第四十六話「料理対決をしました(前編)」
お待たせしました。第四十六話です。
ルーナとペパー、審査員の心を動かす料理を作るのはどちらなのか.……!
「さあやってまいりました、史上最高峰の料理対決! なんとあの我らが料理長ペパーがルーナに挑戦状を叩きつけたみたいです! 果たして運命やいかに〜!?」
「ゼノ様は一体、何をしておりますの……?」
「さ、さあ……?」
突如として実況者風の台詞を口にするゼノに俺とメリアは困惑を隠せずにいた。そのあまりの饒舌さにこの世界には無いはずのマイクが彼の手元にあると錯覚してしまいそうな程だ。一体どこで覚えたのか。
「恐らく、城を抜け出した先の闘技場などで聞いたものを真似しているのでしょう。……ゼノ王子の放浪癖には困ったものです」
と、俺たちの疑問を払拭しながら現れたのは、朝俺たちを城まで案内してくれた騎士団の副団長だ。
「そうだったのですね。……ところで、何故副団長様がこちらに?」
「私めに敬称は不要ですよ。ユウラとお呼び下さい。……私がここにいるのはゼノ王子に呼び出されたからですよ。まあ十中八九、この催しの審査員になれと仰るつもりでしょう。全く、私も暇ではないのですがね……」
城の前でゼノを叱っていた時と同様、ユウラは片手で頭を抱える仕草を見せる。同じくゼノに振り回れている身として、ユウラの気苦労には同情せざるを得ない。
さて、そんな調子のゼノが発表したルールの概要はこんな感じだ。まず俺とペパーが制限時間1時間以内に決められたお題に沿った料理を作る。料理の際は1人だけアシスタントをつけても良いとペパーから進言があったので、今回はメリアに手伝ってもらうことにした。
そしてその料理たちを3人の審査員が食べ、どちらがよりお題に相応しいかを多数決にて決める。その3人は、まず1人目は本人の予想通り騎士副団長のユウラ。2人目は何故か意気揚々と立候補したカリア。そして3人目は――
「またゼノ兄様から呼び出されたと思えば……今度は何をするつもりですか?」
「何って……今からギースをかけた熱いバトルが始まるのよ? そんな2人から手料理を振る舞ってもらえるなんて兄ちゃん羨ましいぞー? このこのー!」
右肘で横っ腹をグリグリしてくるゼノに対してギース深く溜め息をついた。だが、そんな彼の表情は嫌がるどころかまんざらでも無さそうにしている。兄弟の信頼から来るものか、それとも本当に俺たちの料理を食べられるのが嬉しいからなのかは、今の俺には知る由もない。
ひとしきりギースを弄り終えたゼノは満足気にギースの傍から離れると、軽く咳払いしたのち再び実況者ばりに舌を振るった。
「さてさて、審査員も紹介し終わったところで、お待ちかねのお題発表〜! 今回のお題はズバリ! 『心温まる一品』! じゃあ早速始め……」
「ちょっとお待ち下さいまし!!」
バトル開始を高らかに宣言しようとしたゼノだったが、それよりも更に大声で待ったをかけたマルシアに制止されてしまった。先ほどまで彼女はノリノリであったはずだが、何か不都合でもあったのだろうか。その場の全員がマルシアに注目する。
「私は……?! 私に何か役目はありませんの?!」
「あ……」
マルシアの悲痛な叫びが部屋に響き渡った瞬間、全員の動きがピタリと止まった。賞品であるケーキ店の優先チケットを1番楽しみにしていたと言っても過言ではない彼女のことだ。この対決における気の入りも人一倍だったであろう。それなのに彼女抜きで大会が始まろうとなれば、マルシアが制止するのも言語道断だ。
だが他に任せられる役割が無いのも事実。全員がどうしたものかと頭を捻る。そこからしばらくの間重苦しい空気が場を支配していたが、その光明となる発言をしたのは意外にもペパーだった。
「……ルーナ様。もしルーナ様が望むのであれば、マルシア様もアシスタントに加わって構いませんが、どうでしょう」
「ええ、私は構いませんが……よろしいのですか?」
「元より1人と進言したのは私です。私が良いと言えば、良いのです」
「ッ……! ペパー様〜! ありがとうございます〜!」
ペパーの温情に喜びを隠しきれないマルシアは、ペパーの手を取り腕を上下にぶんぶん振り回している。当のペパーはマルシアの眩しいくらいの天真爛漫さに少々気圧されている様子だったが、ひとまずこれで一件落着だ。
「よし、じゃあ改めて……料理対決スタート!」
ゼノ宣言と共に俺たちは厨房へと足を踏み入れた。調理場や器具は隅々まで丁寧に手入れされており、用意されている食材も新鮮かつ状態の良いものばかり揃っている。これには感嘆を禁じ得ない。
そんな俺たちを尻目に、ペパーは慣れた手つきで食材を選定し、早くも下拵えを始めていた。それを見たマルシアが焦った様子で話しかけてくる。
「わわっ……ペパーさんがもう既に調理を! 私たちも早く始めなければ……!」
「落ち着きないマルシア。時間はたくさんありますし、作る料理と段取りは既に決まっていますわ」
「……そういえばルーナ様、今回は何をお作りになるのですか?」
「ふふっ、それはね……」
俺は2人を近寄らせ、ペパーが聞こえないくらいの小声で今回の作戦を伝えた。『心温まる一品』というお題を聞いた瞬間、俺の脳内には瞬時にあの料理が思い浮かんだ。俺の作戦と考えをひとしきり聞き終えた2人は、揃って目を輝かせていた。
「確かに、ルーナさまにとってそれ以上お題に合っているものはありませんね!」
「これは勝ったも当然ですわね!」
2人の士気が高い今なら、あの時食べたあれに限りなく近い味が作れるような気がする。俺の原点となった、あの味に。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は16日投稿予定です。




