第四十七話「料理対決をしました(後編)」
お待たせしました。第四十七話です。
料理対決でルーナが作ったものとは……
「タイムアーップ! 調理時間終了だよ〜!」
時が経つのはあっという間で、料理に熱中している内にいつの間にか制限時間を迎えたようだ。
料理をしていた60分は、それこそマルシアとメリアに助けられっぱなしだった。メリアは元々お菓子作りなどで料理経験は豊富。園芸に長けているマルシアも、食材(特に野菜)の目利きで一役買ってくれた。2人がいなければ、制限時間内ギリギリで完成させるのが精一杯だっただろう。だが、お陰で俺は味の調整に集中することができた。
完成した俺たちとペパーの料理を、ゼノが審査員3人の御前に並べていく。あくまでどちらが作ったか分からないようにして、公平性を保つ為だそうだ。
「わあ……! どちらも美味しそうですねえ!」
「片や具沢山のシチュー、片や具が一切無いスープですか。これは実食が楽しみです」
前者の具沢山シチューを作ったのは俺たちだ。俺がルーナになって初めて食べた思い出の料理を可能な限り再現してみた。俺の心を動かしたダンの料理が、3人の舌をも唸らせると信じよう。
一方、後者のスープを作ったのはペパーだろう。ユウラが説明した通りスープに一切具は入っておらず、その黄金色の液体は皿の底がはっきり見えるほど透き通っている。自分たちのことに夢中になっていた為ペパーがどんな方法で調理していたのかは分からないが、60分でこのクオリティのものを作るのは至難の業だろう。王族直属料理長の名は伊達ではない。
「じゃあ早速実食タイムと行こうか。ギース、どっちから食べる?」
「では、スープからいただこうかな」
そう口にしたギースは、宣言通りスープを一口静かに飲み込んだ。カリアとユウラもギースに続いてスープを口に運んだ。審査員の3人はしばらく無言でスープを飲み続けたのち、ギースが口を開いた。
「うん、とても美味しいね。恐らくいくつかの野菜から出汁をとっているけど、それぞれが上手く調和してまろやかな味わいになっているね。舌によく馴染むよ」
「それに、スープの温度もちょうど良い加減です。熱すぎず、それでいてしっかりと温かみを感じられます」
「あったまりますうぅ……」
ギースとユウラの食レポは見事なもので、聞くだけで味が容易に想像できる。かの有名な、海鮮丼を宝石箱に例えた某グルメリポーターにも引けを取らないだろう。
この流れでカリアにも名食レポを期待したかったが、たった一言で終わってしまったのは色んな意味で彼女らしい。
審査員らの賞賛の嵐に、当のペパーも心なしか顔が緩んでいるように見えた。やはり褒められて嬉しくない人はいないだろう。
「さて、次はシチューだね」
遂に俺たちのシチューの番が来た。先ほどまでは自信満々だったが、こういったシチュエーションでは否応なしに緊張してしまう。胸の前で強く手を握っているメリアと、ソワソワして落ち着かない様子のマルシアからの緊張も、これでもかと言わんばかりに伝わってくる。やはり皆気持ちは同じようだ。
スープの時同様、審査員3人は無言でシチュー食べ進めた。だが、数口食べた時点でユウラが右手に持っていたスプーンをテーブルに置き、両手を着いて勢いよく立ち上がった。もしやと思い彼の両隣に座るカリアとギースに目をやるが、その2人もやや俯き加減のまま手が止まってしまっている。――もしかして、何かやらかしてしまったのだろうか。最悪なパターンも頭に思い浮かんでしまった俺の心臓は、未だかつてないほど速い鼓動を打ち続けていた。
そんな不安で押し潰されそうになっている中で、立ちすくんでいたユウラがようやく顔を上げて口を開いた。
「美味しい……美味しいです……!」
「――ええっ?!」
俺たちが驚いたのは、ユウラ賞賛の言葉が出たからではない。――ユウラが涙を流していたのだ。
「これを言葉で現すには私の語彙力では難しいですが、ただ一つ言えることは……これを食べた瞬間、実家のことを思い出してしまいました……!」
「……うん。いつも食べている訳では無いのに、まるで幼い頃から食べていたような感覚に囚われるよ。これは……凄いね」
「あったまりますうぅぅ……!」
ギースは涙こそ流していないが、必死に我慢しているのがコメントの端々から窺える。カリアのコメントも先ほどとまるで変わらないが、人目をはばからず涙を滝のように流している。まだ決まった訳ではないが、これは確信しても問題ないだろう。
「これはもう聞く必要も無さそうだけど……一応どちらを選ぶか聞いてみようかな?」
「そうだね……僕はもちろんシチューに1票入れるよ」
「私も、シチューにさせてもらいます……!」
「私もですううう……!」
「やっぱりねー。……というわけで、今回の料理対決はシチューを作ったルーナチームの勝利ー!」
ゼノから勝者であること告げられた途端、みんなに釣られてか思わず俺も涙を流しそうになった。勝ったことももちろん嬉しいが、ダンの料理がみんなに認められたことが何より嬉しかったからだ。もちろん賞品も嬉しいが、この大会においてはこれ以上の喜びは無い。
「何故だ……何故私は負けたのだ……」
安堵に胸を撫で下ろそうしたのも束の間、ペパーが歯をキリキリとさせて悔しさを露わにしているのを見つけた。彼に一声かけようかと一歩踏み出そうとしたが、それよりも早く、ギースがペパーの元へ近づいていた。
「その理由を知るには、こうするのが一番手っ取り早いんじゃないかな?」
そう言うとギースはシチューをペパーに差し出した。受け取ったペパーは恐る恐るシチューを一口分掬い、そのまま口の中へと入れた。するとその瞬間、ペパーの目が今まで以上に大きく開いた。
「こ、これは……ダンの味?!」
「その通り。ルーナの師匠は、かつてペパーがライバルだと言っていたダンなんだよ」
「ライバルと言っても、ダンには一度も敵わなかったですがね……。結局今回も、ダンに負けてしまったようです」
これは後から聞いた話だが、ダンとペパーはかつて同じレストランで働いていたことがあるそうだ。そこで品評会がある度に、ペパーはいつもダンに勝負を挑み、負かされていたとか。……まさか、またダンに助けられる日が来るとは思わなかった。これはダンに足を向けて寝られないな。
かくして、料理対決は見事俺たちが勝利し、賞品のケーキ屋チケットも見事勝ち取ったのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!次回は21日投稿予定です。




