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第三十話「カリアを捜索しました(中編)」

お待たせしました、第三十話です。

節目となる三十話。正直、三日坊主な私がここまで続けられるとは思いませんでした。これからもぼちぼち頑張りたいと思います。

 カリアのいる可能性が高い場所を閃いた俺は、早速屋敷を抜け出して裏庭の方へ向かった。

 裏庭は執事長が趣味も兼ねて庭師たちと共に手入れをしており、一定間隔で植えられた生垣や、仕切り内に所狭しと並んでいる花々には芸術の息吹すら感じる。俺はインドア派なので図書室のようや雰囲気が落ち着くのだが、この空間に限ってはそんな俺でも心にゆとりが生じるほど居心地良い。

 だが、俺の目的地はここではない。というか、ここならば目撃情報はたくさん上がるのは明らかだ。今俺が向かっているのはもっと人目につかないところだ。


 すっかり日も傾き始め、夕陽に照らされながら、俺は裏庭の奥へ奥へと進んでいく。ただこの裏庭の広さも結構なものであり(良く例えで使われるドーム1つ分くらい?)、1番奥まで辿り着く頃にはルーナの体力ではそこそこ息が上がってしまう。今日はギースとの戦闘やカリア捜索のため屋敷をあちこち歩き回ったのもあってか、脚が産まれたての仔鹿みたいに小刻みに震えそうになっている。

 そんな裏庭の1番奥には、まるで手入れの行き届いていない小さな小屋が一軒佇んでいた。小屋の外にはすっかり錆びついたスコップや先端が風化して折れてしまっているジョウロが無造作に置かれている。

 ルーナが5歳くらいの頃、屋敷から裏庭に出る道の近くに新しい小屋が建ったのを見て執事長に尋ねたことがあるようだ。その小屋はいわゆる物置小屋で、元々奥にあったのを、利便性を踏まえて屋敷の近くに引っ越しをしたと、執事長が言っていたとルーナの記憶に残っている。つまり、目の前にあるこの小屋こそがかつての物置小屋だったのだ。


 そしてなぜ、そんな辺鄙な場所にある旧物置小屋に俺は足を運んだのか。その話はまた俺が幼い頃まで遡ることになる。




 俺が両親に色々教えてもらうよう懇願したあの日から間もない頃、俺は一度だけ誰にも言わず屋敷を抜け出したことがある。理由としては、母ソニアから教わる宮廷作法についていけなかったからだ。

 まだあの頃は人並み以下の体力であるルーナの身体に順応出来ておらず、気づけばすぐバテバテになっていた。それに、中身である俺の上流階級に対する知識が全く無かったのも問題であり、ルーナがルーナであった頃の記憶があるとはいえ、ほぼ知識ゼロから学んでいくのは本当に骨が折れた。

 こうして頭も体も疲弊しきってしまった俺は、ある日こっそりと裏庭の方へ逃げ出してしまったのだ。今の俺からすれば、自分から頼んでおいて逃げ出すなんて虫のいい話にもほどがあるとしみじみ思う。

 重くなる脚をなんとか動かしながら、人目を避けて裏庭の奥へと向かっていき、そこで件の物置小屋を見つけたのだ。使われなくなってから1年経っていたその小屋は、まだそれほど風化してはおらず、辺りを軽く埃が舞っている程度だった。

 その小屋に入った俺は、ただひたすらに何もしないで小屋の中で何も考えずぼーっと壁を眺め続けていた。ただ不思議と退屈にはならず、むしろこの時間に幸福感を覚えた。思えば、転生前は10年近く1人暮らしだったのだ。常に誰かが周りにいて気が抜けない生活ばかりでは息も詰まるというものだろう。


 どれくらい時間が経ったかは定かではないが、俺のプチ家出は気づけば夕陽が照らし始める時間帯にまで及んでいた。きっと今頃、俺がいないことに気づいた屋敷内は蜂の巣を突いたような大騒ぎになっているだろう。

 そろそろ帰って謝らなければ取り返しのつかないところまでいきそうとは頭で思いつつも、俺の体は微塵も動けそうにはなかった。

 そろそろ人肌が恋しくなってきている自分がいる。でも、もう少しこのままでいたいと思う自分もいる。そんな背反した思いが俺の中でせめぎ合っていたところ、背に向けていたドアをノックする音が耳に入ってきた。どうやら誰かが俺を探しにここまで来たらしい。さしずめ騎士団辺りだろう。自分で帰る気はもうさらさら無いので、このまま連れて帰ってもらった方が幾分か気が楽だ。俺は覚悟を決めてその人物が入ってくるのを待ち構えた。

 だが、その人物はいくら待っても入ってこない。――まるで、ドアの向こうに誰かがいるのが分かっているかのように。


(まさか……!)


 俺の部屋に訪ねてくる人は数知れずだが、ドアをノックしてから俺が返事をするまで何も言葉を発しないのは1人しかいない。今まではまるで言うことを聞かなかったはずの足がその時だけは何事もなく動き、俺は大急ぎでドアを開けた。


「あ、やっぱりここにいたんですねえ!」


 そう言って小屋までやってきた人物――カリアは満面の笑みを見せた。普段からも眩しい彼女の笑顔が夕陽に照らされて余計に眩しく見えた。そんなカリアの姿にかつてないほどの安心感を覚えた俺は、気づけばカリアのことを抱きしめていた。


「えっと……ルーナ様?」


「ごめんカリア……もう少しこのままでいさせて」


「……わかりましたよお」


 実際はルーナも俺をすぐ連れて帰るつもりだっただろう。だがカリアはそのことは一切口にせず、俺が落ち着くのを待ってくれた。その後踏ん切りがついた俺はカリアにおぶられるまま帰宅し、待ち構えていた両親の叱責を受けることとなった。

 だが、あの空間の心地よさが忘れられない俺は、何かあるたびあの部屋に赴くようになった。もちろん、カリア同伴で。彼女がいれば、もし見つかってもそこまで酷く咎められることはないだろうと考えたからだ。

 このような出来事から、この旧物置小屋は秘密基地的な役割を果たしてくれる、2人だけの思い出の場となった。



(あの時のカリアも、こんな気持ちだったのかな……)


 あの時と立場は逆になっていることになんとも言えない感情が湧いてくるが、思い出浸るのはここまでにしておこう。俺は扉の前で1つ深呼吸をしてから、ドアをノックした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

次回は26日投稿予定です。

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