第五十五話「ご先祖が現れました」
お待たせしました。第五十五話です。
クロウに宿るのはあの人物……?
召喚していないのに突如として姿を現したクロウ。そしてそのクロウから発せられる、幼なさそうながらも威厳を感じられる女性の声。最初は何がなんだか分からなかったが、俺のことを子孫呼ばわりする存在は、俺の記憶には1人しかいない。
「ええっと、ユエ……さん? 一体何故クロウから声が?」
「敬称は不要だ。まあ話せば長くなるが……簡単に言えば、お主が書を開いたあの時、こっそりこのクロウとやらとリンクを繋がせてもらった」
「えっ……ということはずっと見てたのですか?! ギースと闘った時も、まさかユエが?」
「うむ、お主がいつ特級の闇魔術を習得するか楽しみでな。しかしあのギースという小僧、まだリンクが不安定で本領発揮できなかったとはいえ、我を簡単にあしらうとは……」
そう言いながら俺の肩で地団駄を踏むクロウことユエ。その言動と見た目のギャップに思わず和みたくなるところだが、忘れてはならない。今俺は戦いの真っ最中なのだと。
先祖と子孫の感動の再会も関係なしと言わんばかりに、ズタボロのワイバーンが捨て身で突進してくる。俺はそれに応戦しようとするが、ユエが左翼を大きく開いて俺を制止してきた。
「やれやれ、無粋なワイバーンじゃの。どれ、肩慣らしに少し相手してやろう」
するとユエはワイバーンの前に立ち塞がるように羽ばたくと、つんざくような鋭い声をワイバーンに向けて放った。
これはかつてギース戦との時に使用した『ビーストスクリーム』だが、一瞬だけ動きが硬直していたその時とは違い、目の前のワイバーンは動きが止まるだけでなく、その後すぐワイバーンが地に伏していた。
「な……何……この威力……」
「ふう、ようやくこやつの体にも慣れてきたかね。……さて、準備運動も終わったことだし、久々に本気を出してみるとしようか」
ユエはそう言い放つと上空にふわりと舞い上がり、全身から闇魔術特有の黒いオーラを発生させる。そしてそのオーラが腕のような形を成してゆっくりと、しかし着実にワイバーンたちに忍び寄る。
そして全てのワイバーンに腕がたどり着くと、ユエの眼光が怪しげな光を放った。その瞬間、まるでゾンビの如く暴れ回っていたワイバーンたちが一斉に動きを止め、そして次々と倒れていった。
「何……これ……」
俺たちが苦戦していたワイバーンらがあっけなく倒れていく様に、俺は空いた口が塞がらなかった。
やがて上空から戻ってきたユエは、そんな俺の様子を見て、自慢げに喋り始めた。
「今のは闇魔術の特級技の1つ『ソウルイーター』だ。用途は『お主がさっき使っていたワームドレイン』に似ておるが、吸収する効率も効果範囲も段違いさ」
「今のが……特級……」
「そうそう。お主も早くこれを使えるようになるのだぞ? 『ソウルイーター』特級の中でも比較的扱いやすい技だからな」
魔術書に書かれている技の内容を見るだけでも相当な魔力量や技術が必要だというのは分かっていたが、実際にこの目で見ると、自分との格の違いが否応無しに分かってしまう。
「おいおい……こりゃあ一体どういうことだよお! あいつらには大量の魔力を注ぎ込んだはずだぞ! 何故どいつもこいつも魔力がすっからかんになってやがる……!」
ユエの魔術に驚くあまりすっかり存在を忘れてしまっていたが、ワイバーンを支配していた魔人が怒りと驚きが混ざったような怒号を放ちながらこちらに向かって飛んできている。
やがて魔人は俺らの元に辿り着くなり、再び怒号を浴びせてきた。
「おい黒髪! こんな芸当ができるなんて聞いてねえぞ! 一体どんな手を使いやがった?!」
「いえ……今のは私ではなくこちらが……」
そう言って俺は右手で魔人の視線をユエの方へ誘導する。魔人はその姿をみるなり、ただでさえ開き気味な眼を更に見開いた。
「はあ? こんな鳥風情があの魔術を?! 冗談を程々に……」
「ふふ……その鳥風情にしてやられるのはどんな気分じゃ? え?」
最初はあり得ないと言わんばかりの態度をとっていた魔人だったが、ユエの声を聞いた途端急にへたりと座り込んでしまった。
「こ、この声……まさか……『闇の貴婦人』か……?! 嘘だ……なんでお前がいる!?」
「おやおや、その名で呼ばれるのも久しいねえ。お前さんも相変わらずこんなしょうもないことをしているのかい? 『クルト』よ」
「闇の貴婦人……? クルト……? ユエ、まさかこの魔人のことを知っていますの?」
「知っているも何も、こやつは我がまだ生きている頃に何度も我々の領地に攻め入ってきていたしつこいやつでの。なんでも魔界では闇魔術の使い手として名を轟かせていたとかなんとか……まあ、我の敵では無かったがな」
そう言ってユエは大きく高笑いをして見せる。情報が増えれば増える度、ユエという存在が分からなくなってしまう。
「くそ! 闇の貴婦人相手じゃ打つ手無しじゃねえか! こうなったら……逃げるしかねえ!」
そう言うなりクルトは超スピードでユエに背を向けるように逃げ出してしまった。
「あ、逃げられてしまいましたね」
「まあ追いかけられんこともないが……我がいると分かれば当分ちょっかいはかけんだろうし、今日はこの辺にしておこうかね」
今回の一件はひとまず落ち着いたが、ワイバーンの群れ、クルトという名の魔人、そしてクロウの中に潜んでいた先祖のユエ。あまりにも情報量の多さに俺の頭はすっかり重くなっていた。
その中でも俺は、負傷カリアが無事でいてくれていることを願いながら、彼女を守るよう指示したメリアとマルシアの姿を探した。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は15日投稿予定です。




