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『異世界無双なんて後回し。まずは生きるために稼ぎます』  作者: ミタテ屋


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第56話◇ 魂の共鳴

 鉱殻ゴーレムは、すぐには動かなかった。


 崩れた岩の中からゆっくりと身体を起こし、コウイチとミアを見下ろしている。その姿は人間に近い形をしているものの、頭から足先まで黒灰色の岩のような外殻に覆われ、腕はコウイチの胴ほども太い。


 先ほど戦ったロックシェルも硬かったが、目の前のゴーレムは比べるまでもない。


【鉱殻ゴーレム】


【Lv22】


【危険度:C】


 表示を見間違えたわけではなかった。


「……ミア、下がれるか?」


 槍を構えたまま小声で聞くと、ミアはゴーレムから目を離さずに答えた。


「後ろは大丈夫です。でも、通路が狭いです」


「ああ」


 来た道は残っている。


 逃げられないわけではないが、ここは1階層より通路が狭く、途中には壁から張り出した岩もある。背中を向けて逃げたところを追われれば、どれほどの速さで動けるか分からない相手だけに危険だった。


 それなら少しずつ距離を取り、相手の動きを見てから判断した方がいい。


「ゆっくり下がるぞ。走るのは――」


 言い終わる前に、鉱殻ゴーレムの右足が動いた。


 重そうな見た目に反して踏み出しは思ったより速く、床を震わせながら一気に距離を詰めてくる。


「ミア、横!」


「はい!」


 2人が左右へ分かれた直後、ゴーレムの拳がコウイチのいた場所へ叩きつけられた。


 轟音とともに石片が飛び散り、床に大きな亀裂が走る。


「……あれは受けられないな」


 革鎧がどうこうという威力ではない。まともに食らえば、骨ごと砕かれる。


 コウイチはすぐに槍を突き出したが、狙ったのは胸ではなく腕の付け根だった。先ほどのロックシェルと同じなら、動く場所には必ず隙間がある。


 ミスリル合金の穂先が、肩と胴の境目へ入る。


 ガッ――!


 硬い感触が手に返ってきた。


「浅い……!」


 刺さってはいる。


 だが、肉を貫いた時の感触とはまるで違い、わずかに表面を削っただけだった。鉱殻ゴーレムは痛がる様子すら見せず、そのまま腕を横薙ぎに振るう。


 コウイチは槍を引きながら後ろへ跳んだ。


「ミア、関節も硬い!」


「はい!」


 反対側へ回っていたミアも、脚の付け根を狙っていた。


 A品質まで引き上げられた短剣が岩の隙間へ入り、ガリッと表面を削る。刃は欠けていないが、それでも深くは入らない。


 ロックシェルなら通った場所だ。


 それが通らない。同じ硬い魔物でも、明らかに格が違っていた。


 鉱殻ゴーレムが身体を回し、今度はミアへ腕を振り下ろした。ミアはその動きを見て素早く横へ抜け、拳が床へ落ちるより先に距離を取る。


 速さだけならミアの方が上だ。


 それでもコウイチは安心できなかった。相手の一撃が重すぎるうえに、こちらの攻撃は何度当てても致命傷にはならない。それに対し、向こうの攻撃は1度でもまともに受ければ終わる可能性がある。


