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第三十二話「再び出立の時が来ました」

お待たせしました、第三十二話です。

実家帰省も終わりを迎えます。

 あの騒動から一夜明け、いよいよ連休最終日。俺たち3人もいよいよ屋敷から帰る運びとなっていた。先に準備を終えていたらしいメリアとマルシアの2人が玄関先で言葉を交わしていた。


「今日で連休も終わり……これから帰らなければいけないというのに、なんだか後ろ髪を引かれてしまいますね」


「そうですわね! なんと言いますか……ルーナ様のご実家なのにまるで自分の実家にいるような居心地の良さでしたわあ!」


「ふふ……実は私も同じことを思ってました。お父様とお母様もお優しい方でしたし、ダンさんを始めとした使用人の皆さんも個性的な方たちで退屈せず済みました」


「また来たいですわね! ……ところで、ルーナ様はまだいらっしゃらないのかしら?」


「そういえばまだ姿が見えませんね……どうされたんでしょう」


 2人がそんな会話をしている頃、俺とカリアは玄関に向かう廊下を爆走していた。……カリアにお姫様抱っこされながら。

 就寝時間寸前まで続いた両親の説教の後、部屋に戻った俺はなかなか眠りにつくことができず、いつ落ちたのか分からないまま気づけば出立時間ギリギリになっていた。

 俺が起きたタイミングでカリアも大慌てで部屋を訪ねてきたのだが、彼女も同じ状況だったらしくボサボサな髪の毛がいつにも増してボサボサのままだった。

 なんとか大急ぎで荷物をまとめて部屋を飛び出したのだが、全速力で走るカリアにあっという間に置いていかれそうになり、結果カリアに抱きかかえられながら移動するという状況が生まれたのだ。


 ルーナの足であれば5分以上はかかるであろう道のりも、カリアの全力疾走にかかればほんの1〜2分で玄関に辿り着いた。


「皆さまあ! お待たせして申し訳ございませんでした――キャアアア!」


 階下に見えたメリアとマルシアに謝罪しようとしたところ、なんとカリアが階段を丸ごと無視して2階から飛び降りたのだ。今更カリアのフィジカルギフテッドぶりには驚かないが、抱えられている側としては恐怖しかない。カリアに降ろしてもらった後も、しばらく足の震えが止まらなかった。


「……こほん。改めて、お待たせしました2人とも。では、まいりましょう……2人ともどうしましたの?」


 何故だか、メリアとマルシアは俺たちの方を見てやけにニコニコしている。


「フフ……いえ、今のお2人がそっくりだなあと。……フフフ」


「そっくり? ちょっとメリア、それはどういう意味?」


 なんでメリアが笑っているのか分からないいると、マルシアが笑いを堪えながら手鏡を差し出してきた。その鏡を受け取って覗き込んでみると、そこにはまるでカリアのようにボサボサな髪の毛になっている俺の姿が映っていた。

 更には寝不足なせいで2人の目にはクマが出来ており、今の俺とカリアのそっくりそのものだった。メリアとマルシアは俺たちのそっくりな姿を見て笑っていたのだ。


「あ……そのお……これは……」


 戦闘によってそうなってしまったあの時とは違い、寝起きのままの姿を見られるのは訳が違う。恥ずかしさのあまり、ついしどろもどろになってしまう。


「大丈夫ですよ。こういう時は――」


「私たちにお任せあれ! ですわ!」


 そう言ってマルシアが俺の背中をグイグイ押し始めた。まあ彼女たちの早業があれば時間もさほど押さないだろう。ここは促されるままにしておくこととした。


「では私は馬車の手配を……」


 と言いながら外に出ようとするカリアの手をメリアがガシッと掴んだ。


「ほら、カリアさんも行きますよ?」


「いえいえ、私は大丈夫ですよお」


「いいえ。カリアさんも、しっかり身だしなみを整えないとダメですよ?」


「いや私には……」

 

「い・き・ま・す・よ?」


「……はいい」


 まるで背筋がゾクっとするような笑顔に、カリアも大人しく従うしか無かったようだ。あとでカリアに話を聞いてみたところ、この時の感覚は怒っている時の母ソニアを彷彿とさせたとのこと。……メリアを怒らせるのはやめておこうと心から誓ったのは言うまでもない。

 それから、あれよあれよという間に2人の手によって俺とカリアの身支度は終わってしまった。俺は既に一度経験していたが、2人の一挙一動を見たカリアの新鮮なリアクションがなんとも微笑ましかった。


 こうして全員の準備が完了し、いよいよ学園に向けて出立することとなった。残念ながら両親は急な仕事が入ったとのことで見送り出来なくなったと執事長から言伝があった。その際ギリギリまで娘と友人の顔を最後に一目見ておきたいと粘っていたとも伝えられた。……デジャヴかな?

 少しだけ名残惜しさはあったが、また帰ってくることを心の中でそっと誓い、メリアとマルシアを促して馬車に乗ろうと一歩歩き出した――その時だった。


「ルーナ様あああ!!」


 と、ドタドタと忙しない足音をたてながら恰幅の良い男がこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「ダン……!? 一体どうしたの?!」


「ゼェ……ゼェ……良かった間に合いましたね……!」


 普段あまり運動しないためか、俺たちのところに辿り着いた途端激しい息切れを起こしていた。しかし、それよりも気になったのは、彼が両手に持っていたバスケットだった。


「ダン? それは一体なんなのかしら?」


「ふう……道中小腹が空いた時の為に軽食を作ってきたんですよ。良かったらみんなで食べてください!」


 急いで息を整えたダンが俺にバスケットを差し出してくる。それを受け取った瞬間、背後からマルシアが話に入ってきた。


「あ、ダン様! もしかしてこの中身って……()()ですか?」


「ええ! もちろん()()ですよ!」


 その言葉を聞いたメリアとマルシアが軽くハイタッチをして喜びあっている。いつの間にやら、2人はダンに何かを作って欲しいとお願いしていたようだ。バスケットに何が入っているか気になって仕方ないが、楽しみはその時まで取っておくこととした。


「ありがとうダン。……では、行ってくるわね!」


「ルーナ様お達者で! お2人もルーナ様のことよろしくお願いしますね!」


 こうして、馬車に乗り込んだ俺たちは、手を振り続けるダンを見えなくなるまで見送り続けた。

 また学園に戻れば攻略対象たちとの交流も戻ってくる。親睦を深めたとはいえ、一歩間違えればゲーム通りのシナリオになる可能性もゼロではない。緩みかけていた気を今一度引き締め、また明日から始まる学園生活に臨んだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

次回は5月2日投稿予定です。

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