第10話◇ 武器を使う技術
翌朝、身体を起こした瞬間、脇腹に鈍い痛みが走った。
「……まだ痛むな」
昨日、フォレストボアの牙が服を掠めた場所だ。傷そのものは大したことがないが、身体を捻ると打ち身のような痛みが残っている。
壁際には、昨日生成したB品質の鉄槍が立て掛けてあった。石槍を使っていた頃と比べれば武器は明らかに良くなり、グレイウルフとの戦闘は楽になった。フォレストボアを倒すことだってできた。
それでも昨日は、突進してくるフォレストボアへ槍を深く刺しすぎ、そのまま武器ごと持っていかれた。結局、予備の石槍まで取り出してようやく仕留めている。
鉄槍が悪かったわけではない。問題は、それを使う自分の方だった。
「……武器が良くなっても、使う方がこれじゃ駄目か」
昨日の終わりには、すでに答えが出ている。
次に金を使う場所は、技術だ。
朝食を済ませると、コウイチは冒険者ギルドへ向かった。
◇
受付で事情を話すと、槍を教えられる人物がいるという。
案内されたのは、ギルド裏手にある訓練場だった。数人の若い冒険者が木剣や槍を振っており、その少し離れた場所に、灰色の短い髪をした男が立っている。
年齢は50前後だろうか。日に焼けた顔には深い皺があり、右脚を僅かに引きずっている。それでも上半身は厚く、立っているだけで普通の冒険者とは違う雰囲気があった。
「バルガスさん。この人が槍を習いたいそうです」
受付の職員がそう言うと、男はコウイチを頭から足元まで眺めた。
「槍を使ってるのか?」
「はい。ただ、ほとんど自己流です」
「どれくらいだ」
「この街に来てからなので、まだそんなに長くありません」
バルガスは壁へ立て掛けてあった訓練用の槍を1本取り、コウイチへ投げて寄越した。
「構えてみろ」
言われた通りに構えると、バルガスはしばらく黙って見たあと、小さく息を吐いた。
「なるほど。確かに自己流だな」
「そんなに分かります?」
「分かる。腕に力が入りすぎだし、穂先ばかり見て足が死んでる」
かなり身も蓋もない。ただ、昨日のフォレストボア戦を思い出せば反論する気にはなれなかった。
バルガスへ《鑑定》を使うことはしない。以前グレンから、人への《鑑定》がどう受け取られるのかを教えられている。強そうだから能力を知りたいというだけの理由で、他人を覗くつもりはなかった。
「料金は?」
「朝だけなら1週間で銀貨2枚だ。午後は好きにしろ」
銅貨200枚。
安くはない。だが昨日、フォレストボアの牙から作った櫛6本だけで銀貨6枚になった。それ以外にも角製留め具を売っている。
その金で自分が死ににくくなるなら、使う価値は十分にある。
「お願いします」
「よし。なら今日からだ」
バルガスは訓練用の槍を構えた。
「まず、お前が何をやってるのか見せろ。俺を突いてみろ」
「本気で?」
「当たるならな」
少し腹が立つ言い方だった。
コウイチは槍を構え、間合いを測って踏み込む。穂先がバルガスの胸へ向かった瞬間、相手の槍が僅かに動いた。
軽い音がして、コウイチの穂先が横へ流される。
「え?」
次に気づいたときには、バルガスの槍先が自分の胸元で止まっていた。
「腕を伸ばしすぎだ」
「……なるほど」
「伸ばし切れば、一度外されたあとに戻せねえ。それと槍は長いから強いんじゃない。長い間合いを保てるから強いんだ」
バルガスは槍を引いた。
「もう1回」
その日の午前中、コウイチは同じことを何度も繰り返した。強く突こうとすると腕が伸び切り、相手の動きへ穂先だけを追わせると今度は足が止まる。槍を戻すことを意識すれば、踏み込みが浅くなった。
今まで魔物を倒せていたから、自分なりに使えているつもりだった。実際には、相手が魔物だったから通用していただけらしい。
「力で刺そうとするな。足で距離を作れ」
バルガスの木槍が、何度目か分からないほどコウイチの槍を払った。
「槍は突いた後の方が大事だ。外したら戻せ。刺さっても戻せ。武器を相手へ預けるな」
その言葉に、昨日のフォレストボアが浮かんだ。
