第二十五話「思わぬ来客がありました」
お待たせしました、第二十五話です。
ルーナ敗北。彼女は立ち直れるのか……。
「…………はあ」
意識を取り戻してから一夜明け、太陽も既に昇りきっていたが、俺は未だベッドから出られずにいた。どこかが痛いみたいな体の不調があるわけではない。ベッドから起き上がればすぐに行動できるだろう。
だが、想像以上に心へのダメージが大きかったようだ。負けたこともそうだが、「これで十分」と慢心していた自分に嫌気が差していた。自分に対する情けなさを痛感する度に、ますます体が重くなるような感覚に囚われてしまう。
もちろんカリアに責任は全くない。全力で来いと言ったのは俺だし、痛みが無いところを見るにちゃっかり手加減もしてくれている。後に響かないように。そんな優しさ溢れるカリアを責めるなんぞ、誰ができようか。
そんなやり場のないモヤモヤが俺の全身をぐるぐる回り始めたころ、自室のドアをノックする音が聞こえた。いつものノック音より弱々しく聞こえたということは、ドアの向こうに立っているのがカリアではないことを示していた。
俺は怠さを覚えながらもなんとか上半身を起こし、ドアの向こうに立つ人物に入るよう促した。
「し、失礼します……。ルーナ様、食事をお持ちしました」
そう言いながら恐る恐る部屋に足を踏み入れてきたのはメリアだった。彼女も事情を知っているのか、心配そうな表情でこちらを見つめている。
そして彼女の言う通り、片手には料理が盛り付けられた皿が置かれたお盆を持っていた。
「ありがとうメリア。料理は……そこのテーブルに置いておいてもらえる?」
「分かりました。……えっと、その、ルーナ様。……いえ、やっぱりなんでもないです。では、失礼しますね」
メリアは何か言いたげにしていそうだったが、俺の顔色を伺うや否やすぐに口をつぐんで、お盆をテーブルに置くとそそくさと部屋を後にした。
メリアが料理を持ってきたということは、カリアは俺に気を遣っているのだろう。そしてそんな客人であるメリアにまで気を遣わせてしまっていることに対する嫌悪感に、更に自分が情けなく感じてしまう。ダンが作ってくれたのであろう出来立ての料理も、全く喉を通ってはくれなかった。こんな経験は転生前の人生を含めても初めてだった。
起きているとまた負のスパイラルに陥って嫌なことばかり考えそうだったので、また一眠りすることにした。幸いにも今日は優しく日が差すような良い天気であったため、すぐ眠りにつくことができた。
どれくらいの時間眠っていただろうか。部屋の外から慌ただしく聞こえる足音や響き渡るような大声に目を覚ました。何か大事になっているのは寝起きでも理解できたが、それでも体の重怠さが枷となって一歩も動けそうになかった。
一抹の不安を覚えながらも再び眠りにつこうと布団を被る。しかし、俺の安眠はけたたましいほどのノック音で妨げられた。
「ルーナ様! 急いで御支度を!」
俺が許可を出す前に入ってきたのはカリアとは別の使用人だった。俺の部屋に入るなりぜえぜえと息を切らしているのを見るに、相当一大事のようだ。
「えっと……支度って、一体何に対するものなの?」
「説明している暇はありません! 急ぎ着替えて身だしなみを整えましょう!」
そういうと、控えていた使用人数名が続々と部屋に入ってきて俺の身支度をし始めた。ここまでしなければならない要件って一体なんなんだ……。
ものの数分で身支度が終わらせた使用人たちは、俺に「ではこちらでお待ちください!」とだけ言い残してそそくさといなくなってしまった。
嵐のような数分間に呆気に取られているのも束の間、立て続けにドアをノックする音が聞こえてくる。本当に今日は良く人が訪ねてくる日だ。
どうぞと一声かけると、見覚えのある金髪の青年が部屋に入ってきた。そう、ギースである。その姿を見てようやく、使用人たちの大慌てぶりに合点がいった。王族が訪ねようものなら相応の対応というものがある。……それにしても、マルシアといいギースといい、なぜ突飛な行動をする貴族が俺の周りには多いのだろうか。
「やあ、ルーナ嬢。元気にしていたかな? 久々に会いたくなって思わず来ちゃったよ」
「……久々って、まだ1週間も経ってませんわよ? それに、会いにくるのなら事前に連絡を入れてくださる? こちらにも準備がありますので……」
「いやあ、ルーナ嬢を驚かせようと思ったんだけどね……使用人たちには悪いことをしたよ。後で詫びの品でも入れおくとしよう。――さて、君も体調が優れないみたいだし、座って話でも聞こうじゃないか」
ギースの促しでテーブルを挟み、俺たちは椅子に腰掛けた。そして、何故か俺は心のモヤモヤをギースに全て打ち明けた。魔力の向上で悩んでいること。カリアと勝負して負けたこと。そしてそれが原因でカリアに気を遣わせているのではないか心配なこと。
思い返せば何故彼に対してこうも心境を話したのか不思議でならなかったが、ギースは嫌な顔一切せず、ただ俺の吐露を受け止めてくれた。そんな彼から滲み出る優しさに涙が出そうだった。
ひとしきり俺の話を聞いたギースはすっと立ち上がると、屈託のない笑顔でこう言い放った。
「事情はよく分かったよ。……ルーナ嬢。僕と一戦交える気は無いかい?」
「……へ?」
なぜ今の話で闘う流れになるのか疑問も甚だしかった。……だが自信満々な彼を前に何も言い返すことはできなかったので、ここは大人しく言うことを聞いてみる他なかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は11日投稿予定です!




