第五十一話「ワイバーンと対峙しました」
お待たせしました。第五十一話です。
ワイバーンの群れにルーナたちはどう立ち回るのでしょうか
既にワイバーンの群れと戦闘を始めていた王族騎士団の統率力は見事なもので、俺たちが到着した時にはもう、まだ数は少ないが地に伏している個体も確認できた。だがそれは、騎士団も同様だった。
その状況を見たジェイドは低く響き渡る声でこちらへ指示を飛ばしてきた。
「騎士たちは対空陣形を組んで俺と共に加勢! 後方支援組は怪我人の処置を急げ! ……誰1人死ぬんじゃねえぞ!」
ジェイドの声に鼓舞された騎士たちが唸るように続々と声を上げる。一声かけるだけでみんなの士気が爆発的に上がる、ジェイドのカリスマ性には一目置きたいところだ。
そんなジェイドたちが王族騎士団に加勢している間、後方支援組を任された俺たち4人はすぐさま横たわっている者たちの元へ駆けつけた。そこでは既に回復魔術を扱える魔術師たちが処置を行なっていたが、倒れている者たちの呼吸が浅くなり始めている。俺はすぐ近くにいた、おろおろしている様子の魔術師に声をかけた。
「この者たちの容態は……!?」
「え、援軍?! 助かったあ……。えっと、ここにいる騎士たちはみんなワイバーンの持つ毒にやられてしまったみたいです。でも我々の回復魔術や薬草では全然効き目がなくて……どうしましょー!」
ワイバーンの尻尾の棘からは強力な毒が分泌されている。毒というのは多種多様な為、対抗策の用意が困難を極めるだろう。だが、だからといって見殺しにしてしまうわけにはいかない。幸いなことに、こちらには回復魔術のスペシャリストであるメリアがいる。この状況を打破できるのは彼女の他いないだろう。
「メリア! この者たちの毒を治せるかしら?!」
「……はい! 私にお任せください!」
俺の問いに自信と覚悟で満ちた表情でメリアは答えた。すぐさまメリアは1番近くの怪我人のそばへ駆け寄ると、その場で跪いて祈りを捧げるように両手を強く握りしめた。メリアと怪我人が淡白い光に包まれ始めたのが、魔術で治療している合図だ。
最初は息も絶え絶えだった怪我人であったが、次第に呼吸が落ち着き、蒼白だった顔色も元に戻り始めている。どうやら効果的面のようだ。
「どうやらうまくいったみたいですわね! メリアさん!」
「メリア! この調子でどんどん治療をお願い!」
「わ、分かりました……!」
1人目の治療を終えたメリアはすぐさま次の怪我人へ近づいて魔術を使い始める。このままメリアが治療していけば毒は治るだろう。しかし、これを1人ずつやっていくとなるとどうしても時間がかかってしまう。そうなれば、後半になるにつれ手遅れになる者が出てきてもおかしくはない。
(アレを使うか……? いやでも流石にあれを使うのはなあ……)
一応俺にも毒を治す方法が無いわけではない。だが、その方法がどうしても生理的に受け付けないのだ。だが、メリアの体力や魔力がいつまで続くかも分からない。ここは腹を括るしかない。
覚悟を決めた俺は急いで怪我人の1人の元へ駆け寄り、その者へ忠告するように問いかけた。
「あの、今から貴方の治療をしますが……何があっても絶対に騒がないでください。——よろしいですわね?」
「な、治せるのならなんでも構わない! やってくれ……!」
相手からの了承も得られたので、俺はいよいよその魔術を発動させる。魔力を両手の指に集中させると、次第に指が影のように黒く染まり始め、やがてそれがうねるように伸びて怪我人の体の各所へと食いついていく。
「ひ……ひいい! なんだこれ! 気持ち悪い!」
「ちょっと! 騒がないって約束しましたわよね?!」
そうは言うが正直これは使用者の俺でもかなり気色悪い。対象者の毒などの状態異常に反応して食いつき、そしてそれを魔力に還元する闇魔術『ワームドレイン』だ。名前の通りワームみたいな見た目をしている為、俺の体の一部がとんでもないことになっていると考えただけで虫唾が走ってしまう。だが、見た目に反して状態異常治療の効果に関しては折り紙つきだ。
「ひいい! やめ……あれ? 体が軽くなった……?」
「良かったですわ。無事毒が抜けたみたいですわね」
「いやあ、助かったよ。……すまないね、気持ち悪いなんて言っちゃって」
「いえ、見た目が気持ち悪いのは事実ですから……。ほら、まだ怪我が治ったわけではないですから、安静にしてくださいませ」
そう言って治療した怪我人を寝かせ、俺は次の怪我人の元へと向かった。その者は先ほどの治療の様子を見ていたのか、俺が話しかける前に声をかけてきた。
「俺は騒いだりしないからよ……早く治してくれ……」
「承知しましたわ。では、行きますわよ……」
またしても俺は自分の指をワームのように変形させ、怪我人の治療にあたった。先ほども説明した通り効果は抜群だが、ワーム状になっている部分のうねりは自身では制御できない為、それを上手くいなすには集中力が必要だ。俺は意識を一点集中させて、全力で治療にあたった。しかし、それが命取りになってしまった。
「ルーナ様あああ!!」
誰かの呼ぶ声に意識を引き戻された俺は、背後からの強烈な気配を感じ取り急いで振り向いた。その振り向いた先で俺の視界に飛び込んできたのは——俺に向かって振り下ろされる、ワイバーンの歪な尻尾だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は7月3日投稿予定です。