「……それ、昨日やりました」
「何をだ」
「刺した槍ごと、フォレストボアに持っていかれました」
バルガスの動きが止まった。
「お前、フォレストボアとやったのか?」
「1匹だけです」
「勝ったのか?」
「一応」
バルガスはしばらく黙ったあと、呆れたように頭を掻いた。
「よく生きてたな」
「自分でもそう思います」
「なら余計に覚えろ。倒せたから正しかった、じゃねえ。次も同じことをやったら、そのうち死ぬ」
それはコウイチ自身も昨日考えたことだった。
勝てることと、安全に狩れることは違う。
その差を埋めるために、ここへ来たのだ。
◇
午後、コウイチは森へ入ったが、その日は奥まで進まなかった。
午前中に教わったことを身体へ馴染ませるため、ホーンラビットを相手に槍の間合いを確認する。腕を伸ばし切らず、突いたら戻し、相手を穂先の正面から外さない。
これまでなら一撃で仕留めることばかり考えていたが、今日は倒すまでの速さより、自分の構えが崩れないことを優先した。
ホーンラビットを2匹倒したところで森を出る。まだ戦えるが、訓練初日に疲れた身体でグレイウルフまで相手にする必要はなかった。
◇
2日目も、午前中はバルガスの指導を受けた。
今日は足運びが中心だった。
「槍だけで相手を追うな。身体ごと向けろ。ただし無駄に近づくな」
前へ、横へ、後ろへ。単純な動きなのに、槍を構えたまま繰り返すと想像以上に疲れる。
「そんなに足が重要なんですね」
「剣でも槍でも同じだ。立ってる場所が悪けりゃ、どれだけいい武器でも役に立たねえ」
午後に森へ入り、単独のグレイウルフを1匹だけ相手にした。
相手が横へ回ろうとしても、以前のように槍を大きく振らない。穂先を正面へ残したまま足で位置を変える。
戦闘時間はそれほど短くならなかったが、危ない距離へ入られる回数は明らかに減っていた。
「……倒すのが早くなるわけじゃないのか」
だが、それでいい。
早く倒すより、怪我をしない方が重要だった。
◇
3日目の訓練が終わったあと、バルガスがコウイチの腰へ目を向けた。
「そのナイフ、投げたことあるか?」
「この前、1度だけ」
「当たったか?」
「顔を狙って肩に」
「当たっただけマシだな」
褒められている気はしない。
コウイチは、グレイウルフ2匹に挟まれたときのことを説明した。
「槍を戻す時間を作るために投げたのか」
「結果的には」
「なら使い方としては悪くねえ。ただし、投げるなら練習しろ。自分の足元に落とすよりはマシだ」
訓練場の端に木製の的が置かれた。
バルガスはコウイチのナイフを1本手に取り、刃の長さと重心を確かめる。
「まず3歩だ。投げる距離を固定しろ」
「もっと遠くからじゃなくて?」
「当たらねえ距離から投げてどうする」
言われてみればその通りだった。
3歩の距離から投げると、刃ではなく柄が的へ当たり、そのまま地面へ落ちる。
「……難しいな」
「回転が合ってねえ。距離を変える前に、同じ距離で刺せるようにしろ」
午前の残りは槍と投擲を交互に練習した。午後は森へ行かず、宿へ戻って身体を休める。
訓練だからといって、毎日魔物まで狩る必要はなかった。
◇
4日目。
3歩から投げたナイフが、少しずつ刃から的へ刺さるようになってきた。
まだ外す方が多いが、投げるたびに何が悪かったのかは少しずつ分かるようになっている。
「次は5歩だ」
「急に難しくなりません?」
「実戦なら相手が止まってくれるとでも思ってんのか」
ごもっともだった。
5歩ではまたほとんど刺さらなくなった。
午後、単独のグレイウルフを1匹狩った。槍だけで戦い、ナイフは使わない。
使えるから使うのではなく、必要なときだけ使えばいい。その判断も訓練の1つだった。
◇
5日目。
午前の訓練を終えたあと、バルガスがコウイチの服を指差した。
「お前、防具は?」
「今のところ、これだけです」
「服は防具じゃねえ」
分かってはいる。今まで後回しにしていただけだ。
「フォレストボアとやる気なら、最低でも胸と腕くらい守れ。避ける前提でも、全部避けられると思うな」
