第32話◇ ミア回顧――信じてもらえること
また、今日も売れなかった。
店の奥から扉の閉まる音が聞こえ、ミアは膝の上で重ねていた手を少しだけ握った。以前なら客が帰る気配を感じるたびに顔を上げていたが、今はもうそんなこともしなくなっていた。
最初の頃は期待していた。
客が来れば、自分を買ってくれる人かもしれないと思った。足音が近づけば自然と耳が立ち、店員に呼ばれるのを待ちながら、今度こそと何度も考えた。
けれど、結果はいつも同じだった。
犬獣人で18歳。健康状態に問題はない。
そこまで聞いた客の反応は悪くないのに、戦闘技能はあるか、狩りの経験はあるか、読み書きはどの程度できるのかと話が進んでいくにつれ、少しずつ興味を失っていく。
戦った経験はない。狩りもできない。読み書きも、簡単なものなら何とか分かるという程度だった。
唯一、人より珍しいものがあるとすれば《固有スキル》を持っていることだったが、それが何なのかはミア自身にも分からない。何人かの鑑定士に調べてもらったこともあったらしいが、結局分かったのは「何かがある」ということだけだった。
それでは、ないのと大して変わらない。
むしろ、どんな能力なのか分からないことを気味悪がる客もいた。
最初の1か月くらいは、それでも次があると思えた。2か月、3か月と過ぎるにつれて期待することにも疲れ、6か月が経つ頃には、ここに座っていることそのものが日常になっていた。
誰にも選ばれない理由を考えることも、いつの間にかやめていた。
自分には、売り物としての価値がない。
そう考えてしまえば、客が帰っていくたびに落ち込む必要もなかった。
◇
「この娘は?」
その声を聞いた時も、ミアは顔を上げなかった。
何度も聞いてきた言葉だったからだ。
犬獣人というだけで興味を示す客はいるし、若い女の奴隷を探している者もいる。だが、そこから先まで話が進むことはほとんどなかった。
だからミアは俯いたまま、店員と男の会話を聞いていた。
名前を聞かれ、年齢を聞かれ、何ができるのかを聞かれる。やがて《固有スキル》の話になると、ミアは心の中で、またかと思った。
どうせ今回も同じだろう。
ところが、その男はすぐには帰らなかった。
値段を聞き、いくつか質問をして、しばらく考えてから店を出ていった。
結局買われなかったことに変わりはない。ミアも、その男についてすぐに考えなくなった。
それから約1か月が経った頃、同じ男が店へ戻ってきた。
最初は、顔を見てもすぐには思い出せなかった。けれど、店員と話す声を聞いて、以前にも自分のことを尋ねていた男だと気づいた。
あの時、買わずに帰った人。
その人が、今度は自分を買うという。
ミアは驚いたが、どうして戻ってきたのかを聞くことはできなかった。
コウイチ。
それが、新しい主人の名前だった。
◇
買われて最初に戸惑ったのは、食事だった。
コウイチと初めて食卓を囲んだ時、ミアは当然のように主人が食べ始めるのを待っていた。ところが、コウイチはいつまで経っても食事に手をつけない。
「何してる?」
「え?」
「冷めるぞ」
何を言われているのか分からずテーブルを見ると、料理が2人分並べられていた。
「……私もですか?」
「他に誰がいるんだよ」
「でも……」
コウイチは本当に意味が分からないという顔でミアを見た。
「嫌いなものでもあったか?」
「いえ、そうではなくて……」
主人と同じテーブルで食べていいのだろうかと聞きかけて、ミアは口を閉じた。
奴隷商館では、買われた後の扱いは主人によって違うと教えられている。命じられたことに従えばいいのだから、これもこの人の決まりなのだろう。
そう考えて向かいへ座ると、コウイチはようやく食事を始めた。
「一人より二人で食った方が美味いだろ」
その言葉にどう返せばいいのか、ミアには分からなかった。
命令だから一緒に食べるのではないらしい。それならなぜ奴隷である自分と同じ食卓を囲むのかと考えてみても、答えは出なかった。
