第23話◇ 怒る理由
赤岩の谷から戻って3日が過ぎた。
その間もコウイチとミアは朝になるとバルガスのところへ通い、昼からは商売や素材集めに時間を使っていた。赤岩の谷での失敗から、硬い場所へ力をぶつけるのではなく、相手の脆いところへ力を通すという考え方は少しずつ分かってきたものの、《穿牙》はまだ習得できていない。
踏み込みから腰、肩、腕、そして槍へと力を伝える動きを繰り返しているが、少しでも強く突こうと意識すると肩に余計な力が入る。
「まただ」
槍を突き終えたところで、後ろからバルガスの声が飛んできた。
「……分かってる」
「分かってて直せねえなら、分かってねえのと一緒だ」
「厳しいな」
「金もらって教えてんだから当然だろ」
言い返せず、コウイチは槍を引いて構え直した。
少し離れたところでは、ミアも訓練を続けている。こちらは木剣を持ったバルガスの弟子を相手に攻撃を避ける練習をしており、以前のように相手の武器だけを見るのではなく、肩や腰、足の動きへ視線を向けていた。
攻撃されてから避けるのではなく、攻撃される前に動きを読む。言葉にすれば簡単だが、実際にやるとなれば話は別らしい。何度か避けることには成功しているものの、読みを外して木剣を革鎧に当てられることもあり、そのたびに悔しそうに耳を伏せている。
「そういやお前、谷で硬い蜥蜴とやったって言ってたな」
休憩に入ったところで、バルガスが思い出したように尋ねてきた。
「ロックリザード?」
「それだ。《穿牙》は試したのか?」
「試した」
「ほう」
「背中に」
バルガスの眉間に皺が寄った。
「……お前、本当に人の話聞いてねえな」
「だから途中で気づいたんだって」
「気づく前に死んだら意味ねえだろうが」
呆れたように言われ、コウイチは何も返せなかった。実際、槍を弾かれた直後の噛みつきは危なかった。あと少し反応が遅れていれば、革鎧だけでは済まなかった可能性もある。
「でも、柔らかいところはあった」
「どこだ?」
「前脚の付け根。俺じゃなくてミアが見つけたけど」
バルガスの視線がミアへ向く。
「どうやって見つけた?」
「何度か向きを変えるところを見ていたら、前脚が止まる時だけ鱗の隙間が少し広くなっていました。それと、石を擦る音と……息を吐く音も少し違ったので」
「毎回そうだったか?」
「……分かりません」
ミアが少し迷ってから答えると、バルガスは満足そうに頷いた。
「それでいい」
「いいんですか?」
「一度見ただけで分かった気になる奴よりマシだ。次に同じ奴と戦った時、本当にそうなるのか確かめろ。たまたまかもしれねえし、個体によって違うかもしれねえ」
そこでバルガスはコウイチにも視線を向ける。
「お前も同じだ。一度上手くいった、一度失敗した、それだけで答えを決めるな」
「……なるほど」
「技ってのは再現できて初めて技になる。偶然刺さった一撃を必殺技とは言わねえよ」
耳が痛い。だが、今度赤岩の谷へ行った時に何を確かめればいいのかは分かった。
その日は谷へ再訪する予定だったため、休憩後に基本動作をもう少し確認したところで訓練を切り上げた。まだ午前の早い時間だったが、片道2時間ほどかかることを考えれば、今から向かう方がよい。
◇
赤岩の谷へ向かう前に、2人は冒険者ギルドへ寄った。
前回と同じように討伐情報を確認し、赤岩の谷で新しい依頼が出ていないか見ておこうと思っただけだった。
朝の混雑はすでに落ち着いており、依頼板の前にも数人しかいない。コウイチはミアと並んで掲示された依頼へ目を通していった。
「紅硬草は……今日はないな」
「もう足りたのでしょうか?」
「かもしれない。だったらロックリザードを中心にするか」
依頼がなくても素材そのものには価値がある。前回傷をつけてしまった背皮も銀貨5枚になったのだから、状態よく持ち帰れれば十分な稼ぎになる。
そんな話をしていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「おい。どっかで見た顔だと思ったらコウイチじゃねえか」
振り返ると、3人の男が立っていた。
ガイル、ボルグ、ネス。以前ギルドで絡んできた連中だった。
「……またお前らか」
「なんだよ、その嫌そうな顔は」
「嫌だからしてるんだけど」
「相変わらずだな、お前」