「ミア、《急所看破》は?」


 ゴーレムの背後へ回り込んだミアが、一瞬だけ動きを止めた。


「……分かりません」


「見えない?」


「はい。急所がないのか、私に見つけられないのかも分かりません」


「分かった。それでいい」


 分からないものを無理に決めつける方が危険だ。


 コウイチはゴーレムの攻撃を避けながら考える。


 生き物ではないのだから、槍が刺さっても血は出ず、痛みで動きを止めることもない。ならば、何がこいつを動かしているのか。


 答えは出ない。


 それでも身体のどこかに、動くために必要なものがあるはずだ。何もない岩の塊が、理由もなく動いているとは思えない。


 鉱殻ゴーレムが再びコウイチへ向き、右腕を振り上げた。


 コウイチは横へ回りながら槍を構え、その腕が落ちてくる瞬間に踏み込む。ドルガンから聞いた話を思い出しながら、外殻の継ぎ目に見える場所へ穂先を合わせた。


 突く。


 槍を通して衝撃が腕へ返ってきた。


 それでも今度はすぐに引かず、身体を捻って穂先を押し込むと、黒灰色の外殻がわずかに欠けた。


「……壊せないわけじゃない」


 ただ、普通に攻撃していたのでは時間がかかりすぎる。その間に1発も食らわずにいられる保証はない。


「ミア、少しずつ後ろへ下がる。攻撃するより、逃げられる場所まで――」


「コウイチ様!」


 ミアの声に反応して顔を上げると、ゴーレムの左腕がすでに迫っていた。


 コウイチは横へ避けたが、完全には間に合わない。拳の端が槍の柄をかすめ、凄まじい衝撃に両腕を持っていかれた。


 数歩よろめいたところで、壁へ肩をぶつける。


「っ……!」


「コウイチ様!」


「大丈夫! 来るぞ!」


 痛みより先にゴーレムを見る。


 やはり速くはない。


 だが、狭い。


 これだけ大きな相手が通路の中央を塞いでいるせいで、攻撃を避ける方向が限られる。少しずつ後退してはいるものの、背後にも張り出した岩があり、走って逃げられるほど真っ直ぐな道ではなかった。