分からないまま口へ運んだ料理は、温かかった。
◇
コウイチは、何かとよく分からない主人だった。
必要だからと服を買い、冒険者として使う防具も用意した。短剣を買いに行った時には、どれがいいかと聞かれたので、ミアは思わずコウイチの顔を見返してしまった。
「私が決めるんですか?」
「使うのはミアだろ」
そう言われてしまえば、その通りなのだが、自分で選べと言われても何を基準にすればいいのか分からない。それでも何本か握らせてもらい、重さや手に持った感触を比べながら、ようやく1本を選んだ。
それだけでも不思議だったのに、コウイチは後になってその短剣を何度も調べ、同じ形をした、もっと質のいい短剣を作ってしまった。
そこで初めて、《生成》というコウイチの秘密を教えてもらった。
他の人間には話さないでほしいと言われた時、ミアは当然だと思った。
自分は奴隷なのだから、契約で秘密に指定すればいい。それだけで自分は誰にも話せなくなる。
ところが、コウイチは契約による秘密保持だけで済ませようとはしなかった。
自分が話したことだから、ミア自身にも守ってほしい。
そう頼まれた時、ミアはコウイチの顔を見た。
命令されているのとは少し違うのだと理解するまで、時間がかかった。
「誰にも言いません」
「……頼む」
「絶対に」
自分でも、なぜ2度言ったのかは分からなかった。
ただ、その時だけは、ちゃんと伝えなければいけないような気がした。
◇
初めて魔物を前にした時、ミアは身体を動かすことができなかった。
コウイチがすでに傷つけ、ほとんど動けなくなっているホーンラビットだった。それでも短剣を握った手は震え、あと1歩がどうしても踏み出せない。
戦えるようになるために装備まで買ってもらい、バルガスから訓練も受けている。それなのに、弱った魔物1匹すら倒せない自分が情けなかった。
ようやく短剣を突き立てた後も達成感などなく、怒られるのではないかという不安の方が大きかった。
だが、コウイチは怒らなかった。
怖くなくなる必要はない。怖いまま、どう動くかを覚えればいい。
そういうことを言われ、その日の狩りは終わりになった。
ミアの方が驚いたくらいだった。
まだ時間はあるし、コウイチならもっと魔物を倒せたはずなのに、何も言わず街へ戻った。
次に大きな失敗をした時もそうだった。
足を取られて転び、魔物に襲われそうになった瞬間、コウイチは獲物を仕留めることよりミアを助けることを選び、槍を投げた。
助け起こされながら謝ったミアに、コウイチは経験値より命の方が大事だという意味のことを言った。
それから、ミアを買うのに金貨3枚もかかったのだから、と付け加えた。
その時、ミアはほんの少しだけおかしいと思った。
3金貨が惜しいから助けたのなら、最初からそう言えばいい。それなのにコウイチは、時々こうして後から理由を付け足す。
しかも、その理由は妙に言い訳じみて聞こえる。
けれど、それを指摘していいほど、まだこの主人のことを知らなかった。
◇
コウイチと一緒に暮らすようになってから、もう1つ、ミアには不思議に感じていることがあった。
自分には何の取り柄もない。
少なくとも、以前のミアはそう思っていたし、6か月もの間、誰にも買われなかったという事実が、その考えを何度も裏付けていた。
ところが、コウイチと一緒に森へ出るようになってから、少しずつできることが増えていった。
最初に身についたのは《短剣術》だった。
それから《索敵》も覚えた。
耳や鼻なら以前から人間より利いたが、音が聞こえることと、その音から何がどこにいるのかを探り当てることは違う。最初は木々のざわめきや鳥の声に紛れてしまっていた小さな物音が、何度も森へ入るうちに少しずつ意味を持つようになった。
ある日の訓練中、バルガスにも言われた。
「お前、最初より覚えが早くなったな」
「そうでしょうか?」
「自分じゃ分からんか」
「……はい」
ミアが戸惑っていると、バルガスはしばらくこちらを見たものの、やがて肩をすくめた。