ガイルが笑いながら近づいてくる。
面倒だ。以前なら、それだけ考えて距離を取っていただろう。今もできれば関わりたくないという気持ちは変わらない。
「行こう、ミア」
「はい」
相手にせず依頼板から離れようとしたところで、ボルグがミアを見て声を上げた。
「なんだ? お前、いつの間に犬なんか連れて歩くようになったんだ?」
ミアの足がわずかに止まる。コウイチも立ち止まったが、まだ振り返らなかった。
「獣人だよ」
「見りゃ分かるって。そうじゃなくて、そいつ奴隷だろ?」
「だから?」
「いやいや、お前みたいなのが奴隷買うとは思わなかっただけだ」
後ろで3人が笑う。
ミアが少しだけ俯いた。
「コウイチ様、大丈夫です」
「……そう?」
「はい。行きましょう」
本人が相手にしたくないなら、それでいい。コウイチもそう思い、再び歩き出そうとした。
「戦えんのか、その細っこいの」
今度はネスだった。
「荷物持ちか? それとも夜の――」
「ネス」
ガイルが止めたことで、その先の言葉までは続かなかった。
コウイチは振り返った。
「もういいだろ。俺たちは用事がある」
「冗談だろ?」
「面白くないから冗談になってない」
声を荒らげたつもりはなかった。ただ、さっきまでより低い声になったことは自分でも分かった。
ガイルもそれに気づいたらしく、一瞬だけ表情を変えたものの、すぐに肩をすくめた。
「悪かったって。そんな怒んなよ」
それで終わればよかった。だが、ボルグは違った。
「犬獣人なら耳くらいは使えるんだろ?」
そう言いながらミアへ近づき、頭の上にある犬耳へ手を伸ばした。
ミアの耳が伏せられ、身体がわずかに後ろへ引かれる。それを見た瞬間、コウイチは考えるより先に動いていた。
伸ばされた腕を掴む。
「触るな」
ギルドの空気が変わった。
「……あ?」
ボルグがコウイチを見る。自分でも、思った以上に強く掴んでいたらしい。
「離せよ」
「先に離れるのはそっちだろ」
「なんだよ。奴隷だろ?」
「だから何?」
「お前が買ったんじゃねえのかよ」
「俺が買った。お前じゃない」
ボルグの顔から笑いが消えた。コウイチも腕を離さない。
周囲の話し声が少しずつ小さくなり、こちらへ向けられる視線が増えていくのが分かった。
「調子乗んなよ」
ボルグが腕を強引に振りほどく。
「Eランクに上がったくらいで、強くなったつもりか?」
「そんな話してないだろ」
「だったら何だよ」
「嫌がってる相手に勝手に触るなって言ってるだけだ」
「奴隷相手に何言ってんだ、お前」
その言葉を聞いた瞬間、腹の奥に何か熱いものが広がった。
日本にいた頃、何を言っても聞いてもらえなかった時とは違う。自分が何を言われたわけでもない。それなのに、ミアが嫌がっていることを理由にもならないように扱われたことが、妙に腹立たしかった。
「奴隷だったら嫌がってても関係ないのか?」
「コウイチ様……」
背後からミアの声が聞こえた。止めようとしているのだろう。それでも、すぐには引けなかった。
ボルグの手が腰の剣へ向かう。
コウイチも反射的に槍へ手を伸ばしかけた。ここで抜けば自分も処分されると頭の片隅では分かっていたが、ミアを背後に置いたまま、相手の手元から目を離すことができなかった。
その瞬間だった。
「そこまでにしとけ」
低い声が、ギルド内に響いた。
聞き覚えがありすぎる声に、コウイチの手が止まる。奥の受付から歩いてきたのはバルガスだった。
「……バルガスさん」
「訓練終わりに寄っただけなのに、面倒なもん見せやがって」
そう言いながら歩いてくるバルガスを見て、ガイルたちの顔色が明らかに変わった。
「バ、バルガスさん。これは……」
「事情はあとで聞く」
バルガスは3人を見回し、それからボルグの腰にある剣へ視線を落とした。
「ギルドの中で抜く気なら、俺が相手してやろうか?」
「……いや」
「なら手ぇ離せ」
ボルグが剣から手を離す。
それを確認すると、今度はバルガスがコウイチを見る。
「お前もだ」
「……はい」
「怒るのは勝手だが、槍を抜く場所くらい選べ。ここでやり合えば、お前も処分されるぞ」
「分かってる」
「分かってねえから手ぇかけたんだろうが」
「……はい」
朝から何度同じことを言われているのだろう。
バルガスはため息をつき、近くの受付嬢へ声をかけた。