脇腹に残る痛みを思い出す。
技術を身につけることと、防具を用意することは別だ。どちらか片方だけで十分という話ではない。
午前の訓練が終わると、コウイチは森へ向かわず、防具屋へ行くことにした。
◇
防具屋には革製の胸当てや籠手、金属を使った鎧まで様々な物が並んでいた。
重い金属鎧は最初から候補に入らない。欲しいのは槍を扱う邪魔にならず、突進や爪から最低限身体を守れる防具だった。
「軽めの胸当てってあります?」
店員に尋ねると、革製の物をいくつか見せてくれた。
実際に身につけてみる。
胸だけを覆う物でも、肩や脇の形が合わなければ槍を構えたときに腕が動かしにくい。逆に柔らかすぎれば、防具としての意味が薄くなる。
「この辺は冒険者向けですね。動きやすいように脇を空けてあります」
「腕当ても一緒に使えます?」
「ああ。槍ならこの程度の物で十分だ」
コウイチは胸当てと腕当てを何度か試着し、槍を持ったつもりで腕を動かした。革の厚みや重なる場所、紐の通し方、身体へ固定する位置まで確認する。
ここは詳しく知っておきたい。
胸当てへ《鑑定》Lv2を使い、続いて腕当ても同じように確認した。
2つを調べたことで、MPは35から31になった。
手持ちのグレイウルフの毛皮が使えるか尋ねると、店員は少し考えてから頷いた。
「状態が良ければ使える。ただ、そのままじゃ駄目だぞ。ちゃんと鞣して革にしないとな」
「加工だけ頼めるところはあります?」
「この通りの先に革職人がいる。持ち込みでもやってくれる」
完成品を買う価格も確認した。決して払えない金額ではなかったが、《アイテムボックス》にはこれまで倒したグレイウルフから残しておいた毛皮がある。
それを使わず、完成品を丸ごと買う理由はなかった。
防具屋を出ると、教えてもらった革職人の店へ向かった。
◇
《アイテムボックス》に残してあるグレイウルフの毛皮から、状態のいい物を何枚か選ぶ。
マジックバッグから取り出すふりをして見せると、革職人は1枚ずつ状態を確認した。
「これなら使える。何にする?」
「胸当てと腕当てに使いたいです」
「なら、このくらいあれば足りるな。鞣しだけでいいのか?」
「はい。革の状態でください」
完成品まで作ってもらうより、その方が安い。
必要なのは自分で《生成》するための素材と、その素材がどう変わるのかを知ることだった。
「明日の午後には渡せる」
加工料を払い、翌日に受け取る約束をする。
店を出ながら、コウイチは少し考えた。
素材を全部自分で用意する必要はないし、分からない工程まで無理に《生成》で飛ばす必要もない。自分でできない部分だけ金を払い、その結果を観察して理解する。その先を《生成》で補えばいい。
それも、無駄を減らす方法の1つだった。
◇
6日目。
訓練では、バルガスが以前より強く槍を打ち込んでくるようになった。
「最初よりはマシになったな」
「それ、褒めてます?」
「最初が酷すぎた」
やはり褒めてはいないらしい。
それでも最初のように簡単に槍を払われることは減った。バルガスの穂先を正面から外さず、腕だけでなく足を動かして距離を保つ。
攻めようとすればすぐ崩されるが、守るだけなら少しずつ形になってきていた。
午後、革職人の店へ寄ると、頼んでいた革が出来上がっていた。
コウイチは受け取る前に、まず表面を指でなぞった。
魔物から剥いだときの毛皮とは、手触りも匂いもまるで違う。毛は処理され、厚みは残しながらも柔らかく、曲げても簡単には裂けそうにない。
ここも覚えておきたい。
《鑑定》Lv2。
【加工済みグレイウルフ革】
品質:C
素材:グレイウルフの皮
状態:鞣し済み
柔軟性:良好
耐久性:良好
【理解度:87%】
MPは35から33へ減った。
元の皮と加工後の革を見比べると、何が変わったのかが以前よりはっきり分かる。細かな工程まですべて理解したわけではないが、完成した革を実際に触り、《鑑定》で状態まで確認したことで、《生成》が再現するために必要な情報はかなり増えた。