「まあ、実戦に慣れてきたってのもあるだろうがな。最初は魔物を見ただけで固まってたんだ。動けるようになりゃ、見えるもんも増える」
そう言われれば、ミアにも納得できた。
毎日訓練しているし、森へも行っている。できなかったことができるようになるのは、おかしなことではない。
それでも時々、何度教えられても分からなかったことが、急に腑に落ちる瞬間があった。
短剣をどこへ向ければいいのか、どこに立てばコウイチの邪魔にならないのか、相手の何を見れば次の動きが分かるのか。1つずつ覚えたはずのことが、実戦の中でふいに1本の線でつながるように理解できる。
最初は偶然だと思った。
その次は、訓練の成果なのだと思った。
たぶん、どちらも間違ってはいないのだろう。
何より、自分にそんな才能があるとは思えなかったミアにとっては、毎日繰り返している訓練と実戦のおかげだと考える方が自然だった。
だから、それ以上は考えなかった。
◇
革に油を塗る仕事を任されて失敗した時には、忘れかけていた感覚が戻ってきた。
難しい仕事ではない。
それなのに上手くできなかった。
失敗した革を見つめながら、やっぱり自分は役に立たないのではないかという考えが浮かび、怒られることより、コウイチにそう思われることの方が怖いと気づいた時には、自分でも少し驚いた。
ところが、コウイチは失敗した革を確認すると、自分が説明を省きすぎたと言った。
「でも、失敗したのは私です」
そう言っても、コウイチはミアだけの責任にはしなかった。
仕上げ済みのものと、まだ仕上げていないものをきちんと分けていなかったこと。どれに油を塗るのか、判断できない時はどうすればいいのかを伝えていなかったこと。
次からは間違えないように、作業のやり方を一緒に決め直した。
それで終わった。
罰を受けることも、食事を減らされることもなく、翌日になればまた別の仕事を任された。
ミアには、その方が不思議だった。
失敗したのに、次がある。
上手くできなかったからといって、それだけで「できない奴隷」にはならない。
そういうことを繰り返しているうちに、失敗した時に最初に浮かぶ考えも少しずつ変わっていった。
以前なら、怒られる、捨てられると思っていた。
今は、次はどうすれば上手くできるだろうと考える。
その変化にミア自身が気づいたのは、ずっと後になってからだった。
◇
「触るな」
低い声が聞こえた。
自分の耳へ伸びてきていた男の手が止まり、その間へコウイチが入った。
大したことではないと、ミアは思っていた。
耳を触られるくらいなら我慢できるし、自分は奴隷なのだから、余計な騒ぎを起こして主人へ迷惑をかけない方がいい。
けれど、コウイチはそう思わなかったらしい。
男たちが去った後に礼を言っても、コウイチは当然のことをしただけだという顔をしていた。
その横顔を見ながら、ミアはまた分からなくなった。
この人は、自分のためなら銅貨1枚でも惜しそうな顔をするくせに、ミアに必要な装備には迷わず金を使う。強くなるために危険な場所へ連れていくのに、危険すぎると判断すれば経験値も獲物も捨てて撤退し、奴隷契約で命令できる秘密さえ、契約だけに任せず自分へ預けてくれる。
役に立ってほしいと言いながら、失敗しても次を任せる。
嫌なことをされそうになれば、奴隷だから我慢しろとは言わない。
そして本人は、そのどれも特別なことだと思っていないようだった。
ミアには、それが一番不思議だった。
◇
Eランクのカードを渡された時、ミアはそこに書かれた自分の名前をしばらく見つめていた。
文字を読むのはまだ得意ではない。それでも、自分の名前くらいは分かる。
ミア。
そこに書かれているのは、間違いなく自分だった。
6か月間、誰にも選ばれずに奴隷商館の片隅へ座っていた自分が、今は冒険者として名前の入ったカードを持っている。
「よかったな」
隣からコウイチの声がした。
