第55話◇ ただの岩
翌朝、コウイチとミアは、ダンジョンへ向かう人の流れに混じって歩いていた。
ラグナードを出た時とは装備が違う。コウイチの手には新しく《生成》したB品質のミスリル合金槍があり、ミアの腰にはドルガンに叩き直してもらったA品質のミスリル合金短剣、その後ろにはラグナードを出る前に渡したマジックポーチが収まっている。
街の中心から岩山へ近づくにつれて建物は少なくなり、代わりに倉庫や資材置き場が増えていった。行き交う者も冒険者と鉱夫が中心になり、その中には空の荷車を引いている者も多い。
「やっぱり、みんな持ってるな」
コウイチが荷車へ目を向けると、ミアも同じものを見ながら答えた。
「鉱石を運ぶんですよね?」
「たぶんな。ギルドで聞いた話だと、ダンジョンの中で採れるらしいから」
どれほどの量を持ち帰るのかまでは分からないが、その辺りも実際に見れば分かるだろう。
やがて岩山の麓に、大きく口を開けた洞窟が見えてきた。
「あれか」
「はい」
自然にできた洞窟とは少し違い、入口は人や荷車が何台も並んで通れるほど広い。その周囲には木造の小屋や露店が並び、つるはしや縄、ランプを売る店だけでなく、食料や水を扱う店まであった。
街から続いてきた人の流れも途切れることなく、そのまま岩山の中へ吸い込まれていく。
「思ってたより人が多いな」
「はい。もっと静かなところだと思ってました」
「俺も」
魔物がいて罠もあると聞いていたため、もっと物々しい場所を想像していた。ところが目の前を通り過ぎていくのは、武装した冒険者だけではない。仕事へ向かうような顔をした鉱夫やドワーフも多かった。
これだけ人の出入りがあるなら、ギルドで聞いた通り、入口付近は比較的安全なのかもしれない。
入口の近くでは、数人の鉱夫が荷車へ道具を積んでいた。その横を通り過ぎようとした時、1人の男がこちらを見て声をかけてくる。
「兄ちゃんたち、冒険者か?」
「ああ」
「初めてだろ」
「分かる?」
「入口を珍しそうに見てる奴は、大体そうだ」
男は笑いながら、荷車に載せた縄を縛った。年齢は50歳前後だろうか。日に焼けた顔には無精髭があり、荷車に立てかけられたつるはしの柄は、長く使い込まれて黒ずんでいる。
「浅いところを見て回るつもりなんだけど、鉱夫だけで入る人も多いの?」
「多いぞ。俺もそうだ」
「魔物がいるんだろ?」
「いるさ。だが浅いところなら、どこに何が出やすいかは大体分かってるからな。危ねえと思ったら逃げりゃいいし、心配な奴は冒険者を護衛に雇う」
そう言った男はコウイチの槍へ視線を向けると、荷車に立てかけてあったつるはしを片手で持ち上げた。
「それに俺たちだって、何もできねえわけじゃねえ。昨日もこいつで1匹ぶん殴ったぞ」
「……本当に武器になるんだな」
「岩を砕く道具だぞ。硬い魔物を殴るにはちょうどいい」
街へ着いた日にギルドで話しかけてきた冒険者も同じことを言っていた。どうやらこの街では、本当につるはしを武器として使うのが当たり前らしい。
コウイチは、もう1つ気になっていたことを聞いてみる。
「罠は?」
すると、笑っていた男の表情が少しだけ真面目になった。
「浅いところじゃ滅多にねえよ。毎日これだけ人が歩いてるからな。見つかりゃ印をつけるし、危ねえもんならギルドに報告する」
「なら、浅いところなら大丈夫?」
「そうは言ってねえ」
男はすぐに否定した。
「滅多にないだけだ。ダンジョンなんだから、絶対なんて言葉は使うな」
「……なるほど」
ギルドの受付でも、罠が少ないとは聞いた。しかし、ないとは言われていない。
その違いは覚えておいた方がいい。
「ありがとう」
「おう。初めてなら欲張るなよ」
街へ着いてから何度も似たようなことを言われている。それだけ、初めてのダンジョンで欲を出す冒険者が多いのかもしれない。
