番外編1 ただザビトとマオがイチャイチャする(したかった)だけの話1
「カップル応援割引……」
「そうさ! みんな応援割引目当てで並んでいるのさ!」
爽やかイケメンの言葉に、ザビトはほうっと頷いた。
現在ザビトはギルド前にある道具屋の前に来ていた。
道具屋にはお客が長蛇の列を成しており、気になって近づいたところ、爽やかイケメンが話しかけてくれたのだ。どうやら道具屋でイベントをやっているらしい。
爽やかイケメンの隣にいる爆乳美女が、爽やかイケメンの腕に絡みつきながらザビトにウインクを送る。
「カップルの冒険者を応援したいって、道具屋の店主が1日限定でイベントを開いているみたいなのよね~」
「しかも料金はどれだけ買っても0円さ! 冒険者には優しいよね」
0円。
その言葉を聞いた瞬間、ザビトの目の色が変わった。
ザビトとマオは、今や全世界逃亡中だ。
資金があるとはいえ、無駄な出費は抑えたい。少しでも安くなるなら、カップルのフリをするのもやぶさかではない。
隣で人ごみに疲れてぐったりとしているマオに、ザビトはニヤリと声を掛けた。
「マオ、俺達カップルだよな?」
「……うん?」
「よし、列に並ぶぞ」
「何を言っているのかな?」
困惑しているマオを背中に、ザビトは列の最後尾に並んだ。
結構な数のカップルが並んでいたので、商品が無くなってしまうかと思ったが、こ
の日のために店主は商品倉庫を何十個も借りたらしい。品切れになることはなさそうだ。
ザビトは安心して欠伸をかみ殺していた。
だから、油断していたのかもしれない。この世にうまい話などにということを、忘れていたのだ。
チリン、と扉に付けられていた鈴が鳴る。
列が進み、ザビトとマオが店に入った瞬間、足元にあった魔法陣が発動した。
すぐさまザビトはマオを魔法陣から離そうと突き飛ばしたが、遅かった。気づけば二人共光に包まれ、目を開けると異空間にいた。
何処までも伸びる白い地面に、青いペンキで塗りつぶしたような、画用紙に書いたような空。
風が吹いているが、物は何一つ置かれていない。
──閉じ込められたのか?
まさか追っ手がここまで来ていたのかと、ザビトは辺りを警戒しながらマオに問いかけた。
「……マオ」
「大丈夫、敵意は感じないよ。この空間にいるだけで死ぬことはないよ」
マオは強制転移されたのにもかかわらず、のほほんとしていた。その余裕はやはり、魔王様の風格そのものであった。
マオが大丈夫と言うからには、今の状況は切羽詰まった状況ではないのだろう。死んでさえなければ、いくらでも手の打ちようはある。
ザビトは肩の力を抜き、息を吐きだした時だった。
ポンッという軽快な音と共に、ザビトとマオの前に、異世界でいうゲームの画面が表示された。
『ようこそ、トリック商店へ♪ 君たちには今から本当のカップルであること証明するために、ゲームをしてもらうよ♪』
「ゲームねぇ……」
ザビトは試しにゲーム画面に触れてみたが、触ることは出来なかった。
テキストが更新されていく。
『まずは第一のミッション! お互いの好きなところを伝え合ってね♪』
「無いね!」
即答するマオの口元を、ザビトは瞬時に手で塞いだ。
「もごご!」
マオが暴れるが、ザビトは冷静にゲームの内容を見ていた。
ゲームクリアはきっと商品をタダで買える権利を貰えることだろう。ならば、ゲームオーバーになったときの代償は?
明示されていないのだ。つまり、相手の好きなように設定できるとも言える。
ザビトは空間に向かって話しかけた。
「もしも俺たちがカップルじゃなく、ゲームオーバーになった時は、どうなるんだ?」
テキストがカタカタと音を立てて文字を刻んでいく。
そこにはこう書かれていた。
『こちらで選んだ人間と結婚してもらうよ♪』
『愛してるよ、ハニー(ダーリン)!』
結婚という言葉を聞いた途端、ザビトとマオは同時に肩を組んだ。
これはもう偽装カップルをやり抜くしかない。商品はおまけだ。
笑顔をぎこちない二人を前に、テキストがまた更新される。
『第一ミッションを遂行してください』
「遂行って言ってもなぁ……」
ザビトはマオの顔を見つめた。
マオとは旅を通じて沢山知ることがあった。辛い食べ物は苦手だとか、意外と服装にはズボラだとか、けれど風呂はとても長いとか、他にも色々。
話しやすいから忘れがちだが、ちゃんと女の子なのだ。
マオの髪がさらりと風にさらわれる。鼻に届いた甘い香りはマオから漂ってきたもので、ザビトの脳髄を痺れさせた。
ザビトはマオの顔を見つめたまま、ぼそっと呟いた。
「顔が良い」
「他に言うことはないのかな!?」
ギャンギャンとマオは騒ぐが、一番初めに頭に思い浮かんだのはそれなのだ。仕方がない。
マオはひとしきり騒いだ後、頬を膨らませながらザビトに言い放った。
「ザビトはとっても意地悪! 狡猾だし人の話を聞かないし、世界を斜めに見ててたまに痛い!」
「……うん?」
「けど……」
マオはザビトから視線を逸らすと、口を開けたり閉めたりして言葉を言おうかどうか迷っている様子だった。
頬はピンク色に染まっており、マオの白い肌に映えている。
ザビトは無意識にマオの頬に手を伸ばすと、手の甲で肌に触れたまま意地悪な顔をした。
「けど?」
続きを促すように見ていると、目を泳がせたマオが意を決したのか叫んだ。
「作ってくれる料理がめちゃくちゃ美味しい!」
「……」
『……』
ジト目になるザビトを露知らず、マオは嬉しそうに話し続ける。
「スペアリブは骨までかぶりついちゃうくらい味が染みてて美味しいし、前に作ってくれたオムライスは卵が半熟でナイフを入れた瞬間にとろりと卵が溢れきてて!」
「……うん」
「ピラフも具だくさんで美味しかったな! 隠し味に何か入れてたけど絶対に何入れたか教えてくれなかったよね~。カレーはチョコを入れてるところは見たよ! 合うのかなって不思議だったけど、これが美味しいのなんのって!」
「……うん」
「あ、あとおにぎりなんだけどね、これがまた美味しいの! ただ握るだけでしょって思ってた私を殴り飛ばしたいくらい、ふわふわのあつあつで丁度いい硬さでね! 今度は明太子のおにぎりが食べたいな!」
「……うん、わかった。わかったからもう許してくれ……」
もっと違うところを褒められると思っていたザビトは、まさかの料理の腕を褒められ、何とも言えない気分になっていた。
マオのご飯談義は一度始まったら止まらない。目を輝かせながらどれだけザビトの料理が美味しいか熱く語っている。
テキストが静かに音を立てた。
『愛されてますね?』
その言葉にザビトは力ない笑みを向け、首を振った。
「愛されているというか、ただご飯が愛されているだけというか……」
『心中お察しします』
「止めてくれ、余計に惨めになる」
マオの話の途中にもかかわらず、地面には矢印方向が現れ、ザビトはマオの首根っこを引っ張りながら次に進んで行った。