ミアは、コウイチと一緒だったからだと答えた。
するとコウイチは、一緒にいたとしても、実際に戦ったのはミア自身だと言った。
その時、自分が何と返したのかはよく覚えていない。
ただ、その言葉だけは残った。
戦ったのは、自分。
それまでミアは、できるようになったことのほとんどをコウイチやバルガスのおかげだと思っていた。もちろん、それは間違っていない。
けれど、全部ではないのかもしれない。
怖くても短剣を握ったのは自分で、森の中で小さな音を聞き分けようと何度も耳を澄ませたのも、魔物の動きを見逃さないよう目で追い続けたのも自分だった。
そう思えるようになった頃から、また見えるものが増え始めた。
魔物が動き出す直前の僅かな変化や、踏み込む時の足音、呼吸、肩や腰の動き。それまで別々のものとして見たり聞いたりしていたものが、戦いの中で少しずつ結びつき、相手が次に何をしようとしているのかを考えられるようになっていった。
そしてある時、それが《急所看破》というスキルになった。
新しいスキルを得たと知った時は、もちろん嬉しかった。
けれど同時に、ほんの少しだけ不思議にも思った。
何もできなかったはずの自分が、いつの間にこんなに色々なことを覚えられるようになったのだろう。
答えは分からなかった。
それでも、できることが増えるのなら嬉しいし、コウイチの役に立てるのならもっと嬉しい。
その頃のミアにとっては、それで十分だった。
◇
だからこそ、グレイヴァルを前にして何も分からなかった時は怖かった。
《急所看破》を覚え、自分にもできることが増えたと思い始めた直後だったのに、目の前の魔物をいくら見ても答えが見つからない。
「……分かりません」
そう口にするのは怖かった。
役に立てないと思われるかもしれない。
けれど、バルガスから分からない時に適当な答えを作る方が危険だと教えられていたから、ミアは正直に言った。
コウイチは、それでミアの役目を取り上げることはしなかった。
分からない時に適当なことを言わないのも仕事だ。
そう言われて、ミアはまた驚いた。
できないことがあっても、それで役目を取り上げるのではなく、次を任せる。
だからミアは見続けた。
グレイヴァルがどちらの脚へ体重をかけているのか、攻撃する時に肩がどう動くのか、巨体を支えるためにどんな姿勢を取るのか。岩を蹴る音や呼吸の変化にも意識を向け、ようやく突進後に止まる瞬間に生まれる隙を見つけた。
コウイチへ伝えると、槍がそこへ突き込まれた。
けれどグレイヴァルも同じ動きを見せなくなり、最初に見つけた隙だけでは通用しなくなった。
それでも、ミアは目を逸らさなかった。
コウイチが槍を突き、避け、距離を取り、また構える。その姿を追いながらグレイヴァルを見るうちに、いつの間にか相手だけではなく、コウイチの動きまで同時に見ている自分に気づいた。
何をしようとしているのか、なぜか分かる気がした。
自分が隙を見つける。
コウイチが、そこを貫く。
そんな役割を2人で決めた覚えなどない。それなのに、今はそうすることが当たり前のように思えた。
グレイヴァルが動いた。
負傷した脚を庇いながら身体を捻り、反対側の前脚を振り出そうとしている。
ミアは、その動きを見続けた。
首の付け根にある硬い皮膚が、僅かにずれる。
まだ違う。
焦ってはいけない。
間違えれば、危険なのは自分ではなくコウイチだ。
コウイチは槍を構えている。
自分の声を待っているのだと分かった。
その姿を見た時、ミアは一瞬だけ奇妙な感覚を覚えた。
槍を使った経験などほとんどないはずなのに、その時だけは、コウイチが次にどう動こうとしているのかが妙に分かる気がした。踏み込む直前の僅かな身体の沈み込みも、槍を握る手に力が入る瞬間も、何度も訓練を見てきたから分かるのだろうか。
考える間もなく、グレイヴァルの姿勢が変わった。
今だ。
「そこです!」
その瞬間、コウイチは踏み込んだ。
聞き返すことも、確かめることもしなかった。