コウイチは男へ礼を言い、ミアとともにダンジョンへ入った。
◇
入口からしばらく歩いても、コウイチが想像していたようなダンジョンらしい不気味さはあまりなかった。
通路は荷車同士がすれ違えるほど広く、一定間隔でランプまで設置されている。地面には何度も車輪が通った跡が残り、壁際では鉱夫たちがつるはしを振るっていた。
カン、カン、と岩を叩く音が洞窟の奥へ響き、少し遅れて別の方向からも同じような音が返ってくる。
「……街の音が、そのまま地下に来たみたいだな」
「少し似てます」
ミアはそう答えながらも周囲への警戒を怠っておらず、初めての場所だからか、いつも以上に耳を動かしていた。
「何かいる?」
「人が多すぎて、少し分かりにくいです。でも、近くに魔物はいないと思います」
「分かった。無理に判断しなくていいからな」
「はい」
コウイチも歩きながら床や壁を確認していたが、今のところ罠らしいものは見当たらない。
しばらく進むと人の数が少しずつ減り、それに合わせるように、鉱夫たちが振るうつるはしの音も遠くなっていった。
その時、隣を歩いていたミアが足を止めた。
「コウイチ様。前に1匹います」
「分かった」
コウイチは槍を構え、ミアより半歩前へ出る。
慎重に進んだところで通路の陰から姿を現したのは、4本の脚を持つ、背の低い魔物だった。背中から脇腹にかけて灰色の甲殻に覆われており、その表面は皮膚というより岩そのものに見える。
コウイチはすぐに《鑑定》した。
【ロックシェル】
【Lv11】
【危険度:E】
「……本当に硬そうだな」
街で聞いた話を思い出している間に、ロックシェルが身体を低くして地面を蹴った。
「来ます!」
「ああ!」
グレイウルフほど速くはない。コウイチは正面から外れ、すれ違いざまに新しい槍を胴へ突き込んだ。
ガッ――!
「っ!」
穂先は甲殻の表面を削っただけで滑り、刺さらなかった衝撃が槍全体を通って腕まで返ってくる。
これか。
ドルガンに言われたことが、実際に槍を通して理解できた。
刺さるかどうかだけではない。刺さらなかった時、突き込んだ力がどこへ伝わるのかまで考えろと言われた意味が、今なら分かる。
以前の鉄槍で同じことを何度も繰り返すのは、少し怖かったかもしれない。しかし、新しいミスリル合金槍には、今の一撃で異常が出た様子はなかった。
「ミア、正面は硬い。隙間を狙おう!」
「はい!」
向きを変えたロックシェルに対し、ミアが横へ回り込みながら短剣を振るう。
キンッ――!
甲殻の表面が削れたものの、刃は深く入らない。
「硬いです」
「短剣は?」
ミアはロックシェルから距離を取りながら、刃を一瞬確認した。
「大丈夫です。欠けてません」
「なら、無理に殻を切らなくていい」
A品質なら、硬い甲殻へ当てても刃そのものは負けない。しかし、刃が壊れないことと魔物を倒せることは別だった。
ロックシェルが再びコウイチへ向かって突進してきたため、横へ避けながらその身体を観察する。
背中も脇腹も、硬い甲殻に覆われている。
だが、脚を動かすためには、どこかに隙間が必要なはずだ。
「ミア!」
「はい!」
声をかけた時には、ミアも同じ場所を見ていた。
ロックシェルがコウイチへ向きを変えた隙にミアが低く入り込み、甲殻の途切れている脚の付け根へ短剣を滑り込ませる。
今度は深く入った。
ロックシェルの身体が大きく傾く。
「そこなら通る!」
コウイチも踏み込み、甲殻の隙間を狙って槍を突き込んだ。
先ほどとは手応えが違う。穂先が肉を貫き、暴れたロックシェルが槍を振り払おうとしたため、無理に押さえ込まず引き抜いて距離を取った。
まだ動いているが、倒し方は分かった。
ミアが反対側から動きを制限し、コウイチが正面で注意を引きつける。ロックシェルがミアを追おうとして身体を傾けたところで再び踏み込み、同じ隙間へ槍を突き込むと、今度こそその身体が地面へ崩れ落ちた。
