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『異世界無双なんて後回し。まずは生きるために稼ぎます』  作者: ミタテ屋


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第19話◇ 森の見え方

 ミアが来てから、金の減り方が早くなった。


 それに気づいたのは、2人で朝食を食べ終え、いつものように代金を払った時だった。別にミアが贅沢をしているわけではない。むしろ放っておけば遠慮して安いものばかり選ぼうとする。それでも食事は2人分になり、防具や鞘も用意した。バルガスへの訓練料だってかかっている。


 何より、少し前には金貨3枚という、自分にとってこれまでで一番大きな買い物をしたばかりだった。


「……稼がないとな」


「私のせいですか?」


 向かいでパンを食べていたミアが、不安そうに耳を伏せる。


「聞こえてたの?」


「耳はいいので……」


「そうだったな」


 これくらいの独り言なら大丈夫だろうと思っていたが、犬獣人の耳を甘く見ていたらしい。


「別にミアのせいじゃないよ。1人増えたら金がかかるのは当たり前だろ」


「でも、私の食事や防具にも……」


「必要なものに使った金まで気にしてたら、人を増やせないだろ。それより問題は、減ったならまた稼がないといけないってことだ」


 そう言って残っていたパンを口へ運ぶと、ミアはまだ何か言いたそうにしていたものの、それ以上は口を挟まなかった。


 少し伏せていた耳が元へ戻ったのを見てから、コウイチは席を立つ。


「今日は商業ギルドへ行くぞ」


「森ではないんですか?」


「森へ行くために、先に寄るんだよ」


 以前なら、まず森へ入り、手に入った素材を見て何が作れるかを考えていた。だが今は違う。何が売れるのかを先に調べ、そのために必要なものを取りに行く。


 作れることと売れることは違う。


 一度覚えたことを、わざわざ忘れるつもりはなかった。


     ◇


 朝の商業ギルドは、冒険者ギルドとはまた違った騒がしさがあった。


 壁際には依頼や取引情報が並び、商人らしい男たちが職員と話し込んでいる。その横を荷物を抱えた使用人が行き来し、時折、聞いたこともない土地の名前や商品の相場が会話の中に混じった。


 以前は壁一面の情報を見るだけでも少し気後れしたが、何度か利用するうちに、どこを確認すればいいのかも分かってきている。


「今日は何をお探しですか?」


 顔を覚えてくれたらしい男性職員に声を掛けられ、コウイチは最近の取引状況を尋ねた。


「前に扱った留め具はどうです?」


「まだ動いています。ただ、先月ほどではありませんね。櫛も同じです。品質のいい物なら買い手はつきますが、同じ店へ大量に持ち込むのはお勧めしません」


「やっぱり落ちてきましたか」


「ええ。代わりに今は革細工に使う細かな部材と、薬師向けの素材が不足気味です。北側からの荷が少し遅れていまして」


 職員の説明を聞きながら、コウイチは壁の依頼書へ視線を移した。薬師向け素材の中には、黒狼の森で採れる薬草もいくつか含まれている。珍しいものではないが、今なら普段より少し高く買い取られるらしい。


