番外編1 ただザビトとマオがイチャイチャする(したかった)だけの話2
白い地面を進んで行くと、次は異世界の文献に載っていたような、古びた商店街へとやってきた。
店は一つも開いておらず、年季の入ったシャッターが閉まっている。
「今度はどんなミッションだろうね?」
マオが物珍しそうにシャッターを凝視しながら歩いて行く。その隣をザビトも何があっても動けるように警戒しながら歩いて行く。
店先に並んだガチャガチャや虎柄のパーカーなどに足を止めながら進んで行くと、ザビトの眼前にテキスト画面が表示された。
『第2ミッション開始。この画面は貴方だけに見えています。今から暴漢が彼女を襲います。それを華麗に助けてください』
いつの間にかザビトの背中には金属バットが背負われており、これで暴漢を撃退しろということらしい。
商店街を進むと十字路があり、いかにも暴漢が出てきそうなタイミングであった。
ザビトは無言で背中にあった金属バットをマオに手渡すと、スタスタとマオの前を歩いて行った。
金属バットを急に渡されたマオはポカンとしている。
「? 何これ」
「お前が持っていた方がいい」
「? わかった」
十字路に二人が差し掛かったところで、頭をツンツンにワックスで固めた、革ジャンを来た暴漢がやって来た。
「へい兄ちゃん、いい女連れてんなぁ~。俺にもちょっと貸せよ」
「……忠告だ、その子は止めといた方がいいぞ」
「ギャハハ! ちゃちな脅しだな~聞くわけないだろ~?」
暴漢は無理やりマオの肩を抱くと、顔をマオに近づけた。
「おうおう、綺麗な顔してるじゃねえかぁ~」
「や、やめ……」
「なんだぁ~? 怯えてんのかぁ~? その顔もそそるねえ!」
無遠慮に距離を縮める暴漢に、マオは顔を真っ青にしてプルプル震えていた。
「兄ちゃんに見せつけてやろうぜ、なあ?」
「い、いや……!」
マオの目の焦点が合わなくなっていく。
ただでさえ人が苦手なマオだ。それを逃げ場なく詰め寄られてしまったら、あとはどうなるかなんて分かり切っているわけで──
──これはやばいかもしれない。
なおも距離の近いままの暴漢に、ザビトは無駄だと思いながらも制止した。
「おい、悪いことは言わない。止めと──」
「触らないでええええええ!」
マオが叫んだ瞬間、金属バットは遠心力をそのままにフルスイングされ、見事に暴漢のお腹に命中した。
しかもそれだけではない。
「ぐぼふう!?」
丁度暴漢に割って入ろうとしていたザビトにも、金属バットが命中した。
(何で俺まで!?)
暴漢と一緒に吹っ飛びながら、ザビトは弧を描いて地面に激突した。
地面と触れた瞬間に体中から響いてはならない音が聞こえたが、まあそれは気のせいだろう。
「ザビトおおおお!?」
マオの悲鳴を聞きながら、ザビトは何とかグッジョブマークを残し、そのまま意識を失ったのだった。
ザビトが再び目を覚ました時、マオは目に一杯涙を浮かべてザビトを見ていた。
「ザビト!」
身体を起こす間もなく、マオが胸に抱き着いてくる。それをザビトは受け止めながら、傷口が全然痛まないことに気が付いた。
(この世界は幻覚なのか? それとも回復魔法がかけられていて、肉体には影響がないのか?)
折れた骨や切れた筋肉を再生する魔法となれば、それこそ神聖魔法の類になる。
この異空間を形成しているだけでも莫大な魔力量だと言うのに、加えて神聖魔法も使えるとなれば、相手は複数人かもしれない。
しかも、かなりの手練とみた。
(ただの道具屋の遊びじゃなさそうだな)
マオに抱き着かれたまま起き上がったザビトの前に、テキストが表示される。
『イチャイチャしろよおおおお! くそおおおおお!』
「……お前は何と戦っているんだ?」
ご乱心なテキストを見ながら、ザビトは呆れた声を出した。
もうさっさとこの空間から出たい。商品は無くていいので、このまま帰して欲しい。
マオも同じ気持ちなのか、じっとザビトの顔を見ている。
『さっさと出る手立て考えれるよね? ザビト』という訴えかける視線が、ザビトに突き刺さっている。
ザビトは大きくため息を吐いて、テキストに話しかけた。
「もう俺達を解放してもいいんじゃないか? それとももっとイチャイチャがお好みなら、それ相応のミッションを用意するんだな」
煽ってはいけないとはわかっていつつも、煽らずにはいられない。
だから失念していたのだ。
『なるほど、では次が最後のミッションとしよう』
ゲームマスターは『恋人同士』のイチャイチャを所望しているということを。