 それでも時間をかければ戻れる。


 そう考えた直後、ゴーレムがコウイチではなくミアへ向きを変えた。


 ミアは右へ動く。


 その先には壁がある。


「ミア、そっちは――!」


 ゴーレムの腕が横へ薙がれた。


 ミアも気づいて身体を沈めたが、拳そのものを避けても、太い腕までかわし切れる位置ではない。


 コウイチは考えるより先に走っていた。


 ミアの身体を横から突き飛ばす。


「きゃっ!」


 そのまま自分も前へ転がるつもりだった。


 だが、間に合わない。


 脇腹に、何か巨大なものがぶつかった。


 音より先に身体が浮き、次の瞬間には背中から壁へ叩きつけられる。


「――っ!」


 息ができない。


 何が起きたのか理解するより先に膝が崩れ、コウイチは槍を杖代わりにして、どうにか倒れるのを防いだ。


 肺へ空気を入れようとすると、右の脇腹から胸にかけて鋭い痛みが走る。


「コウイチ様!」


 ミアが駆け寄ろうとする。


「来るな!」


 どうにか声を絞り出した。


 ゴーレムは止まっていない。


 ミアはすぐに振り返ると、コウイチとの間へ入るように立って短剣を構えた。


 その背中を見ながら、コウイチは壁へ手をついて立ち上がろうとする。だが、浅く息を吸っただけで脇腹に痛みが走った。


 折れた。


 おそらく、1本ではない。


「……肋骨、やったか」


「動かないでください」


「そうしたいんだけどな」


 ゴーレムがミアへ歩き始めている。


 ミアは攻撃せず、距離を保ちながらコウイチから引き離そうとしていた。


 正しい。


 だが、このままでは何も変わらない。逃げるにしても、まずあいつをどうにかして距離を作る必要がある。


 コウイチは槍を握り直した。


「コウイチ様?」


「ミア。少しだけ時間を作ってくれ」


「何をするんですか?」


「《穿牙》を使う」


 ミアがこちらを見た。


「駄目です」


 即答だった。


「その身体では――」


「分かってる。でも、普通に突いてもほとんど効いてない」


 槍を持ち上げるだけで脇腹が痛む。


 《穿牙》は腕だけで使う技ではない。足を踏み込み、腰を回し、身体全体の力を槍へ通す。


 今の状態で使えば、肋骨へどれほどの負担がかかるかは考えるまでもなかった。


 だから、何度も使うつもりはない。


「1発だけだ」


「でも――」


「これで駄目なら逃げる。無理して倒すつもりはない」


 ミアは何か言おうとしたが、ゴーレムが近づいてきたため前を向いた。


「……1回だけです」


「ああ」


 コウイチは痛みをこらえながら槍を構えた。


 狙う場所を考える。


 関節では足りない。


 外殻を少し削ったところで止まらない。


 なら、もっと深く壊すしかない。


 視線がゴーレムの胸へ向いた。


 人間なら心臓がある場所だが、もちろんこいつは人間ではない。それでも身体の中心であり、周囲よりわずかに外殻が厚く見える。


 なぜ、そこだけが厚い。


 守る必要があるからか。それとも、ただそういう形なのか。


 確証はない。


 それでも、他に狙う場所は思いつかなかった。


「ミア!」


「はい!」


 ミアがゴーレムの横へ走り、わざと短剣を外殻へ当てる。


 キンッ、と甲高い音が響き、ゴーレムがミアへ身体を向けた。その瞬間、ミアが大きく後ろへ跳ぶ。


 正面が空いた。


 コウイチは息を吸う。


「ぐっ……!」


 それだけで肋骨が痛む。


 無視する。


 槍を腰まで引き、ゴーレムの胸へ穂先を合わせた。


 1発。


 これで駄目なら逃げる。


 床を蹴った。


 踏み込んだ瞬間、脇腹から全身へ激痛が走ったが、ここで止まれば何の意味もない。


「《穿牙》!」


 槍が突き出される。


 同時に、鉱殻ゴーレムがこちらを向いた。


 腕が動く。


 まずい。


 そう思っても、もう止まれない。


 ミスリル合金の穂先が胸へ突き刺さり、《穿牙》の力が一点へ集中する。


 バキッ――!


 初めて大きな亀裂が走った。


「入った……!」


 胸の外殻が砕け、槍が奥へ食い込む。


 だが、鉱殻ゴーレムは止まらなかった。


「嘘だろ……」


 振り上げられた腕が、そのままコウイチへ落ちてくる。


 槍を引く余裕はない。


 身体を捻り、直撃だけは避けた。


 それでもゴーレムの腕が右肩から胸をかすめ、すでに傷めていた脇腹へ再び凄まじい衝撃が走った。


「がっ……!」


 握っていた槍が手から離れ、コウイチの身体が床へ転がる。


 今度は立ち上がろうとしても、腕に力が入らなかった。息を吸うたびに胸が痛み、視界まで揺れている。


 ゴーレムの胸部には大きな亀裂が入り、外殻の一部が剥がれ落ちていた。《穿牙》は確実に効いている。


 だが、倒せなかった。


 互いに一撃を受けたものの、こちらは動けず、向こうだけが立っている。痛み分けにすらなっていなかった。


「ミア……逃げろ」


 返事はなかった。


 代わりに、ミアがコウイチの前へ立った。


「……ミア?」


「ここにいてください」


 短剣を握ったまま、ゴーレムを見ている。


「俺はいい。お前だけなら――」


「嫌です」


 静かな声だった。


 それ以上は何も言わず、ミアはコウイチを背にして短剣を構えた。


 その姿を見た瞬間、胸の痛みとは違う熱がコウイチの中に生まれた。


 いつからだろう。


 自分の後ろを歩いていた少女が、今は自分の前に立っている。


 ゴーレムが動き出した。


 胸を大きく壊されても、その動きに迷いはない。


 ミアは正面から向かっていかず、振り下ろされた拳を横へかわすと、そのまま背後へ回った。短剣で膝裏の隙間を狙うが、刃は浅く食い込んだだけで、動きを止めるには至らない。


