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第四十三話「国王と対話しました」

お待たせしました、第四十三話です。

国王を前にルーナは何を話すのでしょう……

 入学してからずっと悩まされてきたギースとの婚約話。ギースの想いに頑張って応えようと不意に抱きついてみたこともあったが、正直なところ全然決意が固まっていない。

 もちろんギースが嫌いというわけではない。寧ろゲームをしていた時よりかなり好印象だ。だが、やはり彼を恋愛対象として見ることができない。単純に性別の話ではなく、1人の友人としか彼を見ることができないのだ。

 ……いや、それも建前だろう。本音を言えば――怖いのだ。俺が知っているのはあくまでメリアと攻略対象たちが結ばれた世界線。もし仮に俺とギースが婚約を結んだとすればゲームのルートからは大きく逸脱することになる。そうなった場合、その世界線でルーナはどうなるのか、全く予想がつかないのだ。


 だが、どんな理由であれ王族との婚約を相手側から破棄するなんて命知らずのやることだ。ましてや国王の前でそれを実行するなど以ての外だろう。保留するのも手だが、どういう場であれ答えの先延ばしは良い印象を与えることはないだろう。

 肯定も、否定も、保留もできない。アルバーの問いにどう答えれば良いのか、俺の脳は擦り切れるかと思うくらいフル回転していた。

 すると、俺の逡巡が伝わったのかアルバーが柔らかい目つきで質問に答えあぐねている俺をみながら口を開いた。


「心配しなくとも良いぞルーナ。これは国王としてではなく、1人の父親として聞いている。ここで君がどう答えようとも咎めるつもりは無いから安心しなさい」


 その言葉や視線に、俺は胸がすくようなデジャヴを覚えた。それは武闘大会の前、両親が俺に向けたものにそっくりだったのだ。

 その時、ルーナの両親が婚約の話を知った時も、身分に関することは一切言及していなかった。あくまで1人の知人――異性としてきちんと向き合えと言ってくれた。もちろん口に出さないだけなのは百も承知だ。だが、いかなる立場でも親が子を想う気持ちは変わらないのだろう。ギースも、良い父親に恵まれたな。


「ありがとうございます。では、率直に述べさせていただきますわ」


 そう言って俺は深く息を吸い込み、アルバーに向き直ると思いの丈を語った。


「正直、まだ決めかねております。もちろんギース様はとても魅力的な方です。そんな方とお近づきになれたことは身に余る光栄ですわ。……ですが、私はギース様のことは1人の親友として見ています。この関係が、今の私にとっては大変心地良いのです。いつになるかは分かりませんが……ギース様からのご好意を受け入れる覚悟が決まるまでは、この関係でいさせていただきたいのです」


「フム……出会ってまだ数ヶ月だと言うのにそんなにギースのことを信頼してくれているとは、父親としては喜ばしい限りだね。まだ出会って間もないわけだし、ゆっくり決めるといいよ」


「はい……! ありがとうございます!」


「まあ、君みたいな()なら僕としても大歓迎だよ。聞いた話だと貴重な闇魔術に長けているみたいだし、宮廷魔術師として迎え入れるのもやぶさかではないかもねえ……」


「はは……善処しますわ」


 アルバーのにやけ顔を見る限り、本音は後半部分に集約されているのだろう。ギースの婚約者であれ宮廷魔術師であれ、稀有な闇魔術の使い手が他国に流れるのを防ぎたいのだ。少しは人間らしいところもあると思ったが、やはりどこかいけ好かないな。


 その後も父親によるギースの惚気話を少しばかり聞かされ、一通り話を終えたアルバーは仕事があると謁見の間から去っていった。アルバーが部屋を後にすると、部屋の前で待機したいたゼノが入れ替わるように俺の前に姿を現した。


「お疲れさまー。何事も無く終わったみたいで安心したよー」


「……本当に何事も無かったように見えますの?」


「いやあ、僕でも父さんと話すの凄く疲れるからさ……最悪倒れてるんじゃないかなーって思ってた」


「正直、今少しでも気を抜いたら倒れそうですわね……歩くのもやっとかと」


「うんうん、やっぱり大変だよねー。ここからあのみんながいる来賓室までも距離あるし、誰かに運んでもらうのが1番だよねー」


「そこまでご迷惑をおかけするわけにはいきませんわ! ……それに運ぶと言っても一体どなたが? まさかゼノ様が?」


「まあ僕でも悪くは無いんだろうけど、そこは適材適所ってね。……お、噂をすればなんとやらだ」


 そういうとゼノが部屋の入口に視線を動かす。それに釣られるように俺もそちらを見やると、そこにはいつの間にか見慣れた金髪青眼の青年が姿を見せていた。……なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする。


「ゼノ兄様、こんなところまで呼び出して用件とは……ってルーナ嬢?! 何故ここに……?」


「あはは……ご機嫌ようギース様……」


「僕が前回のお詫びってことで招待したの。その次いでに父さんと少し話してもらってたんだー」


「……全く、そういう大事な話はもっと早く教えて下さい」


「まあいいじゃないの細かいことは。それよりギース、ルーナは父上との対話で疲弊して一歩も動けないらしいよ。……後は分かるね?」


「え、いや……え?」


「僕はこの後大事な用があるからお先にー。ばいばーい!」


 何も状況が分からないギースに言いたいことだけ伝え、ゼノはそそくさとその場から姿を消した。しばらく俺とギースは呆然としていたが、やがてギースが深い溜息をつき、その後こちらに歩み寄ってきた。


「ごめんねルーナ嬢。父上と兄様に振り回されて大変だっただろう?」


「いいえ、とても素敵な方たちでしたわ。迷惑だなんてとんでもない。でも流石に少し疲れたので、部屋まで……あれ?」


「部屋まで戻ろう」と言いかけたその瞬間、急に視界がぐらついた。そこまでの心労では無いと思っていたが、想像より遥かに疲弊しきっていたようだ。倒れるまではいかなかったが、これでは移動はままならないだろう。


「大丈夫……では無さそうだね。仕方ない、兄様の思惑通りになるのは少し癪だけど……ルーナ嬢、ちょっとだけ失礼するよ!」


「いやその、ギース様のお手を煩わせるわけには……ってほわああああ!」


 拒否する間もなく、俺の両足はギースにお姫様抱っこされるという形で地面から離れた。ギースにお姫様抱っこされるのは初めてではないが、心に余裕が無かったあの時とは状況がまるで違う。恥ずかしいったらありゃしない。

 結局俺はそのままメリアたちが控える来賓室まで運ばれてしまい、やや興奮気味なマルシアに質問攻めにあったのは言うまでもない。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

次回は7日投稿予定です。

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