第三十一話「カリアを捜索しました(後編)」
お待たせしました、第三十一話です。
三話かけてのカリア捜索もいよいよ大詰めです。
カリアがいると思われる小屋のドアをノックするが、しばらく待っても返事はおろか音沙汰1つしない。これならば、普通は誰もいないと判断してもおかしくはないだろう。だが、俺にはここにカリアいると確信できている。
返事が無いならばこっちから入ってやろうとドアノブを回そうとするが、ご丁寧なことにカリアは内側から鍵をかけているようだ。余程独りでいたいのだろうか。
今の自分であればドアを壊して無理矢理入ることも容易いだろう。流石に思い出の詰まっているものに傷をつける……どころか破壊するのはかなり良心が痛むが、ここまで来て何もせず帰るのは骨折り損のくたびれもうけだ。それに、せっかく腹を決めた俺の決意のやり場が無くなるのは不完全燃焼もいいところだ。心の中で「ごめんね」と呟いて、俺は魔力を練り上げた。
「カリア! ドアの近くにいるなら離れなさいな!」
万が一カリアに技やドアの破片が当たっては目も当てられないので、大きな声で忠告しておく。これで心置きなく魔術を放てるはずだ。
手に込めた魔力を集中させてシャドーボールを作り出す。ドアは木製なので、破壊する為に込める魔力は僅かで十分だろう。
「ふっ――!」
俺は少し離れた位置からシャドーボールをドアノブ部分目掛けて放つ。シャドーボールは狙った通りにドアノブに命中。その周辺ごと、まるで抉られたように穴が空き、そこら中にドアの木片が飛び散る。
「えっ……えっ……?」
空いた穴から困惑する様子の声が聞こえてくる。どうやら俺の予想は的中していたようだ。その声を聞いた俺は迷うことなく、鍵を失ったドアを開けて中に進入する。
目が暗闇になれてきたところで、部屋の奥隅に目を丸くして佇むカリアを見つけた。
「やっぱりここにいたのね……探したわよ、カリア」
「ルーナ……様? なんでここが……」
「あら、ここは私たちの思い出の場所でしょう? 私が忘れたとでも思っていたのかしら?」
「えっと……いや、そういう訳では……」
口も上手く回らず、目もあちこち泳いでいる。カリアが混乱しているのは間違い無さそうだ。――こういう時は、あの行動を取るのが最適だろう。
俺はゆっくりと1歩ずつ、カリアに近づく。1歩踏み出す度にカリアの動揺は大きくなるが、それでも俺の目論見に揺るぎは無い。
限界まで近づくと、カリアはモゴモゴしており上手く思考を言葉にすることができていないようだ。そんなカリアを、俺は優しく肩から抱き寄せた。
「えと……その……ルーナ様?」
「無理に言葉にする必要はありませんわ。……ごめんねカリア。従者をこんなに思い詰めさせてしまうなんて、主として至らないところばかりね……」
「いえ……私こそ手加減するなと言われていたのに手加減してしまって、それでいて勝ってしまって……それがルーナ様のお心に傷をつけてしまって……私は……!」
「私はもう大丈夫だから。……本当にお人好しね、貴方は」
呼吸の浅いカリアを抱き続けていると、いつの間にか彼女も俺の背中に手を回していた。その後俺たちは一言も発さず、しばらく抱擁を続けていた。そう、俺が初めてここに辿り着いた――あの時のように。
カリアが平常心を取り戻すまでには、日もすっかり落ちて真っ暗になってしまっていた。カリアはバツの悪そうな顔で再び謝罪を口にする。
「あはは……お見苦しいところをお見せしちゃいましたねえ……改めて、ご迷惑をおかけしましたあ」
「もう、私は大丈夫だと言ったでしょう? それに単なる思いつきで貴方に勝負を申し込んだ私にも非はありますわ。ここはおあいこということにしておきましょう」
「うう……ルーナ様ああ! ありがとうございますうう!」
「ああちょっと、泣きついてこないの! ……全くカリアったら」
また情緒が不安定になりそうなカリアをなんとか宥め、俺たちは帰路に着いた。辺りは真っ暗闇でほとんど見えなくなってしまっていたが、元々暗い地域を好む種族であるクロウであれば夜目も利くので、クロウに道案内を頼んだ。
クロウを先頭にしながら帰り道を歩く中で、久しぶりに2人での他愛ない会話に花を咲かせていた。
「あ、そういえば。私が言うのも変ですが、ルーナ様はどうやってあの状況から立ち直れたのですかあ?」
「実はあの後ギース様が訪ねてきましたの。……あのお方には本当頭が上がりませんわね
「ルーナ様にそこまで言わせるなんて、流石はギース様ですねえ」
「ふふ、そうですわね。そのお陰で――」
そこまで話したところで俺は立ち止まってカリアに向き直る。カリアはどうしましたかと言わんばかりにこちらを向いて首を傾げている。
「お陰で、私はまた1つ強くもなれましたの。カリア、次闘うその時は負けませんことよ! お覚悟なさいな!」
「もちろん、その時は今度こそ全力をもってお相手しますよお! 私もこのままではスッキリしないのでえ!」
こうして、再戦を誓い合った2人。あんなに張り詰めていた心が、今ではとても晴れやかな気分だった。……クロウの案内で屋敷に辿り着き、入り口の扉を開くその時までは。
「……お帰り、ルーナとカリア。随分遅かったじゃないか」
「夕食の場にいなかったからどうしたものかと思っていたら……どこをほっつき歩いていたのかしらあ?」
「お……お父様にお母様……」
なんとドアの向こうにはギルバートとソニアが待ち構えていた。ギルバートの眉間には皺が幾つも出来ており、ソニアは笑顔だがその笑顔がやけに冷ややかに感じた。まあ貴族としての振る舞い以前に、我が子の帰りが遅くなればこうもなるだろう。
こうして、その場で正座させられた俺とカリアは2人からの説教を就寝時間直前まで聞かされることになったのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は29日投稿予定です。