試しに未加工のグレイウルフの皮を素材として《生成》を意識する。
【素材補助生成】
対象:加工済みグレイウルフ革
理解度:87%
使用素材:グレイウルフの皮
【投入MP:1】
生成予測品質:C
【投入MP:2】
生成予測品質:B
「……できるな」
今回は職人に頼んだ。
だが、一度実物を見て理解したことで、次からは皮そのものを加工済みの革へ変えられる。
加工済みの革を持って宿へ戻ると、今度は防具屋で何度も試着した胸当てを思い出した。自分の胸の幅や肩の位置、脇をどこまで空ければ槍を動かしやすいかまで、感覚として残っている。
《生成》を意識する。
【素材補助生成】
対象:革製胸当て
理解度:90%
使用素材:加工済みグレイウルフ革
【投入MP:3】
生成予測品質:C
【投入MP:5】
生成予測品質:B
続いて腕当ても確認した。
【素材補助生成】
対象:革製腕当て・一対
理解度:92%
使用素材:加工済みグレイウルフ革
【投入MP:2】
生成予測品質:C
【投入MP:3】
生成予測品質:B
胸当てと腕当てを両方B品質で作っても、必要なのは合計MP8。
現在のMPは33ある。
明日の訓練まで一晩あることを考えれば、ここで使うことに問題はない。
「生成」
加工済みの革が淡い光に包まれ、まず胸当てへ形を変えていく。
【革製胸当て】
品質:B
MPは33から28へ減った。
続けて腕当てを一対生成する。
【革製腕当て】
品質:B
MPは28から25。
出来上がった胸当てを身につけ、肩を回してから腕を前へ伸ばす。防具屋で試着した物よりも、自分の身体へよく合っていた。
自分の身体だからこそ、どこがきつく、どこを空ければ動きやすいのかが分かる。その情報まで《生成》へ反映できた結果だろう。
腕当ても装着し、最後に鉄槍を構えてみる。
「……これなら邪魔にならないな」
完成品を買うより手間はかかり、革職人への加工費も必要だった。それでも手持ちの素材を使い、MP8で自分に合ったB品質の防具を揃えられたのだから十分だった。
何でも自分でやれば安いわけではない。専門家に任せるべき部分には金を使い、その結果を理解したうえで、自分の能力が役立つところだけ使う。その方が、結果として無駄が少ない。
防具を作り終えても、MPは25残っている。
《アイテムボックス》には、まだグレイウルフの皮が残っていた。
そのまま保管しておくこともできるが、一晩眠ればMPは回復する。せっかく加工済みの革まで理解できたのなら、今のうちに素材の価値を一段上げておく方がいい。
コウイチは残っている状態のいい皮を取り出し、《生成》を繰り返した。
すべてを防具にするつもりはない。
胸当てや腕当てには身体の大きさや用途があるが、加工済みの革なら、その先で何に使うかを決める必要がない。今すぐ売り先を決めなくても、《アイテムボックス》へ入れておけば保管にも困らなかった。
使える皮を加工済みの革へ変えていく。
皮が淡く光り、1枚ずつ柔らかな革へ姿を変えるたびにMPが減っていった。
手元にある皮を加工できるだけ加工したところで、コウイチは作業を止めた。
まだMPは残っている。
だが、材料がなくなったのなら使うためだけに何かを作る必要はない。
加工済みの革は《アイテムボックス》へ収納した。
今すぐ売らなくてもいい。
在庫が増えれば、そのとき改めて売り方を考えればいいのだ。
◇
7日目。
一晩眠ると、MPは35まで戻っていた。
最後の朝、バルガスはいつもの訓練用槍を持ち、コウイチの正面へ立った。
「今日は俺から行くぞ」
「今までも結構来てましたよね?」
「今日はもっと行く」
嫌な予告だった。
最初の一撃から速い。
コウイチは受け止めようとせず、足を使って身体を外しながら槍の正面を維持する。バルガスが横へ動けばこちらも追い、突きが来れば正面から受けずに穂先をずらして間合いから外れる。
数日前なら、2、3手で完全に体勢を崩されていた。
今日は何度か続いた。
それでも最後には槍を弾かれ、バルガスの穂先が胸当ての中央で止まる。
