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第三十六話「グリフォンと一騎討ちしました」

お待たせしました、第三十六話です。

ルーナとグリフォンの対決の行方は……

 グリフォンといえば、RPGなどではボスキャラ級のモンスターとしてよく登場する、魔物の中でも一際目立つ存在だ。

 強靭な肉体から繰り出される鋭い鉤爪の一撃に、その肉体をものともせず羽ばたく大きな翼。伝承では牛や馬を数頭纏めて掴んで飛べるという。そんなグリフォンの攻撃を一撃でも喰らってしまったが最後、致命傷は免れないだろう。

 普通ならば冷静な対処を余儀なくされる相手なはずなのだが、その時の俺は待ち侘びていた”強い魔物”の登場に理性が抑えきれず、グリフォンに特攻を仕掛けていた。


「はああああっ!」


 まずは突撃する勢いそのままに、闇魔術の上級技「カオスジャベリン」をグリフォンに向けて放った。カオスジャベリンは命中するとしばらくそこに刺さり続け、体内からじわじわと精神的ダメージを与えていく。人間相手に使うのは気が引けるので使えなかったが、魔物相手ならば情け容赦は無用。遠慮なくこの技を使える。

 放たれたカオスジャベリンは放物線を描いてグリフォンへ向かっていく。だが、グリフォンはギリギリまで技を引きつけてから大きく羽ばたいて空中に舞い上がってしまい、カオスジャベリンは命中どころか掠りもしなかった。

 その後グリフォンは地面に着地したかと思うと、今度は俺に向かって猛スピードで突っ込んできた。グリフォンは力もあるが知能も高いことで知られている。恐らく、俺の戦闘スタイルが魔術主体であることを瞬時に見抜き、一気に間合いを詰めて魔術を発動させる前に仕留めようとしているのだろう。確かに俺はその戦法に弱い。――だが、今は違う。

 間合いに入ったグリフォンが右前脚の鉤爪を振りかぶってくる。端から見ればグリフォンの一連の動作は目にも留まらないほどの速さであっただろう。しかし、武術の達人であるカリアの特攻に比べれば造作もないことだ。


「遅すぎますわ……!」


 グリフォンの前脚が振り下ろされるよりも早く、俺は魔力を込めた両手をグリフォンの目の前でバチンと打ちつけた。俺が近接戦闘対策として編み出したオリジナルの闇魔術。名付けて「ブラックインパクト」だ。

 ブラックインパクトは、手を叩いた音を魔力を用いて増幅させて大きな衝撃波を発生させて相手の動きを止めることが目的の技で、相手との距離が近いほど効力が増す。簡単に言えば強化版猫騙しだ。

 まず、音で相手を牽制するのはクロウのビーストスクリームから知見を得た。そして、カリアのように近づいて闘う相手に逃げ回るのは至難の業なので、むしろ近づかれるほど有利になれるような技を模索した結果この技を編み出した。カリアとギースとの闘いが無ければ、恐らく魔術を自ら作り出すことすらも考えなかったであろう。あの闘いにもちゃんと意味があったことに思わず口角が上がってしまう。


 そんなブラックインパクトをほぼゼロ距離で喰らったグリフォンは唸り声を上げながら身動きを取れずにもがいている。このチャンスを逃さない手はない。


(魔物相手なら……あれを使ってみるか)


 俺は再び魔力を集中させ、とある物の形に具現化せていく。それはやがて細長く、そして禍々しくうねる柄に曲線を描く大きな刃を作り出した。俺は作り出したそれを両手に構え、グリフォンの首に狙いを定めて大きく振り抜いた。


「……グエ?」


 斬られることを覚悟していたグリフォンが目を丸くして困惑の声を漏らす。それもそのはず、グリフォンの体には致命傷はおろか傷一つついていないのだ。


「グエエエエ!」


 ブラックインパクトの衝撃から解放されたグリフォンは、お返しと言わんばかりに、鎌を振り抜いた格好のまま背を向けている俺に鉤爪を振り下ろそうと前脚を上げる。だが、その前脚が振り下ろされることは絶対に無い。


「貴方はもう、死んでいますわ」


 昔見た記憶のあるアニメキャラの決め台詞を口にした途端、グリフォンが脚を上げた姿勢のまま地面に倒れ込んで動かなくなった。これで俺の勝利が決まった。

 だが、クラスメイトたちは俺の勝利を讃えることもなく静まり返っている。やがて、その中の誰かがボソッとこう呟いた。


「死神……」


 そう、この技の名前は「グリムリーパー」。文字通り死神を想起させる大きな鎌を生成する闇魔術の上級技だ。鎌は実体を持たず、その刃を対象へ振り抜くことで命を刈り取る。闇魔術の中でもとびきり扱いの難しい技だ。

 剣すらまともに持てなかったルーナの体で武器を振れると習得当時は感極まっていたが、効果が効果なだけに全く使う機会が無かった。

 なのでグリフォン相手にはうってつけ――と思っていたのだが、今はこの技を使ったことを後悔し始めている。周囲が静まり返っているのは、自らの命の危機を感じているからだろう。直接命を奪い取る技を目の当たりにすれば無理もない。

 この調子であれば、俺は危険因子と判断されて糾弾されるかもしれない。それが波及し、挙げ句の果てには何者かに討たれる――つまり破滅ルートまっしぐらになるかもしれない。


(やらかした……!)


 重すぎるほどの重圧感に押し潰され、俺は思わず頭からを抱えてうずくまった。俺の頭はパニック状態寸前にまで陥りかけ、最悪なパターンすらも脳裏に浮かび始めた――その瞬間だった。


「パチパチ……」と誰かが手を叩くような音が聞こえてきた。顔を上げて音のする方に視線を移す。


「ギース……様……」


 手を叩いているその人物は、ギースだった。周囲の中でただ1人、実直な瞳で俺を見つめながら拍手を送っていた。


「王族の騎士団たちでも無傷では済まないグリフォン相手に一方的に勝つとは、流石ルーナ嬢だね」


 静けさの中でギースの賞賛がこだますると、それに続いてもう3人が賞賛を口にし始めた。


「こんな隠し玉を持っていたとは……流石は俺のライバルといったところだな」


「ルーナ様あ! かっこよかったですわよお!」


「ルーナ様……ご無事で何よりです」


「コニー様にマルシア、メリアまで……」


 初めは4人だけの拍手が鳴り響いていたが、惜しみなく拍手を送る彼らに周りのクラスメイトたちも次第に釣られて手を叩き始め、いつしか俺の周囲は大歓声に包まれていた。

 危機から脱した安心感からか涙が溢れそうになる。救ってくれた4人の下に駆け寄って感謝の言葉を伝えたい衝動に駆られる。だがルーナは公爵家令嬢。みんなの前で泣き崩れる姿は見せられない。4人への謝辞は後でたくさん伝えることとして、今は気丈に振る舞ってみせよう。俺はうずくまっていた姿勢から立ち直り、周りに向かって深々とお辞儀で返した。


 

 ――今回の出来事は学園内でしばらくの間語り草となるのだが、それはまた別の話。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次回は14日投稿予定です。

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