ミアには見えていた。
けれど、コウイチには見えていなかったはずだ。
自分が間違っている可能性だってあったのに、それでもコウイチは迷わず、ミアが示した場所へ槍を突き込んだ。
足、腰、肩、腕。
何度も訓練で見てきた突きの動きが、1つにつながる。
そこへ魔力が重なり、槍の穂先が首の付け根の隙へ吸い込まれるように進んだ。
《穿牙》がグレイヴァルを貫いた。
巨体が崩れ落ちていくのを見ながら、ミアはしばらく動くことができなかった。
魔物を倒したからではない。
コウイチが《穿牙》を覚えたからでもなかった。
もっと別のものが、胸の奥に残っていた。
この人は、私を信じた。
そう気づいた瞬間、胸の奥が温かくなるような、それでいて少し苦しくなるような感覚が広がった。
なぜそれがこんなに嬉しいのか、ミアにはまだ分からなかった。
◇
翌朝、ミアは宿の廊下をゆっくり歩いていた。
昨日の戦いの疲れが少し残っていたが、怪我はない。それよりも岩壁へ叩きつけられたコウイチの方が心配だった。様子を見るついでに朝食へ誘おうと思って部屋を出た。
ところが、コウイチの部屋が近づくにつれて、自然と歩く速度が遅くなった。
昨夜から何度も昨日の戦いを思い出している。
6か月もの間、誰にも選ばれず、自分には何の取り柄もないと思っていた。何の技能もなく、《固有スキル》が何なのかさえ分からなかった自分が、今ではEランクの冒険者になり、《短剣術》も《索敵》も《急所看破》も身につけている。
どうして自分がこれほど変われたのかは、まだ分からない。
訓練したからかもしれない。
実戦を経験したからかもしれない。
バルガスに教えてもらったことも大きい。
どれも間違ってはいないはずなのに、コウイチと一緒にいるようになってから、以前なら何度やっても分からなかったことが、時々ふっと理解できるようになったことだけは少し不思議だった。
昨日もそうだ。
槍などまともに使えない自分が、一瞬だけコウイチの動きを分かったような気がした。
なぜなのだろうと考えてみても、答えは出ない。
ミアは小さく首を振った。
分からないものを無理に分かったことにしてはいけない。
それはバルガスから教わったことだ。
今は、それよりも分かっていることがある。
コウイチと初めて食事をした日のことを、今でも覚えている。短剣を自分で選ばせてもらったことも、《生成》という大切な秘密を契約だけに任せず自分へ預けてくれたことも、魔物を前に動けなかった自分を怒らず、失敗しても次を任せてくれたことも忘れていない。
危険な時には経験値より自分の命を選び、誰かが嫌がることをしようとすれば奴隷だから我慢しろとは言わずに止めてくれた。Eランクになった時には、自分のおかげだと言おうとしたミアへ、実際に戦ったのはミア自身だと返した。
そして昨日は、自分にしか分からないものへ命を預けた。
それらを思い返しているうちに、ミアはようやく、ずっと分からなかったことの1つに答えを見つけた気がした。
この人は優しくないのではない。
自分が優しいことを、たぶん知らないのだ。
そう考えると、少しだけおかしくなった。
ミアの口元に、小さな笑みが浮かぶ。
以前なら、コウイチのそばにいる理由を聞かれれば、奴隷だからと答えただろう。少し前なら、強くなるため、役に立つためと答えたかもしれない。
今は、そのどれも少し違う気がする。
この人のそばにいたい。
なぜと聞かれれば、まだ上手く説明できない。それでも奴隷だから命じられているのではなく、自分がそうしたいと思っていることだけは分かった。
ミアはコウイチの部屋の前で立ち止まり、耳を澄ませた。
中から微かな物音が聞こえる。
もう起きているらしい。
昨日、「そこです」と叫んだ時のように、今度は迷う必要はなかった。
ミアは扉を軽く叩いた。
「コウイチ様、起きていますか?」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。