「これならいけるか……」


「採取に行かれるんですか?」


「そのつもりです」


 答えて隣を見ると、ミアも依頼書を眺めていた。ただし文字を追う速度は遅い。


 その視線に気づいたミアが、少し申し訳なさそうにこちらを見る。


「全部は……読めません」


「じゃあ、帰ったら少しずつ覚えよう。仕事で使う文字からなら覚えやすいだろ」


「……教えていただけるんですか?」


「読めた方が便利だからな」


「はい」


 ミアが小さく頷く。その表情がわずかに明るくなった気がしたが、コウイチはすでに次の依頼書へ目を移していた。


     ◇


 商業ギルドで必要な情報を集め、そのまま2人で黒狼の森へ向かった。


 今日の目的は薬草と、需要のある商品へ加工できそうな魔物素材。それに、ミアの実戦経験を増やす意味もある。ただし、無理をさせるつもりはなかった。


 先日のホーンラビットとの戦闘では、木の根に足を取られたミアへ角が迫り、コウイチが槍を投げて助けることになった。


 経験値より命の方が高い。


 あの時口にした考えは、今も変わっていない。


 森へ入ってしばらく歩いたところで、背後から声が飛んだ。


「コウイチ様」


「ん?」


「右から音がします」


 足を止める。


「どの辺?」


「少し先です。たぶん……2匹」


 コウイチも耳を澄ませてみたが、聞こえるのは風で葉が擦れる音くらいだった。


「魔物?」


「分かりません。でも、小さいと思います」


 ミアの耳は右へ向いている。


 コウイチは少し考えてから進路を変えた。


「見に行ってみよう。ただし近づきすぎるなよ」


「はい」


 茂みを迂回しながら進むと、やがて草の隙間に2つの影が見えた。


 ホーンラビットだった。


「……本当に2匹だ」


 思わず呟くと、ミアがこちらを見る。


「偶然かもしれません」


「だったら次も当ててくれ」


「難しいことを言いますね」


 少し困ったように答えたミアの口元が、ほんのわずかに緩んだ。


 2匹なら、それぞれ1匹ずつ相手にできる。コウイチが片方の注意を引き、もう片方をミアへ任せる。少し前なら彼女の動きが気になり、自分の相手へ集中しきれなかっただろうが、今は違った。


 ミアはホーンラビットが地面を蹴った瞬間に正面から外れ、無理に追いかけることなく次の突進を待っている。バルガスに何度も叩き込まれ、自分だけの力でも1匹を仕留められるようになった動きだ。


 焦らず、相手を見る。


 2度目の突進をかわしたところでホーンラビットの身体がわずかに流れ、ミアが低い姿勢から踏み込んだ。短剣が首元へ入り、すぐに身体を離す。


 まだ毎回一撃で仕留められるほどではない。それでも、初めて短剣を握って震えていた頃とは明らかに違っていた。


 コウイチも自分の相手を槍で倒し、2匹の死体を《アイテムボックス》へ収納する。


「大丈夫?」


「はい」


「怪我は?」


「ありません」


「なら次へ行こう」


「はい」


 その日は、それで終わらなかった。


     ◇


 ミアと森へ入る日が増えるにつれ、コウイチは妙な感覚を覚えるようになった。


 森そのものが変わったように感じるのだ。


 以前は1時間近く歩き回って、ようやくホーンラビットを1匹見つけることも珍しくなかった。それがミアと一緒だと、まだ前の戦闘から大して歩いていないうちに、


「左です」


 と耳が動く。


 別の日には、前を歩いていたコウイチへ、


「止まってください」


 と声が飛んだ。


 反射的に足を止めて振り返ると、ミアは鼻をわずかに動かしながら前方を見ている。


「何かいる?」


「前に2匹……いえ、3匹だと思います」


「種類は?」


「分かりません。ただ、ホーンラビットとは匂いが違います」


 コウイチには何も分からない。それでもミアの言葉に従って進路を変え、風向きを見ながら回り込んでみると、木々の向こうにゴブリンが3匹いた。


 そこでようやく、コウイチは自分の認識が間違っていたことに気づいた。


 自分は森で魔物を探していたのではない。


 自分に見つけられた魔物だけを相手にしていたのだ。


 森には、思っていた以上に多くの魔物がいる。ミアの耳と鼻が、これまで自分には存在すら分からなかったものを拾い上げている。


 そこから2人の森での過ごし方は少しずつ変わっていった。ミアが耳や鼻で気配を探り、コウイチが戦うか避けるかを判断する。ホーンラビットなら経験を積ませるためミアへ任せ、ゴブリンが複数なら状況を見て2人で戦った。


 グレイウルフの気配を拾った時には無理をせず迂回する。ミアが音や匂いを頼りに周囲を調べ、その途中で薬草の生えている場所を見つけることもあった。


 戦闘そのものも変わっていった。ホーンラビット程度なら最初からミアへ任せられるようになり、ゴブリンを相手にしても正面から短剣を打ち合わせようとはしない。棍棒が振り下ろされた横をすり抜け、脇や首筋へ刃を入れる。