「……倒したか」
いつもの癖で死体を確認しようと近づきかけたところで、ミアが呼び止める。
「コウイチ様、消えてます」
見ると、ロックシェルの身体が薄い光のようなものに包まれ、少しずつ輪郭を失っていた。
話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。コウイチは槍を構えたままミアとともに距離を取り、その変化を見守った。
やがて身体は完全に消え、そこには小さな石と甲殻の欠片だけが残った。
「……本当に消えるんだな」
「本に書いてあった通りです」
「分かってても、目の前で見ると変な感じだな」
2人で残された物を確認していると、後ろから笑い声が聞こえてきた。
「兄ちゃんたち、初めて見たのか?」
振り返ると、つるはしを担いだドワーフの鉱夫が立っている。
「ああ。話には聞いてたけど、実際に見るのは初めてだ」
「最初は驚くよな。ダンジョンの魔物は、死ぬとああやって消える。残るのは魔石と、運がよけりゃ素材だ」
「外の魔物は死体が残るのに?」
「外は外、ダンジョンはダンジョンだ。そういうもんだと思っとけ」
ずいぶん大雑把な説明だったが、目の前で実際に消えた以上、今はそういうものだと考えるしかない。
コウイチは警戒を解き、残された石を拾って《鑑定》してみる。
【ロックシェルの魔石】
もう1つの欠片には、
【ロックシェルの甲殻片】
と表示された。
「解体しなくていいのは楽だな」
「そういうことだ。魔石も素材も小せえから、外みてえに死体を引きずって帰らなくていい」
ドワーフが笑うのを見ながら、コウイチはふと、彼の後ろにある荷車へ目を向けた。
「じゃあ、その荷車は?」
「鉱石だよ。魔物の死体を運ばなくていい分、掘った物をたっぷり積めるからな」
「なるほど……」
そこでようやく、街へ来てから何度も見ていた荷車の意味がつながった。
魔物を倒して得られる物は小さいが、鉱石は違う。だから空の荷車を引いてダンジョンへ入り、帰りには採掘した鉱石を積んでいく。
「兄ちゃんも掘るのか?」
「いや、今日は見るだけのつもりだったんだけど……」
そう答えながら、コウイチの目は少し離れた場所にいる鉱夫へ向いていた。
鉱夫がつるはしを振り下ろすたびに岩が少しずつ欠け、その中から周囲とは色の違う石が現れてくる。
買った鉱石なら見たことはあるが、岩から掘り出すところを見るのは初めてだった。
「コウイチ様」
「何?」
「やりたいんですか?」
「……なんで?」
「さっきから、ずっと見てます」
否定しようとして、やめた。
「……ちょっとやってみたい」
◇
結局、コウイチは入口近くまで戻り、鉄製の安いつるはしを1本買った。
「銅貨50枚です」
店主に言われた金額を支払い、つるはしを受け取る。
「本当に買ったんですね」
「せっかく鉱山のダンジョンまで来たんだから、自分で掘ってみたいだろ」
「はい」
「ミアもやる?」
「私は見てます」
「そうか」
近くにいた鉱夫へ声をかけると、初心者でも採掘しやすい場所を教えてくれた。ただし、どこをどう見れば価値のある鉱石が分かるのかまでは、数分話を聞いた程度では理解できない。
それなら、最初から高価なものを狙う必要はなかった。
コウイチは他の鉱夫が掘っている場所の近くで《鑑定》を使い、まずは分かりやすい鉱石を探した。
【鉄鉱石】
【品質:C】
「これか」
周囲の岩ごと少しずつ叩いてみるが、最初は力加減が分からず、つるはしの先が岩の表面を滑ってしまった。
「……思ったより難しいな」
「さっきの人は、もう少し軽く叩いてました」
「見てたの?」
「はい」
言われた通りに少し力を抜き、狙う位置も変えてみる。
何度か繰り返しているうちに岩へ亀裂が入り、そこから鉱石を含んだ部分を取り出すことができた。
