアはあの戦いで魔人に貫かれて右肩を負傷したが、メリアの懸命な治療により大事には至らなかった。このまましばらく安静に——と思っていたが、3日経った頃にはもうすっかり完治してしまい、むしろメリアの聖魔術のお陰で前よりも動きが良くなったと自負している。
フィジカル面でカリアの右に出る者はいないとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。流石のユエもカリアの体力お化けっぷりには驚嘆の表情を隠しきれずにいた。
そんな彼女に目を向けると何やら手紙らしきものを手に持っている。一体誰からだろうか。
「ルーナ様あ! ギース様からお手紙ですよお!」
「あら、ギース様から? 一体何かしら」
「おや、お主の想い人からか。さしずめお主への愛をしたためているのかな?」
「……やめてくださいユエ」
「ん? なんじゃ、恥ずかしがりおって。お前も存外初心だな」
「……こんな時まで茶化すのはやめてくださいまし」
ユエのにやけ顔を尻目に、俺はカリアから手紙を受け取って封を開ける。便箋にはギースらしい丁寧な文章で書かれていたが、要約すると親しい間柄同士で王城に集まるという、いわゆる夏休みの思い出作りだろう。
「なんじゃ、てっきり恋文かと……おや? 誘われてるのはお主だけでは無いようだぞ」
「あら、本当ですわね」
「もしかして、私も行っていいんですかあ?」
ユエに促されるように便箋に書かれている文の続きに目を通してみる。本人が期待している通り、そこには俺以外の招待者の名前が書いてあった。しかし、そこに書いてあったのはカリアの名前だけではなく、ダンの名前を記されていた。
「む、ダンとはここの料理長の名前だったな。なぜそやつが呼ばれているのだ?」
「ダンは王城に勤めているペパーという料理長と関わりがあるみたいです。恐らくその関係かと……」
「もしかして、ダンさんとペパーさんの料理を堪能できるのでしょうかあ? 楽しみですねえ」
「それは確かにそうね。よし、早速ダンにも声をかけましょう」
そうして俺たちは足早に厨房へと向かい、ダンに成り行きを説明した。最初は恐れ多いと言わんばかりの態度とるダンであったが、ペパーの名前を口にした途端、何やら意味深長な表情をして「ほう、あのペパーですか……」と小さい声で呟いた。
ダンとペパー、この2人が相対したら一体何が起きるのか、今から楽しみだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は18日投稿予定です。




