第三十五話「魔物の討伐訓練に参加しました」
お待たせしました、第三十五話です。
今回のお話は魔物討伐訓練。ウキウキのルーナですが……
連休明けのあの騒動から1週間。騒ぎの熱も冷め始めてようやく安寧の日々を取り戻した俺は、いつもの2人といつもの中庭のベンチで昼休憩をとっていた。
「やっと落ち着いてここでルーナ様とランチが食べられますわあ!」
「ルーナ様、お具合の方は大丈夫ですか?」
「……やめてちょうだいメリア。思い出しただけでも頭がクラクラするわ……」
実を言うと、この1週間が俺にとって地獄のような日々であった。ギースの1番の関係者ということでクラスメイトや知らない上級生たちから根掘り葉掘り聞かれて、説明の余地などは一切与えてくれなかった。この質問攻めは休み時間となればひっきりなしに続いた為、メリアとマルシアを巻き込むわけにもいかず1人物陰に隠れてこっそりと昼飯を食べていたのだ。
無論、そんなストレスだらけの毎日にひ弱なルーナの体が耐えられるわけもなく、5日目辺りで熱を出してダウンしてしまった。発熱はカリアの献身的な看病のお陰ですぐに治ったが、今でも思い出すと少し目が眩んでしまうほどに今回の出来事はトラウマになってしまった。
故に、もう2度とあんな軽率な真似はやめておこうと心から誓ったのであった。
「あっ! そういえばルーナ様がお休みされている間に大事なお知らせがあったのですわ!」
気まずくなりそうな重い空気感をマルシアが手をパチンと打ち鳴らて断ち切って話題を変えてくれた。こういう時彼女の爛漫さは本当にありがたく、一瞬にして場がいつものランチタイムのような空気感に戻った。
「あら、何かイベントでもあったかしら?」
「イベント……というと少し違うかもしれませんが、明日から3日間、実技講習の時間を用いて魔物相手への戦闘訓練を行うそうです」
「へえ……魔物との戦闘訓練……」
ファンタジー世界で魔物討伐と聞くと貴族などの上流貴族には関係ないようにも思えるが、実際はむしろその逆で、貴族と魔物は切っても切れない関係にある。
もし自分たちの領地に魔物の大群が一気に押し寄せて来た場合、前線で主に闘うのは騎士団や傭兵たちだ。だが、貴族にもそれらを率い、士気を高め、時には前線に立って領地を守るという大切な役割がある。ただ指を咥えて見ていれば良いわけではないのだ。そういった意味でも、学園での魔物討伐訓練は早い時期から行われる。
と、ここまでは建前で本音は……。
「ルーナ様、お顔が弛んでますわよ」
「……ハッ! 私としたことがはしたない真似を……」
「あら、ルーナ様が我を忘れるなんて珍しいですね。そんなに楽しみだったのですか?」
「ああいえ、そういうわけでは……」
などと口先では誤魔化してみるが、正直なところかなり楽しみだ。魔物との戦闘はゲームならではのイベントだと思って楽しみにしていたのだが、「有事でもないのだ。学園で学ぶその時まで、自ら死にに行くような行動は慎みなさい」とギルバートから念を押されていたためその楽しみが叶うことは無かった。
人間相手ではせっかく鍛えた魔術も本領を発揮できないことがほとんどだが、魔物相手ならば容赦はいらない。遠慮なく魔術をぶっ放せるというわけだ。最近はストレス過多な日々だったので、ここらで一つ全力で魔物討伐と行こうではないか。
心の中でこれから犠牲になるであろう魔物たちにちょっとだけ同情しつつ、心を逸らせながら当日を今か今かと待ち侘びていた……のだが。
「………………」
時は流れて魔物討伐訓練初日。俺の眼前ではクラスメイトたちが数人規模の隊列を組んで魔物たちと戦っている。そんな彼らを、俺は傍らでただひたすら見ていた。
「ルーナ。気持ちは分かるが、あまり不貞腐れた表情は顔に出すなよ。ちゃんと集中していないと、いざという時に動けないぞ」
「……分かっていますわ」
俺、ギース、コニーの3人は戦闘訓練への参加は認められず、いざという時の助っ人的役割を任されてしまったのだ。担当教師曰く、「俺たちが参加したらその強さに圧倒された魔物たちが逃げ出してしまって、クラスメイトたちの訓練にならない可能性があるから」とのことだ。教師の言うことはごもっともなのだが、これでは魔術を遠慮なく放てるせっかくのチャンスが無駄になってしまう。
「はあ……ここらで手応えのある強い魔物でも出てきてくれないかしら……」
「ルーナ嬢、いくらなんでも発言が戦闘狂すぎるよ……」
「大体、魔術を放ちたいだけならば部活で使う魔導人形にでも放てばいい話ではないのか?」
「全く、コニー様は何も分かってませんわね。あんな動かない的にただ当てるだけなんてつまらないではないですか」
「それに関して言えば、ルーナ嬢の言う通りだね。やはり強くなるには実践形式でないと」
「そう……なのか?」
そうして俺を含めた3人は、初日と2日目は特に何もすることがなく、ただ退屈な時間が流れるだけだった。
そして、最終日となる3日目となっても俺たちが出る幕は一切無く、またもや待ちぼうけとなっていた。まあ、それすなわちクラスメイトみんなの連携が素晴らしいということなのだ。
「そうよ……演習が無事で終わればいいの……何事も無く終わればいいの……」
「……なあギース。ルーナはさっきから何をブツブツ呟いているのだ?」
「ああ……ああやって自分に無理矢理言い聞かせているらしいよ。楽しみをここまでお預けされたら無理もないね」
ギースの言う通り、言霊を信じて納得できそうな言葉をひたすら呟き続けていたが、このままではあまりの退屈さに気が狂ってしまいそうだ。クラスメイトのみんなには悪いが、こうなれば少しだけでも魔物を倒しちゃおうかという考えが頭をよぎった、その時だった。
「うわああああ!」
突如として辺りに響き渡った叫び声に意識を呼び戻された。慌てて声のする方を見つめると、クラスメイトが数名尻もちをついて身動きを取れずにいる。一体何に怯えているのか、その正体は彼らの先にぼんやりと見えた。
「グエエエエエエエ!」
鷲のように大きな翼と、鋭いクチバシに前脚の鉤爪。そして獅子のように屈強な下半身。あの魔物は――
「グリフォン!」
訓練をしていた地域には現れないはずのグリフォンがなぜ現れたのか、今思えば疑問も甚だしい。だが、その時の俺には考える余地は無く、気づいた時には俺の足はとっくにグリフォンに向かって走り出していた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は11日投稿予定です。