「おお……」
手の中で転がしてみる。
買えば大した値段ではない。それでも自分で岩を割り、その中から取り出したと思うと、妙に面白かった。
その後も場所を変えながら、銅鉱石や質の低い鉄鉱石を少量ずつ採っていったが、高価なものは1つも見つからない。
「これも持って帰るんですか?」
「ああ。少しずつな」
「安いって言ってました」
「だからいいんだよ。失敗しても惜しくないし、実物があれば後で調べられるだろ」
それにコウイチには、表向きに使っているマジックバッグがある。容量にはまだ余裕があるため、今日試しに採る程度の量なら、重量を気にせず持ち帰ることができた。
何より、買った鉱石を手に取るだけでは分からなかったことがある。
どんな岩の中に含まれているのか。どの方向から叩けば割れやすいのか。割れた石のどこを鉱石として持ち帰るのか。
実際に自分でつるはしを振ってみると、今まで「鉄鉱石」という完成した素材としてしか見ていなかったものの、その前の状態が少しずつ見えてくる。
時計を直していた頃も同じだった。
完成した部品だけを眺めるより、どう削られ、どう組まれ、どこで力を受けているのかを知った方が、その部品のことを深く理解できた。
「……面白いな」
「楽しそうです」
「そんなに?」
「はい」
迷いなく答えられ、コウイチは苦笑した。
◇
1階層をしばらく回った頃には、いくつかの魔石と少量の鉱石が集まっていた。
魔物との戦闘も何度か経験したが、今のところ危険を感じるほどではない。硬い魔物には戦い方を変える必要があるものの、新しい槍なら十分に使える。ミアの短剣も、甲殻の隙間へ入った時の通りが以前より明らかによかった。
「まだ行けそう?」
「はい」
「じゃあ、2階層を少しだけ見て戻ろう」
深くまで行くつもりはない。2階層の入口付近を見て、1階層との違いを確認したら今日は戻る。
階段を下りていくにつれて人の声が遠くなり、空気も少し冷たく感じられた。
2階層にも鉱夫や冒険者はいるものの、1階層ほど多くはない。それでも完全に人気がなくなるわけではなく、少し歩けば鉱石を掘った跡があり、時折、向こうから戻ってくる鉱夫ともすれ違う。
「何かいる?」
「今は大丈夫です」
ミアの《索敵》にも反応はない。
コウイチは周囲を確認しながら進み、採掘跡を見つけるたびに何度か《鑑定》してみたが、珍しい鉱石は見つからなかった。
「まあ、そんな簡単には見つからないか」
「戻りますか?」
「もう少しだけ見たらな」
2階層へ入ってから、それほど歩いてはいない。もう少し先まで見て、適当なところで引き返そう。
そう考えながら歩いていた時、壁際にある岩が何となく目に留まった。
「……ん?」
「どうしました?」
「いや……」
色は周囲の岩と変わらず、鉱石らしい光沢も筋もない。近くに誰かが掘った跡もなく、鉱石を探していなければ、わざわざ目を向けることさえなかっただろう。
ただ、その形が妙に懐かしかった。
片側が平たく、その先が少し細く伸びている。
「……金床みたいだな」
「かなとこ?」
聞き慣れない言葉に、ミアが首を傾げた。
「金属を叩く時に下へ置く、鉄の台だよ。俺が昔いた工房にも小さいのがあった」
もっとも、時計工房で使っていたものは、鍛冶屋に置かれているような大きな金床ではない。小さな部品の形を整えたり、金属を軽く打ったりするための卓上の物で、長年使われた表面には細かな傷がいくつも残っていた。
昨日、ドルガンから金属を叩く話を聞いたせいだろうか。
何でもない岩なのに、その形を見た瞬間、昔の工房に置かれていた小さな金床を思い出した。
「似てるんですか?」
「ちょっとだけな」
本当に、それだけだった。鉱石に見えたわけでも、価値があると思ったわけでもない。ただ懐かしかったから、何となく《鑑定》した。
