第四十話「お城にお呼ばれされました」
お待たせしました、第四十話です。
学園にあの人物がやってきたようです。
1日の勉学を終え、放課後を迎えた生徒たちの過ごし方は三者三様だ。ある者は図書室で勉学に励み、ある者は部活に精を出し、ある者は親しい人物と街へ繰り出す。
俺も魔術研究部の活動がある日にはそちらに顔を出し、特に予定が無い日にはすぐ寮に帰り、マルシアらと共にカリアの入れた紅茶をまったり嗜むことにしている。
だが、今の俺にはそれよりも優先しなければならない事項がある。そして、それにはメリアとマルシアの同伴も不可欠だ。その為、俺は授業終了後すぐ、2人を呼び寄せていた。
「さあ2人とも。準備はよろしくて?」
「はい、私は大丈夫ですよ」
「私もですわ!」
「よし、ならば早速向かいましょう! ……トイレ掃除に」
「……はい」
「は〜い……」
フライドチキン作戦が見事に失敗した俺たちは、またもや寮のトイレ掃除1週間の罰を言い渡されていた。授業が終わり次第すぐに取り掛かるよう言われているので、お出かけやティータイムはおろか、部活に顔を出すこともできない。その旨をメリアと共に部長のギュランとコニーに報告したら、それはそれはとてつもないほどの冷ややかな視線を浴びせられ続けた。……恐らくもう次はないだろう。
こうして、放課後の楽しみを全て奪われた俺たちは、深く沈み込んでしまいそうなほど重い足をなんとか動かして寮へと向かっていた。
「ああもう! 本当なら今頃はカリアさんの入れたお茶で優雅なアフタヌーンティーを楽しめるはずなのに……」
「まあ仮に罰が無かったとしても、今カリアは完全に拗ねちゃってまともに口を聞いてくれないから……カリアの機嫌が直るまでどの道お茶はお預けね」
「ルーナ様相手でもそうなってしまうとは……本当申し訳ないことをしました。今回の私たち、完全に軽率でしたね」
話せば話すほど空気が重くなっていく感覚に囚われる。これ以上の重圧感には耐えきれないと悟った俺たちは会話を止めて歩みを進めた。
だが、玄関の昇降口に差しかかった辺りでその空気が一変した。何やら外が異様に騒がしい。しかもそのほとんどが女性の黄色い歓声によるものだった。その現場を確認しようと外に出てみれば、そこには無数の女子生徒たちがひしめいている光景が広がっていた。
「あら、誰かいらっしゃっているのかしら?」
「随分と人気のある方みたいですが……誰なんでしょう?」
と、メリアとマルシアは不思議そうにその現場を見つめているが、俺はこの光景に見覚えがある。しかもそれを見たのはつい最近のことだ。
一抹の不安を覚えながらしばらくその人集りを眺めていると、その渦中の中心にいる人物と目があったような気がした。
「……あっ! ごめんねみんな。僕はこれから大切な用事があるから、お話はまた今度ね〜」
聞き覚えのある飄々とした声の持ち主は、そう言うなり群がる女子生徒たちの合間をするすると潜り抜けて俺たちの前に姿を現した。煌びやかなその衣装は初めて出会ったその時とはまるで異なるが、その特徴的な赤茶色の髪と、のらりくらりとしてつかみどころが無い佇まいが俺の記憶に残る情報と合致した。
「あら、セロ……ではなくてゼノ王子。ご機嫌よう」
「やあルナ……いや、ルーナ。お互いこの格好で会うのは初めてだね」
「そうですわね。でも、何故だかすぐにゼノ王子と分かりましたわ」
「僕も、一目見た瞬間君がルーナだと分かったよ。あの時とは雰囲気がまるで違うのに不思議だねえ」
などと久しぶりともいえないゼノとの再会にうつつを抜かしていると、不意に俺の両肩が背後から鷲掴みにされた。
「ルーナ様……! ゼノ様とは一体……! どういったご関係でして?!」
「ルーナ様には人を惹きつける何かがあるとは思っていましたが、まさか第一王子様まで……」
マルシアは興奮気味、メリアは感心と戸惑いが入り混じったような視線を俺に送りつけてくる。後ろに振り向きたいのは山々だが、それぞれ別の理由で2人の顔を見るのが怖いので顔を前に向けたまま愛想笑いをして誤魔化す他なかった。
しかし、マルシアはいつもこういう状況になると暴走しがちなのは重々承知だが、今のマルシアはいつも以上に息が荒くなっている。まさかとは思うが、マルシアはゼノのことを好いているのだろうか。……いや、まさかな。
「おや、君たちがルーナのお友達かい? ルーナとは街にお忍びで外出してた時に出会ったんだ〜。僕のせいで君たちにまで迷惑かけちゃったんじゃないかってずっと気になっててさ……今回はそのお詫びをしにここに来たんだよ」
「いえ、迷惑だなんてとんでもありません……!」
「え、ええ! 私も迷惑だとは微塵も思っていませんわ……! ええ! これっぽっちも!」
「巻き込まれたのは……まあそうですが、あの時間は私にとってとても有意義なものでした。そんなに畏まらなくても大丈夫ですわ」
「うーん……そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、それじゃ僕の気がすまないからなあ……」
そう言うと、ゼノはしばらく唸り声を上げながら考え込み始めた。待つこと数分。何か妙案を閃いたのか、ゼノ表情が晴れ渡るように明るくなった。
「そうだ! 君たち、僕の家に遊びにおいでよ!」
「えっ……家? 家ってまさか……」
「そう、そのまさか! 君たちをお城にご招待しちゃう!」
「え…………ええええええええ!」
ゼノからのとんでもない提案を受けた俺たちは絶叫したのち、衝撃のあまり掃除のことも忘れてしばらくその場に立ちすくんでしまい、正気に戻って寮に戻った時には約束の時間ギリギリだった。
……お城への招待、何事も無ければ良いのだが。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は29日投稿予定です。




