第四十四話「王族の料理を堪能しました」
お待たせしました、第四十四話です!
王族のご飯ってどんな味なんでしょう……
「ルーナ様、大丈夫ですか?」
「……メリアはこの有り様が大丈夫に見える?」
王城への訪問、国王への謁見、そしてギースのお姫様抱っこにマルシアからの質問攻め。まだ時計の針は12時を回っていないというのに、俺の心身は既に満身創痍だった。今は来賓室に備え付けられているソファに、令嬢らしからぬ姿勢で横たわっている。
「ああ……おいたわしやルーナ様……」
「あなたね……」
どうやらマルシアは俺の醜態の一要因になっている自覚がまるで無いようだ。いつもなら軽口の一つや二つ言ってやるところだが、何かにせき止められているように思考が回らない。ここまで疲れたのはコニーとゴーストステップの訓練をしていた時以来だろうか。
マルシアのことはさておき、このままでは本当に一歩も動けそうにない。せめて何か口に入れたいところだが、生憎持ち合わせが無い。俺と同じく急いで準備してきたメリアとマルシアの2人も同様だろう。
最悪ギースに持ってきてもらえるかお願いしようという考えが頭をよぎったその時、部屋の隅で待機していたカリアが何かを察したかのように、小走りで俺に向かってきた。
「ルーナ様あ、少々口を開けてくださいねえ。はい、あーん」
カリアに言われるがまま、雛鳥のように俺は口を広げて待機した。するとすぐさま、俺の舌の上に固形物が放り込まれた。それを噛み締めてみると、ほろ苦さと酸味、僅かな甘味が口の中に弾けた。
「これは……チョコレートですわね。しかも、その中けっこうカカオ含有量が多いものね。ありがとう、カリア」
「いえいえ。……失礼ながら最近ルーナ様々はお体の弱さを顧みずに無茶をされることが多いですから、こういうこともあろうかと準備は万全ですよお!」
「そ、そう……助かりますわ」
信頼されてるのか貶されているのかは分からないが、カリアの選んだ高カカオチョコレートは貧血気味のルーナの体には持ってこいの代物だ。この場はひとまず善意として受け止めておこう。
カリアからチョコレートをもらってしばらく休んでいると、体を起こせるくらいまでには回復した。起床して一息ついたタイミングで、誰かが部屋を訪ねるノック音が鳴った。カリアがそれに対応すると、「大事な用がある」と俺を置いてけぼりにしたゼノが手をヒラヒラ振りながらそこに立っていた。
「やあルーナ、具合の方はどうだい?」
「……先ほどまで最悪な気分でしたわ。主に貴方のお陰で」
「え〜、僕そんなに嫌われることしたかなあ?」
理解していながらも尚おとぼけを繰り広げるゼノ。俺がもう少し元気ならば軽い一撃をお見舞いしたいところだ。そんな歯を食いしばるしかない俺の心情を汲み取ったのか、メリアが静かにゼノの前へ歩み寄った。
「ゼノ様、今後ルーナ様のお心を弄ばれるような行為は謹んでいただけると幸いです」
「えっと、メリアちゃんだっけ? これはほんの出来心というか……」
「……理由は関係ありません。もう一度言います。今後こういった行為はお控えください。――いいですね?」
「……はい」
俺からは表情が見えないが、ゼノの反応を見るにメリアの凄みが乗っかった微笑みに圧倒されたのだろう。かつてそれを目の当たりにしたことがあるカリアも思わずたじろいでいた。国の王子ですら手玉に取るとは、メリアが味方で良かったとつくづく思う。
「さあゼノ様。ここに来られたということは何かご用向きがあったのですよね?――簡潔に、お願いします」
「あ、はい。もうすぐ昼時だから一緒にみんなもどうかなってね。どう? 普段僕たちがどんなものを食べてるか気にならない?」
ゼノの提案に、俺は少し心が弾んだ。ルーナに転生する前ならば興味すら湧かなかっただろうが、ルーナになってからダンから料理を教わった手前、様々な料理に興味を持つようになってきている。料理人の端くれとして、王族直属の料理人たちの腕前は是が非でも確かめたいところだ。
俺たちはゼノの提案を二つ返事で了承し、そのゼノの案内で普段彼らが食事をしている食堂へと向かった。その道すがらは、メリアが余程ゼノを警戒していたのか、ピッタリと俺のそばについて離れなかった。
やがて食堂に辿り着くと、そこにはもう俺たち4人分の料理が既にテーブルに並べられていた。そしてその傍らに、コックコートに身を包んだ男が待ち構えていた。その男はダンにも引けを取らない恰幅であったが、優しげな雰囲気のダンとは異なり、妙な威圧感すら覚えた。
「紹介するね。こちらは王族直属の料理長を務めているペパーだよ」
「……よろしくどうぞ」
典型的な職人気質タイプなのだろうか、第一印象を裏切らないぶっきらぼうな挨拶をするペパー。だが、転生前の世界でも、こういうタイプの人が作る料理は絶品と評されることが多い。これは期待大だ。
早速席に座り並べられている料理たちを確認してみると、ロールパンにスープ、サラダと簡素なものであったが、口に入れればそれら一つ一つがこだわり抜かれているのが分かった。パンはふんわりしており、スープも味わい深く、サラダに使われている野菜の鮮度も抜群。正直非の打ち所が見当たらない。流石は王族の料理長といったところだ。メリアら3人もその美味しさに舌鼓を打っている。
用意されたもの全て美味しくいただいた俺は感謝を伝えるべくペパーの姿を探すと、いつの間にかペパーは俺の背後に佇んでいた。驚きそうになったのも束の間、そのペパーはどうやら何か言いたげな様子で俺をじっと見つめ続けている。また一波乱起きそうな予感に、俺は思わず身震いしてしまった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!次回は10日投稿予定です。




