第二十九話「カリアを捜索しました(前編)」
お待たせしました、第二十九話です。
行方知らずのカリア。ルーナにアテはあるのでしょうか……。
さて、いよいよカリアと向き合う決心がついて彼女のところへ向かおうと屋敷内を歩き回っているのは良いのだが……。
(そういや、カリアってどこにいるんだ?)
あの闘い以降、俺はカリアの姿を見ていない。ずっと部屋に引きこもっていたせいなのは確かだが、屋敷ではいつも忙しなく走り回っていた彼女を一切見かけないのも違和感だ。
このままあてもなく探し回っては日が暮れるので、ちょうど目の前に現れた2人に居場所を尋ねてみることにした。
「そこの2人、ちょっと良いかしら?」
「……えっ? ルーナ様?!」
「ルーナ様……! お体は大丈夫なのですか?」
なんと、その2人はメリアとマルシアだった。彼女たちならばカリアの居場所を知っている可能性が高いだろう。……だが、その前にまずは心配をかけたことへの非礼を詫びなければ。
「ええ、もう大丈夫ですわ。2人には心配をかけましたね。特にメリア。食事を運んでくれたこと、感謝しますわ」
「え、ええと……その件もそうなのですが……」
何やらメリアの言葉の歯切れが悪いようだ。あの落ち込んでいた時と比べれば、体調もすこぶる良いはずなのだが……。
状況を理解できずに首を傾げていると、マルシアがしかめ面をグイッと近づけてきた。その迫力に思わず後退りそうになる。
「マ……マルシア?」
「ルーナ様! 私たちが心配しているのは、今のルーナ様です!」
「今の……私……?」
「そうですわ! 泥だらけのドレスに、砂埃を被ってボサボサなお髪! そして何よりその赤くなっているお顔! 一体何をされたらこんなボロボロになれますの……!」
「あ……ええっと……それはギース様と……」
「理由は関係ありませんわ! さあ、早くお部屋までまいりますわよ!」
言われてみれば、身だしなみを整えず屋敷をうろつくなんて、貴族令嬢の風上にもおけない。マルシアが声を荒げるのも当然のことだ。幼少期、カリアに言った「いつどこで誰が見ているか分からない」という言葉が、今になって自分に返ってくるとは……。
マルシアに背中を押されながら自室まで辿り着き、流れるような動きで俺の身だしなみを整え始める2人。あまりのテキパキさに俺は2人に身を委ねる他なかった。
マルシアが代えのドレスを選定している間、メリアが髪を整えていく。メリアは慣れたような手つきで、風や砂埃でボサボサになっていた髪をみるみるとかしていった。
「ルーナ様のお髪、本当サラサラで羨ましいです。普段からきちんとお手入れされているのですね」
「あら、メリアの髪だって美しいと思うのだけれど?」
「そのお言葉は嬉しいのですが、羨ましいというのは私ではなく妹のことで……」
メリアに妹がいることは知っていた。確か5つ年下であると資料集に書いてあったが、妹に関する記述はそれくらいしかない。
ここもファンの間では想像で描かれたイラストがたくさんあったが、皆三者三様で、かく言う俺も全くイメージが湧かなかった。これはその妹のことを知れる千載一遇のチャンスだ。
「あら、メリアには妹さんがいらしたのね」
「はい。私の妹……ジュリというのですが、私とは違って体を動かすのが大好きな元気っ子で……いつも帰ってくると髪の毛がボサボサだったんです。母がいない時は私が代わりにジュリの髪をとかしていたんですが、なかなか櫛が通らない癖っ毛だったものでして。こうしてすぐとかしただけでサラサラになるルーナ様が羨ましいなあ……
と思った次第なんです」
「妹ねえ……私はずっと一人っ子でしたので、素敵なご姉妹がいるメリアの方が羨ましく感じますわ」
「そうですか? 実家にいた時はあまりそういう実感はありませんでしたが……そうですね。こうして離れて暮らしていると、なんだか妹が恋しく感じちゃいます。……ジュリ、今は何をしているのかしら」
メリアの微笑ましい姉妹トークに花が咲いている内にメリアのブラッシングがあっという間に完了しており、マルシアによるドレスの着付けも瞬く間に終わってしまっていた。カトラス家の使用人たちにも引けを取らない手際の良さ……間柄が違えば、ぜひ使用人としてスカウトしたいほどの逸材だ。
「……ふう。よし、これで完璧ですわね! ……そう言えばルーナ様、何か私たちにお伺いしたいことがあったのでは?」
一仕事終えて深く息をついたマルシアが俺に尋ねてきた。――そうだ、メリアとの和やかトークで気が緩みかけていたが、まだやるべきことが残っている。
「そうでしたわね。2人とも、カリアがどこにいるか知っているかしら?」
「カリアさんですか? うーん……すみません、私もここ数日は見かけていないですね」
「私もですわ。お力添えできない私が不甲斐ないですわ……」
「……いえ、情報ありがとう。一応、他の者たちにも聞いてみるわ」
そう言ったあとメリアとマルシアも協力すると進言してくれたが、今は客人として迎えている2人にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。それに、これは俺1人で解決しなければならない――そんな予感がした。
その後、俺は使用人たちにカリアの目撃情報を聞いて回ったが、誰1人と彼女を見たと言う者は現れなかった。広い屋敷とはいえ、こんなに見つからないものだろうか……。何か見落としていることがあるのではないかと、ルーナとして過ごしたこれまでの記憶に思いを馳せる。その時、ふと閃いた場所があった。あそこならば、或いは彼女がいるかもしれない。
朧げな記憶を頼りに、俺は思い出した場所へと向かった。俺とカリアの思い出が残る、あの場所へ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は23日投稿予定です。