 すぐに離れる。


 ゴーレムが追う。


 ミアは攻撃を避けながら、刃を通せる場所を探していた。


 だが、急所が分からない。


 コウイチは床へ片手をついたまま、ゴーレムの動きを追う。


 ミアへ向けて腕が振り下ろされる。その瞬間、《穿牙》で割った胸の外殻がわずかに開いた。


 奥で、何かが光った。


 岩とは違う。


 暗い隙間のさらに奥に、小さな光を放つ丸い石のようなものがある。


 あれか。


 そう思った瞬間、まだ何も言っていないのに、ミアの視線が胸の亀裂へ向いた。


「……ミア」


「はい」


 返事はあった。


 だが、ミアはこちらを見ていない。ゴーレムの攻撃を避けながら、胸の動きを見続けている。


 偶然、同じものを見つけただけかもしれない。


 ゴーレムが腕を上げると、亀裂が開く。


 身体を捻ると閉じる。


 右腕を大きく振る時が、一番広い。


 コウイチがそこまで考えた瞬間、ミアがわずかに腰を落とした。


 息を止める。


 伝えていない。


 それなのに、ミアは次に何が起きるのかを知っているように身構えていた。


 ゴーレムの右腕が上がる。


 胸の亀裂が開いた。


 同時に、ミアが踏み込む。


 その目が大きく見開かれた。


「……見つけました」


 A品質のミスリル合金短剣が、《穿牙》で砕いた外殻の隙間へ滑り込んだ。


 残っていた岩を刃が削る。


 それでも止まらない。


 ミアはさらに1歩踏み込み、身体ごと短剣を押し込んだ。


 切っ先が、奥の光へ届く。


 バキン――!


 何かが砕けた。


 振り下ろされようとしていたゴーレムの腕が、ミアの頭上で止まる。


 ミアはすぐに短剣を引き抜き、後ろへ跳んだ。


 ゴーレムは動かない。


 腕を上げたまま、完全に止まっている。


 数秒後、胸の亀裂から光が漏れ始め、外殻へ細い亀裂が広がっていった。


 やがて巨体全体が淡い光に包まれ、その輪郭が少しずつ崩れ始める。


「……倒した?」


 ミアは短剣を構えたまま見ている。


 鉱殻ゴーレムの身体は光となって消え、床には黒灰色の大きな魔石と、外殻らしい欠片、それに拳ほどの大きさの鉱石のようなものが残された。


 それでもミアはすぐには動かなかった。


 ゴーレムが完全に消えたことを確認すると、耳を動かして周囲の気配を探る。戦闘の音を聞きつけた別の魔物が近づいていないことを確かめてから、ようやく短剣を下ろしてコウイチを振り返った。


「コウイチ様!」


 駆け寄ってきたミアを見ながら、コウイチは壁へ背中を預けた。


「……勝ったな」


「喋らないでください」


「それくらいは……」


 言い返そうとして息を吸った瞬間、右の脇腹から胸にかけて鋭い痛みが走った。


「っ……」


「動かないでください!」


 ミアはコウイチの前へ膝をつくと、すぐに腰のマジックポーチから回復ポーションを取り出した。


 栓を抜き、瓶を口元へ差し出す。


「飲めますか?」


「ああ」


 コウイチは素直に従った。


 青臭い苦味のある液体を飲み込むと、少し遅れて身体の内側から熱が広がり始めた。脇腹と胸の痛みがわずかに遠ざかり、浅くなら息も吸えるようになる。


 それでも、折れた骨まで元へ戻った感覚はない。


「少しは楽になりましたか?」


「ああ。でも、たぶん骨は折れたままだ」


「すぐ戻りましょう」


「ああ。ただ、ポーションが効くまで少し休ませてくれ。その間に、さっきのことを確かめたい」


 ミアが眉を寄せる。


「無理はしないでください」


「分かってる」


 コウイチはまずミアへ《鑑定》を使った。


【ミア】


種族:犬獣人

Lv:17


「……17?」


「どうしました?」


「レベルが2つ上がってる」


 ダンジョンへ入る前、ミアはLv15だった。


 浅層で倒した魔物の分もあるだろうが、鉱殻ゴーレムから得た経験が特に大きかったのは間違いない。


「俺も上がってるかもしれないな」


 今度は自分へ《鑑定》を使う。


【コウイチ】


Lv:18


「俺も2つ上がってる」


「よかったです」


「肋骨と交換だけどな」


「よくないです」


「どっちだよ」


 思わず笑ったせいで脇腹へ痛みが走り、コウイチはすぐに顔をしかめた。


 ミアの表情が険しくなる。


「動かないでください」


「……はい」


 素直に返事をしてから、コウイチは変化した数値だけを手早く確認した。


――――――――――


【コウイチ】


Lv:18


HP :61/158

MP :116/138


STR:52

VIT:53

AGI:53

DEX:68

INT:57

MND:55


《スキル》


鑑定

アイテムボックス

隠蔽 Lv1

生成

槍術 Lv2

投擲 Lv1


《戦技》


穿牙 Lv2


――――――――――


「最大MP、138か」


 ラグナードで確認した時は118だった。


 レベルが2つ上がった影響もあるだろうが、あれからも《生成》を使わない日はほとんどなかった。バルガスとポーション工房の老婆から聞いた通り、使って休むことを繰り返すうちに、魔力の器も少しずつ広がり続けているらしい。


