オモチャ
土砂降りの雨の中、ザビトと対峙するマオ。
しかしマオはザビトを一目見ると、ザビトに興味を失ってその場を引き返そうとした。
──本当に“おもちゃ”になったザビトなど、イラナイ。
そう、ザビトは洗脳魔法をかけられていた。
ザビトがタガーナイフを持って、マオに切りかかって来る。
マオはそれを一切見ずに、避けた。
追撃をしかけてくるザビトを、マオはやはり興味が失せた目で見下ろしていた。
マオは物陰に向かって呟いた。
「勇者もどきよ、いや、下等よ。貴様に洗脳魔法が使えたとは驚きだぞ」
どこからともなくユウマは現れると、両手を広げてニコリと微笑んだ。
「いやあ、これは主様の力さ。僕のものじゃない」
「だろうな」
酒場で会った時のマオとは様子の違うマオを見て、ユウマは首を傾げる。
「君はザビト君に誘拐されていた子だよね? もう逃げても大丈夫だよ。ザビト君には攻撃しないように言うから」
「それはありがとう、だが──」
瞬間、周りの空気が重いものに変わる。
マオの全力の殺気に、雨音は一層激しいものになった。
「貴様、本当に“弱い”な」
ユウマは剣を構えて、マオを訝しんで見つめている。
「……君、何者だい? 魔力はほとんど無いようだけれど、戦いを知っている子だね?」
「ほう、軟弱者でもそれくらいは分かるか」
「君なら主様も喜びそうだ。どうだい? 僕たちの仲間にならないかい?」
マオはユウマの制止命令でタガーナイフを振り上げたまま固まっているザビトに近づくと、ザビトの心臓の辺りをゆっくりと撫でた。
鼓動のしないそれは、マオによって生かされているものだ。
「いらん。貴様の提案は欠伸が出そうだ」
「……僕たちの仲間になれるのは、光栄なことだと思うけれど? もしかして、ザビト君に、いや“初代魔王”に操られているのかい?」
その言葉にマオは心底笑った。
初代魔王の話は、マオがザビトに旅の途中したものだ。
ザビトは話半分に聞いていたはずなのに、ちゃんと覚えていてくれたらしい。
胸にあったかいものが広がる。やはり、“おもちゃ”はこうでなくては。
「勇者もどきよ、一つだけ言っておこう。貴様の仲間になるのは牢獄に入るより退屈だ。我は人間の身でありながら、世界さえ騙そうとする愚か者が大好きなのだよ」
「そうかい、それは残念だ。なら──」
ユウマの目が紅く光る。邪魔者は排除すると決めたらしい。
命令を受けたザビトが動き出し、マオにタガーナイフを振り下ろした。
それを、マオは“笑顔で見た”。
洗脳されている? 別にいいではないか。ザビトはザビトだ。
相手の物になってしまったのならば、奪うまでだ。
地の果てまで精神が逃げたというのならば、引きずり出すまでだ。
この世界はきっと、ザビトのような人間がいるから“オモシロイ”のだ。
「何度だって、君の心臓になるよ。ザビト」
嘘偽りないその言葉に、タガーナイフを振り下ろそうとしていたザビトはピタッと止まった。
そして──なぜかガシガシと頭を掻き始める。
予想しなかった動作に、マオは目を瞬かせた。
「あー、もうちょっと泳がせるつもりだったのに、お前には負けるわ」
「……ザビト?」
「ま、女の子を殺す命令を出す勇者さまも“撮れた”ことだし、ネタバラシといきますか?」
ザビトはくるりとユウマに向き直ると、悪魔のような笑みを見せた。
それは、いつも見るザビトの表情だった。
「反撃開始~なんつって」




