第三十七話「メリアの特技に驚かされました」
お待たせしました。第三十七話です。
……どうやらルーナたちが何か企んでいるようです。
(うう……アレが……アレが食べたい!)
薄暗さと静寂が包む真夜中、俺はベッドの上で悶々として眠れずにいた。
事の発端は魔物討伐演習後の休日、ハプニング続きですっかり疲弊しきっていた俺を見かねたメリアとマルシアが、慰労という事で王都の街に連れ出してくれた時だった。
目的であるカフェへと向かう道中、お肉が焼ける香ばしい匂いが俺の鼻孔をくすぐった。匂いの発生源を探るべく辺りを見回すと、そこにあったのは、現実世界でいうところのファストフード店だった。そのお店はフライドチキンを売りにしているようで、店先で食事を嗜んでいる人々は皆、そのフライドチキンに齧り付いていた。
その光景を目の当たりにして転生前に食していた記憶がフラッシュバックしてしまったが最後、久しぶりにその味を堪能したいという欲望が頭から離れなくなってしまった。
だが、こういったファストフード店はいわゆる庶民の憩いの場だ。そういった場に上流階級の人たちが踏み入るのは相応しくないだろう。なので、友人らやカリアを連れず1人で赴く必要がある。
そして、良くも悪くも俺は王都ではちょっとした有名人だ。初めてメリアたちと出かけた時みたいに、貴族のことをよく思っていない輩に絡まれる可能性も少なくはないだろう。つまり、カリアにも内緒でこっそり素性を隠し、街へ潜入する必要がある。……正直フライドチキンのためにここまで壮大な作戦になるとは思わなかった。
――と、ここまで考えたのは良いのだが、問題は最初だ。カリアは毎朝必ず俺の部屋を訪ねてくる。そこで俺がいないことに気づかれれば、血眼になって俺を探しにくるに違いない。そうなれば安心してチキンを楽しむことは不可能だ。しかし、この問題の解決の糸口が一向に見える気配が無く、この日まで悶々と過ごしてしまったのだ。
「ふああぁぁぁ……」
「ルーナ様、またお顔がはしたなくなっていますわよ」
「そうは言っても……うーん……」
時は流れていつもの昼休憩タイム。結局、あれから一睡もできないまますっかり夜が明けてしまった。
その影響で全く集中できなかった午前中をなんとか乗り切った安心感からか、はたまた昼下がりの心地よい日差しに当てられているからか、俺の眠気は限界を向かえつつあった。
「こんな状態になるまでとは……何か悩みごとでもあるのですか?」
「悩みごと……まあ……あるにはありますが……」
「それなら私たちに話してくださいませ! 寝不足な状態で1人で考えても埒があきませんわ!」
「そうですよルーナ様。こういう時に協力しあうのが、親友というものではありませんか?」
「メリア……マルシア……では、遠慮なく頼らせてもらいますわね」
こうして俺は、2人に全て打ち明けた。フライドチキンをどうしても食べに行きたいことと、それを成し遂げるためのプランが思い浮かばないこと。
2人は最初こそ真剣に話を聞いてくれていたが、何故だか話が進むにつれて顔を俯けてしまい、すっかり目があわなくなっているのに気がついた。しかも、マルシアはそれに加えて肩をブルブルと震わせている。もしや体調が優れないのかと心配になり声をかける。
「ちょっと2人とも、一体どうしたの……?」
「……ふふふ」
「……ふふ……ふふふふ……あはははは!」
まるでダムが決壊するかのように、耐えきれなくなった様子のマルシアが腹を抱えて笑い出したのだ。メリアも必死に笑い声を出すのを我慢しているが、それもかなり限界が近いようで、時々「……ふふ」と笑い声が漏れてしまっている。そんなに可笑しいようなことを言ったつもりは無かった俺は、2人が何故抱腹絶倒するのかと訝しんだ。
「ちょっと2人とも! 私は真剣に話をしているのよ?!」
「いやその……すみません、笑うつもりは無かったのですが理由がルーナ様すぎて……ふふっ」
「一睡もできなかったと聞いてどんな大事かと思いましたら……本当にルーナ様らしいですわ……あはは!」
「……私らしいとはどう意味かしら?」
2人なら大丈夫かと思い話したのだが、こんなに笑われてしまうと恥ずかしくなって顔から湯気が出そうな気分だ。
やがて思う存分笑った2人は冷静さを取り戻し、話の本筋に戻ってくれた。
「失礼しましたわルーナ様。まず、変装の件は私にお任せくださいな。街行きにピッタリなコーディネートをチョイスしてみせますわ!」
「そして、後はカリアさんにバレなければ良い……のですよね?それならば私もお力添えできるかと……」
マルシアはこれまで何度か俺のドレス選びをしてくれた経歴があるので、ここは任せて問題無いだろう。だが、メリアがカリアの件をどうにかできるというのが気になるので、一体どんな案があるのかと尋ねてみる。
「ふふ。実は私、ちょっとした自慢がありまして」
と言い出すと、メリアが小さく咳払いを繰り返し、その後「あ〜、あ〜」と声の高さを調節し始めた。一体メリアは何を始めようとしているのかと固唾を飲んで見守る。
「……お待たせしました。ではまいりますね。――『貴方はもう、死んでいますわ』」
「な……わ、私?」
「素晴らしい声真似ですわ! ルーナ様がグリフォンを倒したあのシーンがはっきり思い浮かんでくるようですわ〜!」
なんとびっくり仰天。メリアから発せられた声はまるで俺の声そっくりだった。声のトーンを調整していたのでまさかとは思っていたが、メリアにこんな特技があったとは。
でも、これなら――俺たち3人でならば成し遂げられるかもしれない。そうとなれば思い立ったが吉日、俺たちはランチを早々に切り上げ、綿密な作戦会議を開始した。
そう、全てはフライドチキンの為に――!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は17日投稿予定です。