 それでも今は、詳しく考えている場合ではない。


 コウイチはすぐに自分の表示を閉じ、改めてミアの状態を確認した。


――――――――――


【ミア】


種族:犬獣人

Lv:17


HP :103/103

MP :71/71


STR:58

VIT:61

AGI:112

DEX:86

INT:63

MND:60


《スキル》


短剣術 Lv2

索敵 Lv2

急所看破 Lv2


《固有スキル》


魂の共鳴


状態  :覚醒

覚醒進捗:100%


――――――――――


「……112?」


 思わず数字を見直した。


「どうしました?」


「AGIが112ある。俺は53だ」


 ミアは少し考えてから、自分の足を見た。


「私の方が速いです」


「知ってるよ」


 今さら数字に教えられるまでもない。


 黒狼の森で一緒に戦い始めた頃から、ミアの動きは明らかに速かった。ただ、当時は経験がなく、その速さを持て余している部分もあった。それが短剣術や《索敵》を覚え、実戦を重ねるにつれて、いつ動き、どこへ回り、何を狙えばいいのかを少しずつ理解してきた。


 今日の戦いもそうだった。


 コウイチなら受ければ骨を折るような攻撃を何度もかわし、最後には振り上げられた腕の下へ飛び込んで核を刺した。


 力で押すのではなく、見て、避けて、隙を狙う。ミアの戦い方そのものが、数字に表れている。


「かなり偏ってるな」


「駄目ですか?」


「いや。むしろ、その方がいい」


 コウイチにないものをミアが持っている。


 逆も同じだ。


 全員が同じように強くなるより、それぞれが得意なものを伸ばした方が、できることは増える。


 そこで、コウイチはもう1つの変化に気づいた。


「《急所看破》もLv2になってる」


 ミアが手にした短剣へ目を落とした。


「さっき、見えたからでしょうか」


「たぶんな。最初は分からなかったのに、最後は核を見つけたから」


「はい。でも……」


 ミアが少し首を傾げる。


「どうした?」


「最後は、少し変でした」


「変?」


「はい」


 どう説明すればいいのか迷っているようで、ミアは少し黙ってから言葉を探すように続けた。


「コウイチ様が見ているところが、分かったような気がしました」


 コウイチは黙った。


「俺の声が聞こえたのか?」


「違います」


 ミアはすぐに首を振った。


「声ではありません。何を考えていたのかも、分かりません。ただ、コウイチ様が見つけたものが、私にも分かったような……」


 そこまで言ってから、自分でもうまく説明できないのか、困ったような顔になる。


「すみません。よく分かりません」


「いや」


 それで十分だった。


 コウイチも同じ違和感を覚えている。


 自分が胸の奥の光へ気づいた瞬間、まだ何も言っていないのに、ミアは同じ場所を見た。右腕を上げた時に亀裂が最も開くと考えた直後には、攻撃を指示するより先に踏み込んでいる。


 偶然ではなかったのかもしれない。


 コウイチが再びミアのステータスへ目を戻すと、見覚えのない表示の前で視線が止まった。


《固有スキル》


魂の共鳴


状態  :覚醒

覚醒進捗:100%


 それは《急所看破》でも、新しく覚えた通常のスキルでもなかった。


 奴隷商館で初めてミアを《鑑定》した時から、ずっと正体の分からなかった固有スキル。


 半年も売れ残る理由の1つになり、ルークですら何の能力なのか分からなかったもの。


 それが今、初めて名前を見せている。


 名前が現れたのは今日でも、この力がたった一度の戦いだけで生まれたとは思えなかった。


 一緒に森を歩き、獲物を探し、互いの動きを見ながら戦ってきた。言葉にしなくても任せられることが、少しずつ増えていた。


 その積み重ねが、今日の戦いをきっかけに形になったのかもしれない。


 だが、《魂の共鳴》という名前だけでは、何と何が共鳴するのかも、どこまで相手へ伝わるのかも分からない。


 コウイチは表示された文字を見つめたまま、小さく呟いた。

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