第四十八話「最上のケーキを堪能しました」
お待たせしました、第四十八話です。
いよいよ噂のケーキとご対面です。
「美味しい……美味しすぎわすわ〜!」
「ほわあぁ……ほっぺが蕩けそうですう……」
王城での様々な出来事から数日後の放課後。ペパーとの料理対決で見事超有名スイーツ店『ミニョンスヴニール』の優先チケットを手にした俺たちは、早速店に足を運んでいた。俺たちが到着した時点では既に全て売り切れてしまっていたようだが、外にいた店員にチケットを見せた途端流れるように店の中まで案内された。更に中に入ってからはオーナーであるプラン氏自ら接客対応するという優遇っぷりだ。
ケーキがプランの手によって目の前に運ばれて来るや、この日を待ちに待っていたというマルシアとカリアの2人は目にも止まらぬ速さでケーキを口に入れていた。もう少し節度を保って欲しいところだが、俺の眼前に置かれているケーキも見るからに美味しそうで今すぐにでもかぶりつきたいくらいだ。2人のタガが外れるのも無理はない。
メリアはどんな様子かと思いチラッと目線を動かしてみると、ケーキを掬わんとしているフォークを持つ右手が小さく震えているのが分かった。カトラス家や王城でもそうだったが、メリアは格式高いところに来ると緊張しいになってしまうようだ。まあそれも彼女の真面目さ故だろう。
メリアがなんとか一口分のケーキを掬うのを確認してから、俺も同様にケーキを一口分切り分けてから口の中に入れた。
「美味しい……こんな繊細な味わいのケーキは初めてですわ」
「ふふ。こんなに美味しそうに食べてもらえるとは、パティシエ冥利に尽きますね。白髪のお嬢さんはどうだい?」
「……」
「メリア? どうかなされたの?」
プランに問いかけられても一切反応が無いメリアが気になり再び視線を向けると、メリアは明後日の方向を見ながらすっかり上の空になっていた。だが完全に呆けているわけでは無いようで、その顔は完全に緩みきってしまっていた。
「……その様子なら聞かなくても分かるわね。たまにいるんですよ。初めて私のケーキを食べた途端、未体験の味わいにしばらく動かなくなってしまう人がね」
「そ……そうなんですの……」
話のスケールの大きさに目まいが起きそうになる。だが、このままメリアを放っておけば、既に食べ終わってしまったが故に虎視眈々とメリアのケーキを見つめているマルシアとカリアに奪われかねないので、急ぎメリアの意識を呼び戻すこととした。
数分後、ケーキを食べ終えた俺たちは食後の紅茶を嗜んでいた。いつもならばティーカップ片手に他愛ない話に花を咲かせるところだが、今回は全員がケーキの余韻に浸ってしまっている。
店内を包む慎まやかな空気に思わず瞼が閉じそうになったが、そんな優雅な雰囲気は店の扉を勢いよく開ける音によって吹き飛んでしまった。
「久々に来たぜプランさん! いつものやつを頼む!」
「あら、お久しぶりですね。お席に座ってお待ちください」
俺たちと同じくチケットを持っていたらしい人物が、プランと軽く挨拶を交わして席のあるこちら側へ歩みを進める足音が聞こえてくる。いつものやつで通用したということは、どうやらかなりの常連のようだ。しかし、口調といい声質といい、いやに聞き覚えのある話し方をしている。
「あれ、ルーナに3組の2人じゃねえか。こんなとこで会うなんて奇遇だな!」
「……あら、ご機嫌ようジェイド様」
俺の記憶は間違いなかったようで、来店してきた客はジェイドだった。しかし、何故ジェイドがここにいるのだろうか。
「その……何故ジェイド様がこちらに?」
俺の疑問はみんな共通だったようで、メリアが恐る恐るな様子でジェイドに質問を投げた。
「何故って……ケーキを食いに来る以外何があるんだよ」
「ええ?! ジェイド様はてっきり『俺は甘いものは好かねえ!』っていうタイプだと……」
「先入観に囚われすぎだろお前ら。……っていうか『何故ここにいる?』はこっちの台詞だ。お前らここ初めてだろ? チケットは何回も足繁く通ってようやくゲットできる代物だってのに、一体どうやってチケットをゲットしたんだ?」
「それは……」
俺はジェイドに事の顛末を説明した。一通り聞き終えたジェイドは納得しながらも深く溜め息を吐いた。
「なるほど、あのうろつき王子ねえ……。確かにあいつならゲットしててもおかしくはねえな。それにしても厄介なやつ好かれたもんだな。同情するぜ、ルーナ」
「ジェイド様も……仲間だったのですね」
どうやらジェイドもゼノに振り回される一員だったようだ。ゼノとはどんな関係なのか気になるところではあるが、ゼノのことを話したジェイドは虚ろな表情を浮かべてしまっている。……ここは触れないのが正解だろう。
そうこう話している内に、ジェイドの元にもケーキが運ばれてきた。気分転換に一口ケーキを放り込んだジェイドは、今度は違う話題でこちらに話しかけてきた。
「そういやルーナ、この前グリフォンを1人で討伐したんだってな。流石、俺から一本取ったやつは一味ちがうな!」
「……ありがとうございます」
ジェイドは豪快に笑いながら俺に賛辞を送ってくる。だが、国王にも話した通りあれは討伐というよりただの鬱憤晴らしだったので、俺としては素直に褒め言葉を受け取るのは少し気が引ける。そんな俺の思惑を知る由もないジェイドはお構いなしに話を進める。
「そんなルーナに頼みがあるんだが……俺たちに協力してくれないか?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は24日投稿予定です。




