第三十九話「謎の青年と仲良くなりました」
お待たせしました、第三十九話です。
謎の男の正体とは……
懐疑の目を向ける俺を尻目にハンバーガーを頬張る青年。だが、見ず知らずの存在かもしれない人を睨み続けるのも流石にどうかと思ったので、気を取り直して眼前のチキンたちに集中することにした。
そうしてある程度食べ進めところで、また不意に青年が話しかけてきた。
「ねえねえ、お嬢さんってここ初めて?」
「はい、初めてですが……それがどうかしましたか?」
「初めてなんだあ……いやね、初めてにしては食べ方が綺麗だなあって思ってさ」
「そうですか……ありがとうございます」
俺が軽く会釈をするなり、青年は辺りをキョロキョロ見回すと右手を前に数回振る仕草を見せた。何か言いたげな様子なので軽く身を乗り出してみると、彼が俺にとんでもない一言を耳打ちしてきた。
「ねえ、お嬢さんってもしかしてご貴族様?」
「なっ――」
それを聞いた瞬間、俺はすぐさま後ろに飛び退き身構えた。どこでそう思われたのかは分からないが、事と次第ではこれ以上の長居は危険かもしれない。場合によっては武力行使もやむを得ない――とも思っていたが、意外にも彼はすぐに軽く両手を上げてこう言い放った。
「ああごめん、君に危害を加えるつもりは一切無いよ。だって――僕も似たような物だからねっ」
「……つまり、貴方もお忍びここまで来たと?」
「そうだよー。だから君の上品な食べ方を見て『同じだ!』ってなって嬉しくなっちゃったんだ! ……嫌な思いさせちゃってたらごめんね」
「いえ、私の方こそ貴方を疑うような真似をして申し訳ないです。……あ、私のことは『お嬢さん』ではなく『ルナ』とお呼びください」
「ルナさんだね! ……僕のことは『セロ』って呼んでくれると嬉しいな」
彼が言う『セロ』は恐らく偽名だろう。だが俺も『ルナ』という偽名を使ったのでおあいこだ。素性を隠している物同士として、相手のことはあまり深掘りしない方が良いだろう。
こうして、『ルナ』と『セロ』は街の情報を共有したり、お互いのポテトとナゲットを交換したりと、他愛ない幸せ時間を過ごした。こうしていると、放課後にファストフード店に寄り道する学生にでもなった気分だった。
それからも食事と会話を楽しんでいると、やがて店の外がやけにガヤガヤと騒がしくなっている様子なのが耳に入ってきた。事件かとも一瞬思ったが、時折外から「キャー!」と黄色い歓声も聞こえてくる。となれば、誰か有名人がこの店にやってきているのかもしれない。固唾を飲んで店の入り口を見つめていると、やがて店のドア勢いよく開かれる。そして、そこに現れたのは金髪にスカイブルーの瞳を持つ青年、そう――ギースだった。
「え……ええええ?!」
思わず叫んでしまった。何故ギースがこの店にやってきたのかは分からないが、俺の存在が彼にバレてしまったら面倒ごとになるのは明らかだ。ここは彼が素通りしてくれるのを願うしかない。
……だが、そんな俺の願い虚しく、ギースはしばらく辺りを見回したかと思うとこちらに向けてズカズカと歩み寄ってきた。
(あ……終わった……)
これはもう完全に気づかれているパターンだ。もしここで正体が明かされればもう2度とここには来れないだろう。せめてもの足掻きとして必死に顔を俯けて誤魔化してみるが、もう手遅れだろう。
ギースの足音が止まる。彼がもう俺の近くまで来ている。俺はただ、ギースの言葉を待つ他なかった。やがて、ギースがその口を開く。
「全く……”また”ここにおられたのですかゼノ兄様! 1人で勝手に街に来るのはダメだと父上に何度もキツく言われているでしょう!?」
「えっ? お兄様?」
俺が頭を上げると、ギースは俺ではなく目の前の青年に詰め寄っていた。なんと、ギースに詰め寄られている青年は、この国の第一王子であるゼノ・クロムウェルだったのだ。。似たようなものとは言っていたがまさか王族だったとは思わなかった。だが、彼がギースの兄ということならば彼に既視感を覚えたひとの色に合点がつく。
彼がゼノだと判明した途端に周りの驚きと歓声が一際大きくなるが、それが聞こえないくらい、とんでもない人と食事していたという事実に俺は肝を冷やしていた。
「だってえ……どうせ仕事やれとか来賓の貴族たちに挨拶しろとか言うんでしょ? ああいう堅苦しいの苦手なんだよお……」
「はあ……仮にも兄様は第一王子なのです! 勝手な行動を取られては王族としての威厳を保てなくなりますよ!」
「やる時はちゃんとやってるでしょ……? たまの息抜きぐらいいいじゃんか〜」
こうして言い合っているのをみると、本当に血のつながった兄弟なのだと痛感する。転生する前も後も一人っ子だった俺には少し羨ましい光景だった。
やがて数分にわたる口論の末、とうとうゼノが観念したようだ。ゼノが椅子から渋々立ち上がり、トボトボと立ち去ろうとしている。これで一安心と胸を撫で下ろそうかと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
「何をしているのかなルーナ嬢。ルーナ嬢も一緒に行くよ?」
「……へ?」
バレた。完全にバレていた。しかも疑われる余地もなく一瞬で。何故バレたのかは分からないが、このままではまずい。何か誤魔化す案は無いかと頭をフル回転させる。
「い……いやだなあギース様。私は一般市民ですよ? かのルーナ様である訳が……」
「残念だけど、婚約者である君を見間違うことは絶対にありえない。いくら変装したって、君のことはお見通しだよ」
「うっ……」
ギースの超人すぎる観察眼に感嘆したいところだが、彼の応酬はまだ終わらない。
「それにルーナ嬢、君がここに1人でいるっていうことは……外出許可の申請をせずにここまで来ているね?」
「ぎくっ」
「ここまでの完璧な変装……協力者もいるだろう? 恐らくあの2人かな?」
「ぎくぎくっ」
「図星か……見逃してあげたい気持ちは山々だけどね、ルーナ嬢たちだけを特別扱いする訳にはいかない。だから、今回は大人しく学園のルールに従ってもらうよ。それでいいね?」
「……はい」
こうして、観念した俺はギースに半ば連行される形で学園へ帰ることとなった。そして帰宅後、許可なく1人で外出した俺と、その手助けをしたメリアとマルシアは寮長とカリアににこっ酷く叱られ、また寮のトイレ掃除1週間の罰が下されたのであった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は23日投稿予定です。