「今の騒ぎ、記録しとけ。あいつらもこいつも、次に同じことをしたら正式に処分する」
「承知しました」
受付嬢が頷き、ガイルたちへも厳しい視線を向ける。
「ギルド内での威嚇や武器の使用は認められません。今回は警告としますが、今後同様の行為があれば処分の対象になります」
ガイルたちもさすがに続ける気はなくなったらしく、何か言いたそうなボルグを連れてギルドを出ていった。
コウイチも受付嬢へ謝り、ミアと一緒にギルドをあとにした。
◇
ギルドを出てしばらく歩いたところで、ミアが口を開いた。
「……すみませんでした」
コウイチは足を止めた。
「なんでミアが謝るの?」
「私がいたから……」
「違うだろ。絡んできたのはあいつらじゃん」
「でも、私がいなければコウイチ様が揉めることもありませんでした」
「それ言い出したら、あいつらがいなければもっと揉めてないよ」
ミアが黙った。コウイチは少し考えてから、さっきのことを思い返す。
「それに、勝手に耳触られるの嫌だったんだろ?」
ミアの耳がわずかに動いた。
「……はい」
「じゃあ止めて正解じゃん」
「でも……私は奴隷です」
「知ってるよ。俺が買ったんだから」
「そうではなくて……」
何かを言おうとしたミアが、途中で口を閉じる。コウイチには何を言いたいのか分からなかった。
「奴隷だからって、嫌がってるのに触っていい理由にはならないだろ」
それだけだった。少なくともコウイチにとっては。
自分が買った人間だから守らなければならない、という義務感でもなければ、主人として格好をつけたかったわけでもない。嫌がっているのが分かったのに、それでも触ろうとしたから腹が立った。
しばらく黙っていたミアが、やがて小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「何が?」
「怒ってくれたことです」
「いや、俺も普通に腹立っただけだから」
「それでもです」
顔を上げたミアが、ほんの少しだけ笑った。まだ遠慮がちで、気を抜けば見逃してしまいそうな笑顔だった。
「……行くか」
「はい」
コウイチはそれ以上聞かなかった。
2人はそのまま赤岩の谷へ向かった。
◇
赤茶色の岩が見え始めた頃には、午後の早い時間になっていた。今日は紅硬草を探す必要がないため、ロックリザードの動きを確かめ、無理のない範囲で素材を持ち帰るつもりだった。
前回は谷へ入ってすぐ、ミアが反響する音に戸惑っていた。今日は立ち止まって耳を澄ませることはあっても、すぐに分からないとは言わず、岩壁と谷の奥を交互に見ながら音の方向を確かめている。
「何か聞こえる?」
「右から聞こえます。でも……」
ミアは目を閉じた。耳が小さく動く。
「違います。正面だと思います。右から聞こえるのは、たぶん岩に返った音です」
「自信は?」
「前よりはあります」
「じゃあ行ってみよう。ただし慎重に」
「はい」
しばらく進むと、ミアの判断が正しかったことが分かった。前方の岩陰で、灰褐色の塊がゆっくり動く。
ロックリザードだ。
「1匹だな」
「はい」
前回より少し大きい。
コウイチは槍を構えながら、隣のミアを見る。
「前のと同じ場所が開くか、見てて」
「はい」
「違うと思ったら攻撃しなくていいから」
「分かりました」
ロックリザードがこちらに気づき、身体を低く沈めた。
コウイチは前へ出る。今回は最初から《穿牙》を使うつもりはなかった。まず相手がどう動くのかを見て、前回の観察が別の個体にも当てはまるのか確かめる。
ロックリザードが地面を蹴り、一気に距離を詰めてきた。コウイチは正面から槍を合わせるふりをして直前で横へ逃れ、通り過ぎた魔物が身体を反転させる瞬間を狙って穂先を向ける。
「ミア!」
「違います!」
すぐに声が返ってきた。
前脚の付け根を見ると、確かに前回ほど大きな隙間はできていない。この個体では、少なくとも今の動きで同じ隙間は見られなかった。
ロックリザードが尾を振るうのをかわしながら、コウイチは距離を取り直した。その間もミアは周囲を回り、短剣を構えたまま攻撃せずに魔物の動きを追っている。
何度か攻防を繰り返したところで、ロックリザードが大きく口を開けた。コウイチは槍の穂先で牽制しながら後ろへ下がり、十分な距離を取って噛みつきをかわす。
その瞬間、ミアの耳が大きく動いた。
