表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/35

第三十四話「ギースを驚かせてみました」

お待たせしました、第三十四話です。

ルーナからギースへ、決死のお返しです。

 あれから無事学園内の寮に到着し、荷物の整理を終えた俺は、少し休憩しようとベッドに体を預けた瞬間にすっかり眠りについてしまっていた。気づいた時にはもう太陽が優しく照り始めており、カリアも朝の身支度を手伝う為に俺の部屋に入って来ていた。

 その時カリアが、「今回のルーナ様の寝顔、なんと言うか凄く可愛らしかったですよ……ふふっ」と笑いを堪えながら茶化してきたので、無言の圧力でカリアを牽制しておいた。……笑いを堪える程の寝顔ってどんだけだらしない顔だったのか。疲れていたとはいえこれは少々恥ずかしい。


 朝から調子が狂いそうになったが、気を取り直して俺は少し早めに学園へ向かうことにした。メリアやマルシアと一緒に登校することも考えたが、俺には彼女たちよりも先に会っておくべき人物がいる。そしてその人物ならばこの時間でも会える――そんな予感がした。

 寮を出て学園へ向かうこと数分。道の傍らの木に寄りかかって立っている人物を見つける。


「やあ、おはようルーナ嬢。何故だか今日は一足早く君に会いたくなってしまってね。ここで待ち伏せていたという次第さ」


「ご機嫌ようギース様。私も今日は誰よりも先にギース様に会っておきたいと思っていましたの。奇遇ですわね」


 一通り挨拶を終えるとギースがこちらに歩み寄ってくる。改めてギースを観察してみるが、そのイケメンっぷりに思わず目が眩みそうになる。画面越しですらハートを射抜かれるファンが多いのだ。それを直に対面して耐えられている俺を褒めてほしいところだ。


「……うん、その様子だとカリア君の件は上手くいったみたいだね」


「ええ、お陰様で。その節はありがとうございます」


「うんうん……で、それで?」


「……それで?」


「おや、忘れたとは言わせないよ。この件に関する埋め合わせをしてくれるのだろう? 何を用意してくれているのかが楽しみでね。まあもちろん、今すぐとは言わないけど」


「ま……まさか、私が約束を忘れるなんてこと、あるわけがありませんわ……!」


 ……言えるわけがない。あの時はあまり余裕が無くて自分で言ったことすら忘れていたなんて、口が裂けても言えない。表面上で取り繕ってはみるものの、正直どうすれば良いのか見当がつかない。

ギースの「今すぐとは言わない」という言葉に甘えようとも考えたが、その瞬間「殿方をあまり待たせてはいけない」という母ソニアの言葉を思い出す。今は持ち合わせも無いし、はてさてどうしたものか。

 ……正直に言うと、案が全く思い浮かんでいないわけではない。むしろ、それならばギースの度肝を抜けること間違い無しだろう。とはいえその為にそれを実行するのにはとてつもなく勇気がいるし恥ずかしい。だが、カリアとの関係を取り持ってくれたギースへの感謝は計り知れない。ここは勇気を振り絞って、彼へ最大級の恩返しをするとしよう。そう決めた俺は集中力を上げるべく軽く頭を左右に振ってギースを見据えた。


 俺が覚悟を決めたのが伝わったのかは分からないが、

ギースも僅かながら表情が険しくなり、場の空気がピンと張り詰めるのが肌から伝わってきた。……ならばその覚悟を持って受け止めてもらおう。

 一歩、また一歩と自身に歩み寄る俺を固唾を飲んで見守るギース。いつもとは打って変わっての余裕が無さそうな表情を見れるだけでも十分だが、これはまだまだ序の口だ。俺は歩み寄る勢いそのまま、軽く地面を蹴飛ばして自身の体を前へ放り出し――ギースの懐へ飛び込んでギュッと抱きしめた。意中の相手から抱擁されれば喜ばない者などいないだろうと思いの下、俺が考えたギースへのお返しだ。急拵えだが、これならば確実にギースに効くだろう。


「え……ルー……これは……えっ? ……えっ?」


 狙い通り、流石のギースもこれには意表を突かれたようだ。体が小刻み震えて動揺しまくっているのがこれでもかと伝わってくる。

 次はどんな表情をしているか拝んでやろうと、彼に埋めていた顔を上げる。するとちょうどギースと目線がバッチリ合い、ギースは慌ててその目線を明後日の方向へ逸らした。


 ……さて、これ以上は俺の身が持たなくなりそうなので、早々に抱擁を解き、ギースの下から数歩後ずさった。

 改めてギースの様子を見ると、まだ全身がガクガクと震えてぎこちない動きをしている。中途半端に上がっているままの両腕は俺を抱きしめ返そうか逡巡していた証拠だろう。ここまでくると、今まで驚かされた分をやり返したくなる衝動に駆られてしまう。


「ギース様……? レディが胸に飛び込んできた時には、そっと優しく包み返して上げるのが紳士である貴方の役目ではなくて?」


「……分かっている。分かっているからこそそうしようと思ったんだが……君の可愛すぎる上目遣いをみたら思考回路が完全にやられてしまったよ。……あれは反則だ」


「か……かわっ……!」


 ギースの「可愛い」発言にこっちも耳まで熱ってしまいそうだ。カリアを自ら抱きしめことで耐性ができているかと思っていたが、全然そんなことは無かった。ここは一刻も早くこの場から立ち去らないと本当に身が持たない。


「で、では私はこの辺で失礼いたしますわ。また教室でお会いしましょう……では!」


「あっ……ルーナ嬢! ちょっと待っ……」


 固まったまま動かないギースをその言葉ごと置き去りにして俺は教室にひた走った。

 その後登校してきたクラスメイト――いや学園全体が、通学路でギースがまるで石像のようになっていたという話題で持ちきりだったのは言うまでもなかった。件のギースもなんとか教室までは来られたようだが、そこでも訪ねてきたジェイドに茶化されている。これはきちんと責任をとって周りに事情を説明しておかないと収集がつかなくなりそうだ。……それまではどうか頑張って耐えてくれ、ギースよ。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

次回は8日投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