 派手ではないが、以前ほど危なげもない。何よりミア自身が、戦う前に相手を見るようになっていた。


 どちらの手に武器を持っているか。どちらの脚へ体重を乗せているか。攻撃したあと、どこが空くのか。


 バルガスが教えているのは、単なる短剣の振り方ではないのだと、横で見ているコウイチにも分かってきた。


 そんな日々が1週間ほど続いた頃だった。


「ミア」


「はい?」


「ちょっと《鑑定》していい?」


「……またですか?」


「嫌ならやめるけど」


「いえ。コウイチ様なら大丈夫です」


 何気なく返された言葉に、コウイチは一瞬だけ黙った。


「……じゃあ、見るぞ」


「はい」


 普段の成長確認なら《鑑定》Lv2で十分だ。許可をもらって状態を確認すると、ミアはすでにLv6まで上がっていた。


【名前】ミア 【種族】犬獣人 【年齢】18 【Lv】6

【HP】51/51 【MP】24/24 【STR】13 【VIT】14 【AGI】33 【DEX】22 【INT】13 【MND】15

【通常スキル】《短剣術》Lv1

【固有スキル】《???》(未覚醒)


 特に目につくのは、やはりAGIだった。Lv4の時点で25だったものが、Lv6では33まで伸びている。まだLv10にも届いていないのに、敏捷だけはかなり目立つ伸び方をしていた。


 バルガスの話では、こうした得意な性質はLv10を越えた辺りからさらに目立つ者もいるらしい。今の時点ですでにこれだけ差があるのなら、その先でどうなるのか少し気になる。