【???鉱石】
「……は?」
コウイチは足を止めた。
もう1度見る。
【???鉱石】
表示は変わらない。
「……鉱石なのか、これ」
「何かありましたか?」
「《鑑定》したら鉱石って出た。ただ……何の鉱石か分からない」
それを聞いたミアの表情が少し変わった。
「コウイチ様でも分からないんですか?」
「ああ。詳しい情報が出ないことは今までもあったけど……」
コウイチは改めて岩を見る。
ただの岩にしか見えない。それなのに《鑑定》では、はっきりと鉱石と表示されている。
どうしても気になる。だからこそ、すぐにつるはしを振るう気にはなれなかった。
「ミア。何かいる?」
ミアは頷くと耳を動かし、しばらく周囲へ意識を集中させた。
「……いません。少なくとも《索敵》には何も反応してません」
「分かった」
罠については、ミアの《索敵》で分かるとは限らない。それはギルドでも確認している。
コウイチは岩へ近づく前に周囲をゆっくり見回し、足元から壁の継ぎ目、さらに天井まで確認した。不自然な穴や溝はなく、何かが仕掛けられているようには見えない。
少し離れた普通の岩をつるはしの先で軽く叩いてみても、乾いた音が響いただけだった。
それでも、目の前の岩へ視線を戻せば表示は変わらない。
【???鉱石】
「……掘るんですか?」
「普通なら掘らないな」
「はい」
「でも、《鑑定》で鉱石って出てるんだよな」
見た目だけなら、誰も掘ろうとは思わないだろう。だからこそ、今まで掘られた跡がないのかもしれない。
コウイチは少し迷ってから、つるはしを握り直した。
「……1回だけ試す」
「分かりました」
ミアが少し距離を取るのを確認してから、コウイチはつるはしを構えた。
力いっぱい叩く必要はない。まずは表面を少し削り、中を確認できればそれでいい。
振り下ろす。
カン――。
乾いた音が通路へ響いた。
コウイチはすぐには動かず、何か変化がないか待った。
「ミア?」
「何もいません」
罠が動いた様子もない。
そこで岩へ近づいてみると、つるはしを当てた部分の表面が少しだけ欠け、その内側に周囲とは違う色がほんのわずかに覗いていた。
「……やっぱり何かある」
ミアも横から覗き込む。
「少し光ってます」
「ああ」
偶然ではなさそうだ。
コウイチはもう1度つるはしを構えた。
今度は先ほどより少しだけ強く、中を確認できる程度に割るつもりで振り下ろす。
ガンッ――!
手に返ってきた感触が、さっきとは違った。
岩に亀裂が走る。
その瞬間だった。
ゴ……。
「……?」
コウイチは顔を上げた。
今の音は、つるはしが岩へ当たった音ではない。
「ミア?」
返事がない。
隣を見ると、ミアの耳がぴんと立ち、視線が岩の奥へ向いていた。
「コウイチ様」
その声で、コウイチも槍へ手を伸ばす。
「どうした?」
「……います」
「どこ?」
ミアがゆっくりと、今叩いた岩の向こうを指した。
「そこです」
さっきまでは、《索敵》に何も反応していなかった。
少なくとも、魔物としての気配はなかったはずだ。
それが今は、ミアがはっきりと何かを捉えている。
ゴ……ゴ……。
金床に似た岩の奥から低い音が響き、先ほどできた亀裂がゆっくりと広がっていく。
「下がれ!」
コウイチはつるはしから手を離して槍を構え、ミアもすぐに短剣を抜いて後ろへ下がった。
バキッ――!
岩が割れた。
そこからさらに奥の壁へ亀裂が走り、崩れ落ちた岩の向こうで何かが動く。
太い腕が、邪魔な岩を押し退けるように現れた。
続いて、人間よりはるかに大きな身体がゆっくりと身を起こしていく。その全身は黒灰色の岩のような外殻に覆われ、先ほど戦ったロックシェルとは比べものにならないほど厚い。
「……嘘だろ」
コウイチは槍を構えたまま《鑑定》した。
【鉱殻ゴーレム】
【Lv22】
【危険度:C】
「C……?」




