第二十七話「ギースと闘いました(前編)」
お待たせしました。第二十七話です。
ルーナとギースのバトルが開幕します。
クロウが作ってくれたせっかくのチャンス、ものにしない訳にはいかない。詠唱を終えたとっておきの魔術を俺は発動させた。
「な……ルーナ嬢が……2人?!」
驚くのも無理はない。ギースの言葉通り、彼の目には俺が2人に見えているはずだ。これが俺のとっておきである闇魔術の上級技「ドッペルゲンガー」だ。闇の魔力で自身の分身体を作り出す。
分身体の強さは詠唱の有無や込める魔力量によって変わる。簡単な詠唱と少しの魔力だけで良ければさながら忍者の影分身みたいな芸当も可能だ。
だが、ギース相手にはハリボテをいくら作ろうとすぐ見破られてしまうだろう。なので今回は魔力をしっかりと込めて作った1体のみとした。これならば完全とは行かずともかなり俺に近い戦闘力になっているはずだ。
これでクロウも加えれば3VS1という展開を作り出せる。並大抵ではこの状況を打破することは至難の業だろう。ということで、まずはこの人数有利を活かすために手数で攻めていこう。
「はあああっ!」
俺と俺の分身体がそれぞれ左右に飛びながらギースに小さな魔力弾を連射する。闇魔術の初級技「シャドーボール」だ。魔力を込めて威力を高めたり、このように威力の低い小弾を連発できたりと汎用性が高く扱いやすい技だ。
「くっ……!」
上記に加えてクロウの妨害もあるため、流石にギースも全部を捌くのは不可能なようで、幾つか攻撃を喰らっている様子だ。
たが、忘れてはいけない。ギースが扱うのは剣だけではないということを。
「ふんっ!」
ギースが右腕を上空に掲げると、彼の周りを竜巻のような強い風が覆い始めた。風魔術の中級技「トルネード」。文字通りなので説明は不要だろう。
ギースを覆う暴風はさながら鉄壁のようで、低威力のシャドーボール程度では簡単に弾き飛ばしてしまい、クロウも近づくことすら出来なくなる。
「やはりルーナ嬢は強いね。普段は剣しか使ってないけど、魔術を使わざるを得なくなるまで追い詰められるなんてね……!」
なるほど、ここからがギースの本領発揮というわけか。2属性の魔術も加われば、彼の手数は無限大と言っても過言ではないだろう。
「さあ、今度はこっちの番だね!」
そう言うと風に覆われる彼の手元がチカっと赤く光った。その刹那、何かが俺の頬を掠った。
「えっ……?」
掠めた部分を手で触れてみるとほんのり熱くなっているのが感じられた。火の魔術であることは間違いないのだが……こんな技は見たことがない。
「フフ、驚いたかい? ルーナ嬢が武闘大会で特訓しているのを見ていたら僕も感化されちゃってね。こっそり剣を媒体にした魔術を扱えないかと模索していたんだよ。それで完成したのがこの技って訳さ。」
なるほど、通常手や足に込める魔力を剣の切先に込めることで、より魔力を圧縮することができるのか。剣と魔術、両方を十分に理解していなければこの発想にすら至れないだろう。これが彼の強さの根源なのだろう。
ギースはその後も安全圏からレーザービームのような魔術を俺や分身体、クロウに向けて放ち続けた。魔術の速さもそうだが、風で巻き上がる砂埃でギースの動きを捉えにくくなっている。攻めから一転、俺たちは防戦一方を強いられていた。何か突破口は無いか……。
――待て、今ギースを鉄壁たらしめているのはあの暴風。つまり、あの暴風が無い範囲は無防備だ。俺にはあの暴風を掻い潜ることが可能かもしれない技がある。
俺はギースが俺以外を狙撃した瞬間を狙い、両手を撃ち合わせてシャドーバインドを発動した。シャドーバインドは地面を這って相手に忍び寄っていく技。これならばきっとギースに届く……!
俺の予想は見事に的中。暴風の中にシャドーバインドが潜り込んで間もなくレーザーの雨が止まり、やがてギースを覆っていた風も完全に収まった。ようやくはっきりと視認できたギースは、俺のシャドーバインドにしっかり拘束されていた。
今までこの技を受けて破ったものはいない。これで勝利は貰った――と思いたかったが、ギースの目はまだ光を失っていなかった。……まさか、そんなことがあるのか。
「はああああっ!」
ギースが足元に火と風の魔力が集中させるや否や、その魔力を一気に放出させて彼を拘束する影の腕ごと上空に飛び立った。
「な……!」
俺は言葉を失った。だがそれは力業で拘束を解かれたからではない。魔術を使えば脱出自体は不可能ではないのだ。ただこれは、脱出に使う勢いと拘束に対象者の体が耐えられたらの話だ。無理矢理出ようものなら最悪四肢と胴体がさようならしてしまう可能性がある。
だが、ギースは五体満足で華麗に着地していた。あの衝撃に耐えうる身体まで兼ね備えているとは……彼の底が見えないスペックに畏怖の念すら抱いてしまう。
だが、ここまでのギースを見て気付いたことが 1つある。魔術とあの身のこなしの組み合わせ――あれを俺も使えるようになれば、カリアにも通用するかもしれない。そう、ただ勝つだけでは戦っている意味がない。彼から盗める技術は全て盗んでやらねば。
(もしかしたらギースもこれが狙いで……?)
そう思ったが、口にするのはやめておいた。ここでこれ言うのは流石に無粋というものだろう。
学びや勝敗以前に、今はただ――彼との勝負を楽しみたい!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は17日投稿予定です。




