第二十四話「カリアの強さを思い知りました」
お待たせしました、第二十四話です。
またまたバトルシーンを書いちゃいました。
「――フッ!」
いつものほんわかとした雰囲気はどこへやら。開始の合図と共に、カリアは獲物を狩るような眼差しで瞬時に間合いを詰めてきた。正直その気迫だけで言えばジェイドにも引けを取らないだろう。だが、遠距離対近距離でこの初動はもはや定石だ。それ故に読みやすい。ここは武闘大会と同じく、ゴーストステップを使って回避する。
空を切ったカリアの右拳は正確に俺のみぞおちがあった場所を捉えていた。手加減するなとは言ったが、本当にいきなり急所を狙ってくるとは。……下手したらこれ、俺死んじゃわないか?
だがそんなことはお構いなしと言わんばかりに、カリアは神速とも言えるスピードと人体の急所を的確に狙ってくる正確さで着実に俺を追い詰めてくる。ジェイド戦のお陰でゴーストステップの扱いには慣れてきているが、その時と違うのはやはり速さだ。このままではいずれカリアに捕えられてもおかしくはない。これを凌ぐには……アレを試すしか無い。
俺はゴーストステップで回避行動をとったまま、両手をパンと打ちつけてシャドーバインドを発動させる。魔術の同時発動。上手くやれる自信は正直無かったが、土壇場で成功したようで何よりだ。
カリアに伸びた腕が彼女を捕まえようと影から伸び出て来る――その刹那だった。
「ハアッ……!」
カリアが地面に向けて思い切り拳を突きつけた。その衝撃でシャドーバインドの狙いがぶれ、カリアを捕えるのに失敗した。僅かな魔力の流れを感知したのか、はたまた勘なのか。理由はどうであれ俺の必勝パターンを潰されたのは痛手すぎる。
……いや待て、ほんの一瞬だがカリアは今俺から目線を外している。この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。これを活かすにはクロウが最適だろう。そう思った俺はクロウに指示を出そうとした。
「ギャアアア!」
「……えっ? クロウ?」
なんとクロウが指示を出す前に自ら飛び出していったのだ。そしてクロウは俺の思い描いていた内容が分かるかのように、カリアに向けて猛スピードで突進を仕掛けていた。そんなクロウを見て違和感にもう1つ気づく。
(……あれ、クロウってあんなに速かったか?)
そう、見るからにクロウの飛行速度が上がっているのだ。俺の知る限りでは、クロウの飛行能力は現実のカラスによく似ている。故に頑張っても時速50kmくらいが限界だろう。だが、今のクロウは明らかにそのスピードを上回っている。
後になって判明したことなのだが、どうやらクロウは風属性の魔術を幾つか扱えるようになっていたらしい。飛行速度アップのタネは、風属性の中級技「マッハウインド」だったようだ。
クロウが魔術を使えるようになっていた理由も、指示を出さなくても意思疎通ができた理由も分からない。だが、この時の俺はそんな疑問を抱く余地は無かった。
俺が作った隙を狙い、クロウが一直線にカリアに突っ込む。やがて、クロウのクチバシがカリアの頭部に届こうとした、その瞬間だった。
「――ッ!!」
その光景に俺は驚愕した。あと数mmといったところでクロウのクチバシがカリアに届くことはなく、彼女の左手にがっしり掴まれてしまっていた。……しかも拳を地面に突きつけた体制のまま、ノールックで。
クロウもしばらく現実を受け止めきれずに動きが止まっていたが、やがて我に帰ると体をジタバタさせてカリアから逃れようとする。俺も慌てて魔術で牽制しようとしたが、その時にはもう手遅れで、既にカリアは体制を立て直していた。
「ごめんねクロウちゃん。ちょっとだけ大人しくしててくださいね……」
カリアはそうクロウに優しく呟くと、クロウの首元に軽く手刀を打ちつけた。それまでなんとかもがき続けていたクロウだったが、手刀が入ると共に翼と脚がガクンと項垂れてしまった。
「ク……クロ……」
カリアの人間離れした技術と相棒の見たことのない姿で頭の中がごちゃごちゃになってしまった俺は、戦闘中であるにも関わらず狼狽えてしまっていた。そんな俺を見兼ねてか、カリアは両手でクロウを支えたまま俺の目の前に差し出してきた。
「心配は入りませんよ。ほんの軽い脳震盪を起こしているだけです。少し休ませてあげればまた元気なクロウちゃんに会えますよ」
「え……ええ……」
カリアの促すがまま、俺はクロウの召喚を解いた。それによってクロウが異空間へと戻った瞬間、俺はとてつもないほどの焦燥感に駆られてしまっていた。必勝パターンが潰され、頼りの相棒も戦闘不能。今まで感じていた万能感が消え去っていくのが嫌でも伝わってきた。
カリアが仕切り直しを提案してきたが、正直に言うと当初の目的であった訓練どころではなかった。カリアの提案になんと返事したのか、そしてその後どのような展開になったのか、それすらもはっきりと覚えていないほど俺は憔悴しきっていた。
「…………ん」
次に意識がはっきりとし始めた頃には、俺は自室のベッドに仰向けになっていた。記憶の整理が追いつかず、必死に靄がかかる記憶を呼び起こしていく。ある程度のところまで思い出したところで、その現実から背くように俺は頭から布団を被った。
認めたくはない。だが、あの強さの前には認めざるを得ない。そう、俺は――負けたのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回は8日投稿予定です!




