お願い、気づかないで
◆◆ ◆
「俺ってばマジ有名人~」
とある街の掲示板の前に、ザビトとマオはいた。
人通りはそれほど多くないが、かといっていつ身バレするか分からない状況。
にもかかわらず、ザビトは自分の顔が書かれた指名手配をまじまじと見ていた。
指名手配は一番最初に書かれたものから更新されており、ザビトの名前の隣には
『魔王は生きていた!? 人間の少女を誘拐中!』と書かれていた。
「もう、何でザビトが魔王になっているのかな! 魔王は私なのに!」
ザビトが魔王として指名手配されていることにご立腹なのか、マオはプンプン怒っている。
あの時は魔王のフリをするのが最善だったといえ、ここまで世界を欺けると腹の底から笑いが出てくる。
やっぱり俺は、生粋の詐欺師だ。
あくどい笑みを零すザビトを、マオは白けた目で見ていた。
「そういえば」
ザビトはマオの髪を見る。そこには酒場の子供から貰ったという髪飾りが付けられていなかった。
髪を結う気分じゃないのだろうか。ザビトは何の気なしに聞いた。
「ガキンチョに貰った髪飾りはどうしたんだ?」
瞬間、マオの目が曇る。
「うんとね……この前魔法放った時にですね……」
「おう」
「壊しちゃいました……」
マオは腰のポケットから、ハンカチに包んだ髪飾りを出した。
バラバラに砕けてしまったそれは、どう頑張っても修復できそうになかった。
「結構気に入ってたんだけどなぁ~」
しょんぼりとした様子のマオに、ザビトはポケットに入れっぱなしだったプレゼントを思い出した。
(壊れてしまった髪飾りの代わりにはならないが)
気休め程度にはなるだろう。ザビトはマオの頭の上に、プレゼントをポンと乗せた。
突然の事に、マオは目を瞬かせている。
「え? え?」
「やる」
「やるってこれ……プレゼント?」
「いらないなら貰うが」
「いるいる! 絶対いる!」
マオはプレゼントを大事そうに両手で持つと、中身を見た。
「うわぁ、綺麗」
髪飾りに付いた青い水晶の花が日光に反射して、きらりとマオの手の中で輝いた。
もちろん花言葉については触れない。マオは魔界出身なので、花言葉も知らないだろう。
すぐさまマオは髪飾りを髪につけると、花が咲いたような笑顔でザビトを見た。
「どう、可愛い?」
「可愛い可愛い」
「うー、心がこもってない!」
怒った風を装いつつも、喜びが隠しきれていない。
周りの人々が恋人がプレゼントを贈ったと勘違いしたのか、温かい目をマオとザビトに送っていた。
そんなのではない。ただ、髪飾りを持っていないと言っていたから買っただけだ。そして壊れたと言ったからあげただけだ。それだけだ。
ザビトはマオの顔を見ることが出来ずに、横を向いていた。
すると、マオがザビトの頬に小さな袋を当てた。
「? 何だこれは」
「開けてみて!」
言われるがまま開けてみると、そこにはブローチが入っていた。
透明な花弁に、花の中央が黄色く光っている。
──『シャルル』だ。
ザビトはその花を知っていた。よくお姉さんが男性から送られていたからだ。
花言葉は確か──
ザビトは耳を真っ赤にした。思考が乱れて、一向に収まらない。
普段と違う様子のザビトに気づかず、マオはキョトンとしている。
「どうしたの? ザビト」
「お前、何でこの花……」
「うん? 可愛いよね、黄色く光るんだよ」
「そうだな、可愛いな……?」
ザビトはマオに背を向けると、そのまま歩き出した。
どんな顔をしてマオを見ればいいか、分からない。きっとマオは花言葉を知らずに贈ったのだ。だから動揺する必要はないのだ。
そこで、はっとザビトは気づいた。
──今俺、動揺しているのか?
どんなハニートラップを仕掛けられても涼しい顔をしていた俺が?
自分の感情をコントロール出来るところが強みだと思っていたのに、全然出来ていないではないか。
ザビトはマオに向き直ると、じっとマオを見つめた。
「? どうしたのザビト?」
「いや、お前って可愛かったんだな」
「ぶっ飛ばしていいかな?」
怒るマオを、からかうザビト。
まだ紅眼の人物の情報は捕まらない。でも、いつか必ず見つけ出してやる。
それまでは、少し寄り道もいいかもしれない。
ザビトはブローチを胸につけて、自然と微笑んでいた。
──完──