「……今の」
「何かあった?」
「もう1回、噛ませてください」
「言い方怖いな」
「避けてください」
「それ先に言って」
ミアが一瞬だけ困ったような顔をした。こんな状況でも、少し余裕が出てきている。
「何を見たい?」
「噛んだあと、首の下が少し動いた気がするんです」
「分かった。ただ、危ない位置では繰り返さないからな」
「はい」
コウイチは周囲を確認した。左側には広い空間があり、足元にも大きな石はない。逃げる方向を決めてから槍を構え直す。
ロックリザードが近づく。コウイチは穂先で牽制し、相手が噛みつこうと頭を下げたところで横へかわした。牙が空を噛み、魔物が勢いのまま頭を前へ突き出す。
ミアは攻撃せず、じっと見ていた。
「……もう1回お願いします」
「結構怖いんだけど、これ」
「すみません」
「謝るくらいなら見つけてくれよ」
「頑張ります」
コウイチはもう一度距離を取り直し、逃げ道を確認してから相手を誘った。無理に引きつけず、危険だと思えばそのまま離れるつもりだった。
ロックリザードが噛みつく。コウイチが横へかわした直後、ミアの声が飛んだ。
「分かりました!」
「何が?」
「首です!」
「首?」
「噛んだあと、頭を戻す時だけ下の鱗が開きます!」
言われて初めて気づいた。背中ほどではないが、首の周囲にも硬い鱗が重なっている。しかし噛みついた直後、頭を引き戻す瞬間だけ喉側の鱗がずれ、柔らかそうな部分がわずかに露出していた。
「もう1回いく」
「はい!」
コウイチは槍を構えた。
今度は《穿牙》を意識する。ただし、弱い場所を狙うことが最優先で、技の形にこだわって危険な踏み込みをするつもりはなかった。
ロックリザードが近づくのを見ながら、コウイチは呼吸を整え、足の裏で地面を捉えた。魔物が口を開いて牙を突き出す。十分な距離を保って横へかわし、頭を引き戻す動きを待った。
「まだです!」
ミアの声に合わせて槍を構え直す。
ロックリザードが頭を引いた。
「今です!」
踏み込んだ。
足から腰へ力を送り、槍を突き出す。穂先が露出した首下へ吸い込まれ、前回とは比較にならないほど深く刺さった。
「ギィィッ!」
ロックリザードが激しく暴れ、コウイチは槍を引き抜いて距離を取った。血が岩の上へ落ち、魔物の動きが明らかに鈍る。
「……違う」
《穿牙》ではない。
ミアの声に合わせようと意識した瞬間、踏み込みがわずかに早くなり、それを修正しようとして腰の動きが遅れた。穂先へ送ろうとした魔力も、身体の動きと噛み合っていない。
弱い場所が開いた瞬間に突けたから、深く刺さっただけだ。
それでもロックリザードにとっては十分な深手だった。もう一度噛みつこうとしたところで身体が傾き、動きが鈍る。
「ミア!」
「はい!」
コウイチが正面から注意を引きつけ、その隙にミアが側面へ回った。
ロックリザードがコウイチへ向けて頭を動かした瞬間、ミアは前へ踏み込み、先ほど開いた首下へ短剣を突き込んだ。すぐに抜いて深追いせず、数歩離れたところで振り返った時には、ロックリザードの身体が地面へ崩れ落ちていた。
しばらく待っても動かない。
「……倒したな」
「はい」
コウイチは槍を下ろし、息を吐いた。成功ではなかったが、前回とは明らかに違った。自分だけで戦っていたら、首下が開く瞬間に気づくまで、もっと時間がかかっていただろう。
「ミア」
「はい?」
「今の、よく見つけたな」
「2回見せてもらったので」
「普通は2回で見つけられないと思うけど」
ミアの尻尾が少しだけ揺れた。
◇
その後、帰路へ向かう途中でもう1匹のロックリザードと遭遇した。
今度は先ほどより小さな個体だったが、前脚の付け根が開く動きも、噛みついた後に首下が大きく露出する動きも確認できなかった。だからといって、無理に同じ場所を狙う必要はない。
ミアは焦らず、コウイチが正面で戦っている間に相手の動きを観察し続け、尾を振り切った直後だけ腹の横が無防備になることを見つけた。
コウイチがそこへ槍を入れ、ミアが傷口を狙って追撃する。硬い背中を無理に攻撃せず、相手が動く中で露出する部分を狙いながら、2人は少しずつ魔物の動きを鈍らせていった。
2匹目を倒した直後、身体の奥から熱が広がるような感覚があった。
「……上がった」
もう何度か経験している。レベルアップだ。