 ただ、この時点では新しいスキルはまだ増えていなかった。


 変化が現れたのは、それから数日後だった。


     ◇


「……待ってください」


 森を歩いていたミアが、突然足を止めた。耳が左右へ動き、そのあと鼻が僅かに上を向く。


「何かいる?」


「います。左の奥に1匹。少し遠いです」


「他には?」


 ミアは目を閉じた。


「もっと奥に……2匹。たぶん別です」


「そこまで分かるの?」


「前より……分かりやすい気がします」


 コウイチは少し考えた。単に耳がいいだけなら、最初から同じように聞き分けられていたはずだ。だが実際には、森へ入るたびにミアの判断は細かくなっている。


 音の方向や距離、数、匂いの違い。生まれ持った感覚を、使い方として覚え始めているのかもしれない。


「ちょっと見てもいい?」


「はい」


 今度も《鑑定》Lv2を使う。


 表示された情報の中に、以前はなかった文字があった。


【通常スキル】《短剣術》Lv1/《索敵》Lv1


「……やっぱりスキルになったか」


「何か増えました?」


「《索敵》Lv1」


「索敵……?」


「たぶん、今までやってたことが形になったんだと思う」


 ミアは不思議そうに耳を動かしたあと、森の奥へ顔を向けた。


「何か変わった感じはする?」


「少し……」


 もう一度目を閉じる。


「遠い音と近い音が、前より分けやすいです。それに……余計な音を気にしなくていい感じがします」


 突然知らない能力を与えられたというより、今まで使っていた感覚を整理して扱いやすくなったということなのだろう。それなら、自分が《槍術》を身につけた時とも似ている。


 技術を使い続け、その経験がスキルとして形になる。そしてスキルになったことで、今までの技術をさらに使いやすくなる。


 ミアは耳と鼻を使って魔物を見つけ、その魔物との実戦で《短剣術》を磨く。《短剣術》があれば戦闘が安定し、余裕が生まれれば周囲へさらに意識を向けられる。


 いい循環に入り始めていた。


     ◇


 そして、その恩恵を受けているのはミアだけではなかった。


 狙っていた薬草を以前より短い時間で集め、必要な魔物素材まで予定以上に確保できるようになると、コウイチの商売も明らかに効率が上がった。


 素材を持ち帰り、《生成》で需要のある商品へ変える。


 出来上がった物を商人へ持ち込むと、最初に提示された金額を聞いたコウイチは少し考えた。


「その値段なら、今回はやめておきます」


「いやいや、待ってください。品質はいいんですが、こちらも在庫を抱えるわけですから」


「分かってます。だから無理に買ってもらわなくて大丈夫ですよ。他を当たります」


 本当に商品をしまおうとすると、商人が慌てて手を上げた。


「分かりました。もう少し出しましょう」


 提示された金額を聞き、今度はコウイチも頷いた。


「それなら」


 店を出ると、横を歩くミアが何度もこちらを見ていた。


「どうした?」


「怒らないんですね」


「何に?」


「最初に安い値段を言われていました」


「ああ」


 コウイチは少し考え、肩をすくめる。


「向こうだって商売だからな。安く買えれば、その方がいいだろ」


「嫌ではないんですか?」


「嫌なら売らなきゃいいだけだよ。条件が合えば売る。合わなければ別を探す。それだけ」


 ミアはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


「コウイチ様は、森にいる時と少し違いますね」


「そう?」


「はい」


「どっちがいい?」


「……分かりません」


「そこは褒めるところじゃないの?」


 ミアがまた少し笑う。


 最近、その顔を見ることが増えた。奴隷商館で初めて会った時には、何を聞いても怯えたようにこちらの様子を窺っていた。それが今では、ときどきこうして冗談に返してくる。


 悪い変化ではない。


 その日の取引は、想定していたより利益が出た。ミアのおかげで仕入れにかかる時間が減り、その分だけ必要な素材を多く集められる。1人増えたことで確かに出費は増えたが、1人ではできなかったことも確実に増えていた。


