第三十三話「サプライズされました」
お待たせしました、第三十三話です。
ダンがくれたバスケットの中身とは…
カトラス邸を出立し、馬車に揺られること1時間。馬車内は帰省時と同じように俺、マルシア、メリアの3人による他愛ないトークに和気藹々としていた。
その様子が聞こえてくるのか、御者を担当しているカリアが、時々小窓からこちらの様子を覗いては目を細めていた。カリアも年上とはいえ年端も行かない少女だ。きっと彼女がこちらをチラチラと見てくるのも、この女子トークに混ざりたいからであろう。……今度は御者を別に手配して、カリアも輪の中に入れてあげよう。
そんなことを考えながら窓の外の景色を眺めていると、何やら前側と右側から熱い視線が注がれているのを感じた。自分の視線を窓の外から戻してみると、俺の前に座るマルシアと右に座るメリアがまじまじと俺の方を見つめていたのである。
だが、彼女たちの注目の的になっているのは俺自身ではないのは明白だった。2人が見ていたのは俺の膝元――に置いてあるバスケットだ。出立前ダンから受け取っていたものだ。
「ええと……これが気になりますの?」
「はい! とっても気になりますわ!」
「小腹も空いてきた頃ですし……そろそろ頂いてもよろしいのではないでしょうか」
そういえば、これを受け取った時の2人の反応を見るに、彼女たちも一枚噛んでいる様子だったな。こんなにも彼女たちが目を輝かせるなんて、一体何が入っているのだろう。そう考えると、バスケットの中身に俄然興味が湧いてきた。
「では、開けますわよ――」
そう言ってバスケットの蓋をゆっくりと開けてみる。その瞬間、決して強いとは言えない――けどふんわり甘い香りが広がってきた。
(これはまさか……!)
中身の正体を推測した俺は、そこから一気に蓋を開けた。すると、純白に輝く粒が三角状に固められている物が俺の視界に現れた。これは間違いない。おにぎりだ。
あまりに美味しそうな見た目に思わず唾を呑みそうになるが、ここで1つ疑問が浮かぶ。この世界でおにぎりの存在を知っている者は何人かいるが、これを作ったであろうダンは知らないはずだ。そんなダンが何故おにぎりを作れたのだろうか。
「流石はダン様……! とてつもない再現度です!」
「それに、味の再現もほぼ完璧ですわ! ……モグモグ」
いつの間にやらバスケットからおにぎりを取り出していた2人が、あっさり俺の疑問への答えを教えてくれた。
要約するとこんな感じだ。ダンが2人から俺の学園内でのエピソードを聞く。その際出てきたおにぎりにダンが興味を示す。そしてどんな食べ物なのかを聞いたダンが、俺にサプライズで作ってみようと提案し、2人もそれに賛同した……ということらしい。
実際、そのサプライズとやらは半分成功していると言っても過言では無いだろう。さっきも少し言った通り、見た目はほぼ完璧だったからだ。
だが、もう半分の大事な要素――味の方も気になるところだ。先に食べていた2人には大変好評だったみたいだが、果たしてどうだろうか。それを確認するべく、俺は両手に持ったおにぎりを口まで運び、小さく一口齧ってみた。
「……美味しい」
思わずそう口から漏らしてしまうほど、ダンのおにぎりは完璧だった。使われている米の硬さが丁度良く、噛めば噛む度に米の甘みが口全体に広がる。おにぎり自体の握る硬さも丁度良く、持っただけでは形は崩れないのに、口運んだ瞬間ほろっと解ける。メリアとマルシアは「再現できている」と言っていたが、正直これは俺が自分で作ったものよりも断然美味しい。流石はカトラス家の料理長といったところだろうか。
「まさかダンにおにぎりを用意させているとは……味も完璧でしたし、十分驚きましたわ。これは一本取られたわね」
そう言って2人を見やるが、彼女たちの表情はまだ何かあると言わんばかりの笑顔だった。……だがこれ以上に何かあるだろうか。疑問を抱いたまま、俺はおにぎりをもう一口齧ってみた。
「え……これって……!」
そうか、まだこれがあったか。おにぎりに欠かせないもう1つの要素――中の具だ。だが、俺が驚いたのは具が入っていたからではない。
「まさか……豚の生姜焼き……?!」
「その通りですわ!」
「ふふ、驚きましたか?」
驚くどころの騒ぎではない。おにぎりであればメリアとマルシアも知っているし、料理工程もそれほど難しいものではない。だが、豚の生姜焼きとなれば話は別だ。何も知らない状態からこの味を再現するのは不可能に近いはず。もちろん、ダンに教えた記憶は無い。何故ダンがこの味を知っているのか、2人に問いかけてみた。
「あ、それならルーナ様がご両親に生姜焼きを振る舞っている間に厨房に余っていたソースを味見していたとおっしゃってましたわ。その瞬間から、これでいつかサプライズしようと考えていたみたいですわね」
「あ……ああ……そういうことでしたの……」
あまりの単純な答えに拍子抜けしそうになるが、一口舐めただけでこれほどの再現をしてみせたダンの腕前には感嘆を禁じえない。
「まったく……ダンには敵いませんわね……」
こうしてダンに想いを馳せている内に、いつしか窓の外には王都が見え始めていた。
残っていたおにぎりを口に放り込み、明日に控える学園生活に再び精を出そうと決意を改めるのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は5日投稿予定です。




