第三十八話「作戦決行の日が来ました」
お待たせしました、第三十八話です。
いよいよフライドチキン作戦決行です。
時間は朝の8時。まだ完全に上り切っていない太陽の光が優しく照らしている中、俺とメリア、マルシアはいよいよかのフライドチキン作戦を実行に移すべく俺の部屋に集まって準備を進めていた。
「ふう……これでばっちしですわ!」
「流石はマルシア、これなら街行く人たちに紛れられそう。メリアも、服を貸してくれてありがとう」
「どういたしまして。ルーナ様に合うものがあって良かったです」
まず、俺の素性を隠すための変装に当たり、服はメリアが所持したいる服の中でも比較的地味めな茶色系のドレス風ワンピースを借りた。彼女本人には少し大きかったということで、ルーナの体でも問題無く着ることができた。後はマルシアが貸してくれた伊達メガネを着用し、更にマルシアが長い髪を三つ編みおさげに結ってくれた。
念のため部屋の全身鏡で今の姿を確認してみるが、どこからどう見ても普通の女の子だ。これで俺の方は問題ないだろう。
そして留守を任せることになるメリアの方だが、彼女もウィッグや俺が貸したドレスで完全にルーナになりきっていた。身長差は厚底の靴でカバーしている。
あと、メリアは宮廷作法に疎いということだったので、俺が徹底的に作法を教え込んだ。彼女はとても要領が良く、俺の動きを見様見真似するだけですぐものにできていた。習得に数ヶ月かかった俺の努力はなんだったのだろうと、その時は肩がこれ以上無いほどに落ちてしまった。……まあこれで、安心して街に繰り出せるというものだ。
「じゃあメリア、後は任せますわ」
「ご心配なく! カリアさ……カリアの前でも完璧に演じてみせますわ!」
「え……ええ……頼むわね」
やや興奮気味のメリアはもう既に俺になりきっているようだ。今のところは完璧そうだが、そのやる気が裏目に出ないことを願うばかりだ。
と、そんなことを話している内に時計の針は8時30分を指していた。9時にはカリアが俺の部屋にやってくるので、そろそろ出発しなければならない。
「それじゃ、そろそろ出発するわね。昼ごろには戻るから、それまでよろしくね」
「お、お任せあれ……ですわ!」
「お気をつけて〜!」
こうして俺は、ルーナに転生して初めて、たった1人で街へと繰り出したのだった。
(これが……王都の街だったのか……)
学園を抜け出して歩くこと十数分。王都の市街地に辿り着いた俺は、その街並みに釘付けになっていた。
道の傍らでは食べ物や装飾品の露店を出している者やパフォーマンスを披露する者たちが多く集まっており、それ目当ての客たちで大いに賑わっている。その道を抜ければやや大きめな広場があり、中心にそびえ立つ噴水から噴き出る水の音や、随所に植えられている木々の葉がカサカサと擦れ合う音が心地良い。広場に集まっている人たちも、思い思いに羽を伸ばしているのが窺える。
今まで何度か来た時には、メリアたちとの会話に夢中になっていたり、周囲の視線が気になったりでこう言った側面に目を向けることは無かった。
(1人で来て正解だったかな……)
目的の店が開店するまではまだ少し時間がある。せっかくの1人時間を無駄にはしまいと、俺は市街地の散策を再会した。
仄かに甘い香りが漂う駄菓子屋、アンティークな外観が素敵な古本屋、独創的な小物で溢れかえる雑貨屋……とにかく少しでも気を引くものがあればその店に立ち寄ってみた。協力してくれている2人へのお土産も買ったのだが、細かいお金が無くて金貨で支払った時には店員が少し目を丸くしていた。……バレてないよね?
そうやってあちこち歩き回っている内に、近くにあった屋外時計の針が10時を指そうとしていた。目的の店が開店するまで時間が無いことに気づいた俺は、散策する足を止めてフライドチキン屋へと全力疾走した。
(うわ……もう人がたくさんだ……)
開店時間から少し遅れて到着した俺だったが、既に店の前には行列ができていた。チラッと見た時から人気のある店だとは思っていたが、まさか開店直後からこんなに人が集まるとは思っていなかった。だが、ルーナとして生きていれば、今後列に並ぶなんて体験は2度とできないだろう。これも1つの醍醐味と考え、俺は大人しく列の最後尾に入った。
少し待ち時間が長くなるかとも予想したが、意外にも列はするすると進んでいき、ものの数分で俺は店内のレジカウンターまで辿り着いた。早速お目当てのチキンと、他にもハンバーガーやフライドポテトも気になったのでそれらを注文。そして支払いをしている内に、あっという間に頼んでいた品々が目の前に差し出された。これが早さの秘訣だったのかと感心しつつそれを受け取り、店内の空いている席に滑り込んだ。
さて、いよいよ実食タイムだ。眠れない夜を過ごすほどに思い焦がれたフライドチキンを手に取り、俺は大きく口を開けてかぶりついた。
「――!!」
美味い。言葉にならないほど美味い。カリッとして且つスパイシーな味が利いた衣に、噛む度に口の中に広がる肉汁が堪らない。転生してから今まで食べてきたものも十分美味しかったが、それとは違う背徳感増し増しな味覚に、俺の脳内は幸せで溢れかえっていた。
そんな幸福感に浸っていた俺は、背後から近づいてきていた存在にまるで気づかなかった。
「お嬢さん、ちょっといいかな?」
「ひゃいっ?!」
不意に声をかけられて思わず素っ頓狂な声を出してしまう。穴があったら入りたい気持ちをなんとか抑えて声のする方をみると、赤茶色の髪に黒縁メガネをかけ、茶色のハンチング帽を被った青年が商品を乗せたトレーを持って立っていた。一見普通の青年だが、どこか気品の良さも感じられる。
「驚かせてごめん……! えっと、貴方が良ければ相席させてもらえないかな? もう空いている席がもう無いみたいで……」
そう言われて辺りを見回すと、彼の言う通り座れそうな席は殆ど見当たらなかった。この状況で断るのは流石に気が引ける。
「ええ、いいですよ。ここで良かったらどうぞ」
「ありがとう! 恩に着るよ」
そういうと、彼は俺の向かいに腰をかけ、ハンバーガーを食べ始めた。まあ、こうして名前も知らない人と関わり合うのも、ルーナであればできない体験だろう。そう思って、正面でハンバーガーを頬張る彼に目を向けると、黒縁メガネの奥に輝くスカイブルーの瞳に妙な既視感を覚える。この人、誰かに似ているような……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は20日投稿予定です。