コウイチは周囲の安全を確認してから、自分のステータスを開いた。
【名前】コウイチ 【種族】人間 【年齢】35 【Lv】10→11
【HP】96→109 【MP】68→80
【STR】26→30 【VIT】27→31 【AGI】27→31 【DEX】36→43 【INT】31→35 【MND】29→33
【通常スキル】《槍術》Lv2/《投擲》Lv1
【固有スキル】《鑑定》Lv3/《アイテムボックス》Lv1/《隠蔽》Lv1/《生成》Lv1
やはり上がっている。
Lv10になってから初めてのレベルアップだった。HPとMPだけでなく、他の能力値も以前より大きく伸びている。Lv10を境に成長の仕方が変わると聞いていたが、実際に数字を見ると違いが分かった。
黒狼の森で格下の魔物を倒していた頃に比べれば、明らかに早い。Eランク相当の魔物を続けて相手にしている以上、得られる経験も大きいのだろう。
「ミアも見ていい?」
「はい」
許可をもらい、《鑑定》Lv3を使う。
【名前】ミア 【種族】犬獣人 【年齢】18 【Lv】6→7
【HP】51→55 【MP】24→26
【STR】13→14 【VIT】14→15 【AGI】33→37 【DEX】22→24 【INT】13→14 【MND】15→16
【通常スキル】《短剣術》Lv1/《索敵》Lv1
【固有スキル】《???》(未覚醒) 【覚醒進捗】49%
「ミアも上がってる」
「本当ですか?」
「7になってる」
ミアの顔が明るくなる。自分の成長を数字で確認できるのが嬉しいのだろう。
コウイチはそのまま表示を追い、固有スキルの欄で目を止めた。
「……ん?」
「どうしました?」
「いや」
前に見た時は43%だった。また上がっている。
今日変わったことといえば、赤岩の谷でロックリザードを2匹倒し、ミア自身もLv7へ上がったことくらいだ。だが、以前は戦闘をしていない時にも数字が動いている。レベルだけが条件なら、もっと分かりやすく連動していてもよさそうだった。
「また、あれですか?」
「うん。49%になってる」
「前は……」
「43%」
「6%上がったんですね」
「そうなんだけど、理由が分からない」
戦闘経験なのか、レベルなのか、新しい場所で何かを経験したからなのか。それとも、まったく別の条件なのか。考えても答えは出なかった。
「まあ、下がってないならいいか」
「……はい」
ミアはそう答えたものの、なぜか少しだけ嬉しそうだった。
「何?」
「何でもありません」
「そう?」
「はい」
本人にも分からないのなら、今ここで考えても仕方がない。コウイチは《鑑定》を閉じ、槍を握り直した。
今日の戦闘では、前回よりも《穿牙》に近い動きを意識できた。それでも、弱い場所が開く瞬間へ踏み込みを合わせようとすると腰の動きが遅れ、魔力も身体の動きと噛み合わなかった。
弱い場所を知るだけでは足りない。その場所が弱くなる瞬間へ、自分の身体の動きと魔力を正しく合わせる必要がある。
分かってきた。だが、まだできない。
バルガスが言った「再現できて初めて技になる」という言葉が、今は少し違って聞こえた。
午後の半ばを過ぎたところだった。これ以上奥へ進まず、今日は2匹で十分だと判断する。
「帰ろうか」
「はい」
2匹のロックリザードを《アイテムボックス》へ収納し、2人は赤岩の谷をあとにした。
◇
ラグナードへ戻った頃には、日が傾き始めていた。
朝と同じ冒険者ギルドの扉を開けると、中には依頼帰りの冒険者が増え、酒と汗の匂いに混じってあちこちから大きな声が飛び交っている。
コウイチは無意識に室内を見回した。
ガイルたちの姿はない。
「コウイチ様」
「ん?」
「探してます?」
「……別に」
「そうですか」
「何、その顔」
「何でもありません」
ミアの口元が少しだけ緩んでいる。最近、こういう顔が増えた気がする。
コウイチは何となく居心地が悪くなり、解体受付へ向かって歩き出した。
「ほら、行くよ。今日は2匹あるんだから」
「はい」
ミアが隣へ並ぶ。
朝、この場所を出た時には少し俯いていた耳が、今はまっすぐ立っていた。その理由を、コウイチはまだ知らなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。