 金貨3枚。


 安かったかもしれない。


 そんなことを考えながら市場を歩いていると、少し前を歩いていたミアの足が一瞬だけ緩んだ。視線の先には小さな露店があり、焼きたてらしい菓子が並んでいる。


 甘い匂いが漂っていたが、ミアはすぐに前を向いた。何も言わない。


 コウイチもその場では何も言わず、露店の前を通り過ぎた。


     ◇


「ミア」


 宿へ戻る途中で名前を呼ぶと、ミアが振り返った。


「はい」


「これ」


 紙に包まれたものを差し出す。


 ミアはすぐには受け取らず、コウイチの手と顔を交互に見た。


「……何ですか?」


「見れば分かるだろ」


 包みから漂う甘い匂いに、ミアの鼻が僅かに動く。


「さっきの……」


「見てただろ」


「でも、私は欲しいとは……」


「言ってないな」


「では、どうして?」


 どうしてと言われても、大した理由はなかった。今日の稼ぎは悪くないし、何よりミアがいなければ同じ量の素材を集めるのにもっと時間がかかっていたはずだ。


「今日、お前が見つけた素材で結構儲かったから」


「私が……?」


「魔物も薬草も、俺1人じゃあんなに見つけられなかった。働いた分くらい、好きな物食っていいだろ」


 それでも受け取ろうとしないので、半ば押しつけるように包みを持たせる。


「高い物でもないし」


「……ありがとうございます」


 ミアは包みを胸元で持ったまま、しばらくそれを見つめていた。


「食べないの?」


「食べます」


 一口かじると、尻尾が動いた。


「美味い?」


「……はい」


「ならよかった」


 ただの焼き菓子で、大した金額でもない。それなのにミアは、食べ終わるまでずっと大事そうに両手で持っていた。


     ◇


 それから数日後の夜。


 宿の部屋へ戻ったコウイチは、ベッドへ腰を下ろして自分の状態を確認した。


 ミアと森へ入るようになってから、戦闘回数は明らかに増えている。自分1人なら魔物を探して歩いていた時間にも、今はミアが次の気配を拾ってくれる。


 身体が以前より動くようになった感覚もあり、表示を見てその理由に納得した。


【名前】コウイチ 【Lv】9 → 10

【HP】86/86 → 96/96 【MP】59/59 → 68/68

【STR】23 → 26 【VIT】24 → 27 【AGI】24 → 27 【DEX】31 → 36 【INT】28 → 31 【MND】26 → 29


「やっぱり上がってたか」


 Lv10。


 バルガスが言っていた、一人前の入口だ。


 Lv9までとは少し伸び方が違い、特にMPとDEXの増加が目につく。自分にも、得意な伸び方があるのかもしれない。


 コウイチは少し離れたところで短剣を手入れしているミアへ視線を向けた。


「ミア、もう1回見ていい?」


「今日はよく見ますね」


「最後に気になることがあるんだよ」


「どうぞ」


 レベルやスキルだけならLv2で十分だが、今回は《???》の覚醒進捗も確認したかった。許可をもらい、《鑑定》Lv3を使う。


【名前】ミア 【種族】犬獣人 【年齢】18 【Lv】6

【HP】51/51 【MP】24/24 【STR】13 【VIT】14 【AGI】33 【DEX】22 【INT】13 【MND】15

【通常スキル】《短剣術》Lv1/《索敵》Lv1

【固有スキル】《???》(未覚醒) 【覚醒進捗】31%


「……31%」


「何か上がりました?」


「いや……」


 前に確認した時は20%だった。


 初めて魔物を倒してLv2になった時には16%から動かなかった。だから少なくとも、単純にレベルを上げれば進む数字ではない。


 それなのに、この間に11%も増えている。《索敵》を覚えたからなのか、自分でできることが増えたからなのか。それとも、この間のどこかで別の条件を満たしたのか。


 朝はバルガスの訓練を受け、森へ入り、魔物や薬草を探し、街へ戻れば一緒に飯を食う。商業ギルドへも連れていき、今度は読み書きも教えることになった。


 森で素材を集めた日もあれば、商人と取引をした日もある。焼き菓子を買ったことだってあった。


 思い当たることが多すぎる。


「……分からないな」


「何がです?」


「こっちの話」


「またですか」


 少し呆れたような声が返ってきた。


 コウイチは苦笑しながら、もう一度表示へ目を向ける。


 《短剣術》Lv1と《索敵》Lv1。


 奴隷商館では何の技能もないと言われていたミアが、自分のところへ来てからまだそれほど経っていないうちに、2つのスキルを身につけている。


 もちろん、何もせず強くなったわけではない。毎朝バルガスに教わり、森では自分の耳と鼻を使って魔物を探し、そのたびに実戦を重ねている。才能だけではなく、経験を積む機会そのものが以前とは違うのだ。


 ミアが強くなるのは嬉しい。索敵の精度が上がれば森での危険は減り、仕入れも楽になる。短剣の腕が上がれば、自分が助けに入らなければならない場面だって少なくなる。


 どれも望んでいたことのはずなのに、胸の奥には妙な引っ掛かりが残っていた。


「……焦ってるのか、俺」


「え?」


「いや」


 ミアに追いつかれるのが嫌なわけではない。むしろ追いついてくれるなら、その方がいい。引っかかっているのは、自分が今までと同じ戦い方のままでいいのかということだった。


 コウイチは壁に立てかけてある槍へ目を向ける。


 これまでは1人だったから、自分が敵の正面に立ち、間合いを取り、何度でも槍を突けばよかった。だが今は違う。


 ミアが敵の懐へ入れば、槍を自由に突き込める場所は狭くなる。味方が近くにいる状態で、何度も大きく槍を振り回すわけにもいかない。森で実戦を重ねるほど、その問題がはっきり見えるようになっていた。


 なら、必要な時に一撃で終わらせられた方がいい。ミアの間合いを邪魔せず、ここだという瞬間に確実に相手を仕留める。そんな槍の使い方があるなら、覚えておきたかった。


「……バルガスか」


「バルガスさんがどうかしました?」


 今度はしっかり聞こえていたらしい。


 コウイチは槍から視線を外し、ミアを見る。


「明日、ちょっと聞きたいことができた」


「何をですか?」


 コウイチはもう一度、壁の槍へ目を向けた。


「一撃で仕留める槍の使い方」


 ミアが僅かに目を丸くする。


 レベルを上げるだけでは足りない。ミアが自分の強みを見つけ始めたように、自分も仲間と戦うために、この槍で何ができるのかを考える必要がある。


 その答えを、まずは槍を教えてくれた男に聞いてみるつもりだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。

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