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異世界詐欺師 ~魔法が使えない俺は、嘘だけで世界を騙す~  作者: エース・レッド


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支配?愉悦?

◆◆ ◆

 

 ザビトの生命力を目印に、マオは走っていた。


 口からはぜえぜえと息が零れ、過呼吸を起こしそうな程肺を圧迫していたが、気にせず走り続ける。


 ──ザビトが連れ去られてしまった。


 その事実に、マオは歯噛みする。


 魔力さえあれば、ザビトの盾になることも、敵を追い払うことも、簡単に出来た。


 しかし今のマオにはそれが出来ない。ザビトが担がれ、何処かへ連れていかれるのを見ていることしか出来なかった。


(今行っても、何も出来ない)


 それでも、足は自然とザビトの生命力を辿っていた。喉が息を吸い込み焼けるように熱いが、気にしない、


 ザビトの生命力を感じるということは、命を取られているわけではない。だが、その状況もいつまで続くかは分からない。


(間に合え、間に合え!)


 行ったところで、ザビト同様捕まるしかないのだが。それでも何もせずにはいられない。


 ポツリ、マオの頭に雫が落ちた。


 ──雨だ。


 一粒落ちれば後は続くように、ポタポタと雨が降り始め、気が付けば数メートル先が見えなくなるほど土砂降りの雨になっていた。


 雨の拭うこともせず、マオは走る。走る。


 なぜこんなにザビトの為に頑張っているのか。なぜザビトを助けたいと思うのか。


 マオにはその答えが分からない。


 けれど屋敷で初めて会った時、マオは見てしまったのだ。


 泣きそうな顔で己のブロンドを見る、ザビトの執着心にも似た憎しみを。


 けれどその憎しみは、己には向けられていなかった。


 それがマオにはとても不思議だったのだ。自分は魔王だ。だから人間から憎しみを受けることなど当たり前だと思っていたし、そういうものだと思っていた。


 憎しみというものに、慣れていたのだ。


 だがザビトは、マオに『俺の腕の中に飛び込んで来い!』と叫んだ。時間逆行魔法を使ったため、魔族であるとピンときていたはずなのに、それでも自分を人間が命がけで助けようとしていた。


 単純に面白いと思った。がぜんザビトという男に興味が湧いた。


 ついて行く理由など、心臓を与える理由など、それだけで良かった。


 愉悦こそ、もっとも素晴らしき生命活動であるのだ。


 だから、まだザビトに死なれては困るのだ。


 マオには人間が分からない。感情と言うものを、正しく理解していない。ザビトという男の行く末が、こんなところで終わってはツマラナイ。


 ──そう、これは“我”のヒマツブシだ。それ以上でも、以下でもない。


(それを他人に、ましてや勇者もどきに壊されては困るのだ)


 ザビトは我の“おもちゃ”だ。他に取られるくらいならば──


 今心臓を止めてしまおうか?


 脳裏を掠めるのは、完全な独占欲。


 ザビトで遊んでいいのは、我だけだ。


 いや、我からおもちゃを奪おうとしているのは、あの勇者もどきだ。


 ならば勇者もどきを、地獄の底に落とそうか?


 我が直々に手を下すのも惜しいが、それ以上にザビトを失う方がツマラナイ。


 ツマラナイ。ツマラナイ。ツマラナイ。


 あぁ、ザビトのあのあくどい笑みで、世界を塗り替えてしまおうか?


 波音が近くなっている。どうやらザビトの生命力はこっちに向かって歩いているようだ。


 ……こっちに向かって歩いている?


 マオは、ピタッと足を止めた。


 ジャリ。ジャリ。


 暗い視界の中、砂の擦れる音が聞こえる。


 マオの目の前に現れたのは、黒の長髪になったザビトだった。しかし──


「……お主、ツマラナクなったな」


 マオはそう言うと、ザビトの『紅くなった目』を見た。

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