「……まだ全然ですね」
「1週間で俺に勝てたら、俺が困る」
バルガスは槍を下ろした。
「だが、最初よりは見られるようになった。覚えるのは早い方だ」
「普通、どれくらいやれば槍術のスキルって取れるんです?」
「そんなもん人による。半年で取れりゃ早い方だな。何年やっても付かない奴もいる」
半年。
コウイチはその数字を頭へ入れた。
「スキルがなくても使えるんですね」
「当たり前だ。スキルが先にあって技術を覚えるんじゃねえ。身についた技術が、スキルとして形になることの方が多い」
なるほど。
それなら《生成》とも、どこか似ている。
理解しなければ作れない。
「ありがとうございました」
「死ぬなよ。教えた奴がすぐ死ぬと寝覚めが悪い」
「努力します」
「努力じゃなくて、危ねえと思ったら逃げろ」
最後まで言うことは同じだった。
◇
午後、コウイチは森へ入った。
1週間の訓練を終えたからといって、フォレストボアを探すつもりはない。今日は教わったことが実戦でどこまで使えるのか、それを確認するだけで十分だった。
単独のグレイウルフを見つける。
相手がこちらへ気づき、横へ回ろうとする。
コウイチは以前のように槍を振り回さず、穂先を正面へ残したまま足を動かした。
グレイウルフが踏み込んできたところへ小さく槍を突き出す。相手が避ければ追わずに戻し、次の機会を待つ。
もう1度。
今度は肩へ入った。
すぐに槍を引く。
傷を負ったグレイウルフが距離を取るが、こちらから近づく必要はない。そのまま待ち、次の攻撃を外して首元へ槍を入れた。
灰色の身体が地面へ倒れる。
「……前とは違うな」
簡単になったわけではないが、自分が何をすればいいのか分かる。それだけで、戦闘中の焦りはかなり減っていた。
グレイウルフを収納した直後、身体の奥から熱が広がった。
【レベルが上がりました】
【Lv】5 → 6
【HP】55 → 62
【MP】35 → 41
STR:15 → 17
VIT:16 → 18
AGI:16 → 18
DEX:19 → 22
INT:20 → 22
MND:18 → 20
レベルアップと同時に、疲労が薄れていく。
コウイチは数字を確認したあと、スキル欄へ目を移した。
そこに、昨日まではなかった文字が増えていた。
【スキル】
《槍術》Lv1
「……付いた」
バルガスは、半年で取得できれば早いと言っていた。
それを1週間で手に入れた。
もちろん、この世界へ来てから何度も槍で実戦をしている。そのうえで1週間、元Aランクの冒険者から集中的に基礎を教わったのだから、単純に7日間だけで身につけたわけではない。
それでも、普通より早いのは間違いなさそうだった。
理由として思い当たるものが1つある。
《生成》。
物を作るとき、このスキルは対象をどれだけ理解しているかを要求する。槍そのものだけでなく、構えや動かし方について理解を深めたことが、《槍術》の習得にも何か影響しているのではないか。
確証はない。
だが、試すだけならできる。
コウイチは周囲に人がいないことを確認し、《生成》を意識した。
対象は――《槍術》。
【生成できません】
【条件を満たしていません】
「……条件、か」
単純に不可能なら、「生成できません」だけでもよさそうなものだ。わざわざ条件を満たしていないと表示される。
だからといって、今すぐスキルまで作れると思うほど楽観的ではない。ただ、覚えておく価値はある。
コウイチはそれ以上試さず、表示を閉じた。
一週間で武器の扱い方を学び、防具も用意した。皮を革へ加工する方法も知り、レベルも上がって《槍術》まで手に入った。
それでも、実際にどこまで安全になったのかは、まだ分からない。
頭に浮かぶのは、牙2本が銅貨80枚で売れ、《生成》を使えばさらに大きな価値へ変えられた魔物だった。
フォレストボア。
倒せることは、もう知っている。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。




