第四十五話「またもやスイーツに釣られてしまいました」
お待たせしました。第四十五話です。
ルーナを見つめるペパーの思惑とは……
ペパーは俺と目が合っても身動き一つ取らず、こちらをただ睨むように見つめ続けていた。俺もなんとか笑顔で取り繕ってはみるが、このままではペパーの意向が全く分からずじまいだ。はてさてどうしたものか……。
「ちょっとペパー、相手はお客さんだよ〜。僕らじゃ無いんだし、言いたいことはちゃんと言わないとだよ〜」
ちょうど困っていたところに、痺れを切らしたのかゼノが助け舟を出してくれた。……というかゼノたちはペパーが言葉を口にしなくても考えていることが分かるのだろうか。俺には到底理解できないが。
「……失礼。では単刀直入に申します。ルーナ様、私と料理の腕を勝負してもらえますか」
「……え? 私と料理で勝負? 話が見えないのですが……」
「だからペパー、ちゃんと言わないと分からないってさっきも僕言ったでしょ? も〜、口下手は相変わらずなんだから」
「失礼。では、理由を説明します。……最近、ギース様が貴方の作るものが美味しいと嬉々として語られるのです。おにぎり……と言ったでしょうか。あれは至高の一品だと、私にも自慢げに話してくるのです。食事の時は表情一つ変えること無く、ただ淡々と食べていたあのギース様が、です。だから私は、ギース様が食に楽しみを見出してくれたことがこの上なく嬉しいのです」
ペパーがギースの過去を話し始めた時、少しだけ表情が柔らかくなったような気がした。ファーストインプレッションこそダンとは違ったが、やはり食べてくれる人のことを想う、料理人の根底は同じなのだろう。ペパーの話に思わず目頭が熱くなってしまった。だが、その良い話ムードはペパーの先ほどまでとは違う声色によって上書きされた。
「しかし!嬉しさと同時に悔しさも込み上げてきたのです。できればその役目は、私であってほしかったと! ……私も王族直属の料理長としての矜持があります。ですので、その役目を奪われた貴方に勝って、今一度ギース様に私の腕前を認めてほしい! ……これが、ルーナ様に勝負を挑んだ理由です。身勝手な理由だとは重々承知しています。ですがどうか、引き受けてはくれませんか……!」
そう言ってペパーは俺に頭を下げてくる。……彼の言い分もごもっともだ。自分の役割だったものが、ぽっと出のやつ奪われたらとあれば、悔しくて堪らないだろう。俺が逆の立場だったとしてもそう思うはずだ。職人気質の彼ならば尚更だろう。
だがしかし、勝負を受けてあげたいのは山々だが俺にメリットが無いのも事実だ。彼に勝ったという実績はつくが、それだけではいかんせん乗り気になれない。
どうしたものかと辺りを見回してみると、ゼノが何やら数枚の紙を片手に持ちながら、見せびらかすようにひらひらとはためかせている。マルシアたちもそれに気づいてゼノに視線が向いたその刹那、マルシアの態度が豹変した。
「ゼノ様、まさかそれは……!」
「おや、マルシアちゃんは博識だね〜。そう! これは今街で大人気のケーキ屋『ミニョン スヴニール』の優先入店チケットだよ〜」
「ミニョン……?」
「スヴニール……?」
「えっ、まさかお2人とも……」
「ご存じないのですかあ?!」
聞き覚えのない名前に首を傾げる俺とメリアに、意外にもカリアまでもが驚きの声を発した。カリアは居ても立っても居られない様子で俺に猛スピードで近寄り、やや食い気味にケーキ屋の魅力を力説しだした。
「ミニョンスヴニールとは! かの有名パテシィエである『プラン・ミシェール』氏が所属している有名パティスリーなのです! 彼女が作る洋菓子はそれはとても繊細な味わいで、天にも昇る心地になるとか! ……ですがその繊細さ故に大量生産が難しく、1日に販売される個数にも限りがあるのです。その為に開店するよりも遥か前の時間から店の前で待機する人も少なくありません!」
若干引いてしまいそうなくらいの熱量で語るカリアに、マルシアも言葉を続ける。
「ですが、ファンの間でまことしやかに囁かれている噂がありまして、それが例えどんな状況でも必ずケーキを優先して提供してくれる幻のチケット……まさかここで実物を見られる日が来るなんて……!」
「ふふ、凄い食いつきっぷりだね〜。――さてルーナ、もし君がペパーとの勝負を引き受けて、もし勝てたらこれを君たちにあげると言ったら……やってくれるかい?」
「ルーナ様! ぜひ受けましょう!」
「お願いしますうう! ルーナ様ああ!」
ギースの件といい、ゼノの用意周到さには恐れ入る。流石は次の国王筆頭候補といったところだろうか。……またゼノの口車に乗るのは癪だが、マルシアとカリアの熱弁に応えなければ男(?)が廃るというものだ。ここは腹を括る他ないだろう。(正直自分も食べてみたいと思っているのはここだけの話だ)
「……分かりましたわ。不肖ルーナ、ペパーさんのお相手を引き受けましょう!」
その言葉を聞くや否や、カリアとマルシアは互いに抱き合って喜びを分かち合っている。
メリアはそっと俺に近づいて「武闘大会の時を思い出しますね」と微笑みながら囁いてきた。確かに武闘大会もスイーツビュッフェ食べ放題に釣られて参加を表明した。俺は自分のことをここまで現金な人間だとは思わなかったが、やはりスイーツの魅力には抗えない。――やるからには絶対、ものにしてみせようではないか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は13日投稿予定です。




