決着
◆◆ ◆
「合計、ベラドンナ様マイナス3ポイント、ザビト様5ポイントとなります。したがって最終ゲームはなされず、ザビト様の勝利となります」
その場に崩れ落ちるベラドンナ。ザビトとマオはベラドンナの前に立った。
「どうして、どうして『ダウト』になっているの……? マオちゃんは『ダウトなし』を選択したはずじゃ……」
「うん、私は『ダウトなし』を選択したよ」
「じゃあ何で……」
「簡単なことだ、このタブレットはダミーってことだ」
訳が分からないといった顔をしているベラドンナ。
ザビトは一つずつ説明した。
「観衆有のゲームの時点で、選択が見られることは想定していた。合図まで解き明かしたくてギリギリまで粘ったが、流石にこの人数の中からベラドンナさんの仲間を見つけるのは無理だったな」
おかげで5ゲーム目までかかっちまったがな。とザビトは少し反省していた。
「それじゃあタブレットがダミーっていうのは?」
「おう、俺が持っていたタブレットも、マオが持っていたタブレットも、実はダミーなんだ」
ベラドンナの目が見開かれる。
「二つとも、ダミー……? じゃあタブレットの背にあった傷は……」
「流石ベラドンナさん、よく見ている。でもそれマグネットで出来た取り外し可能の傷だぞ。シャッフルの時に付け替えたんだ。ザビトのタブレットを本物のプレイヤータブレットにみせるために“わざと”付けたんだ」
マオはタブレットの背から傷のマグネットを取ると、ぷらーんとベラドンナに見せた。
ベラドンナの全身から力が抜けていく。
「……両方ともダミーっていうことは、まさか……」
ザビトはタブレットを操作すると、画面をベラドンナに見せた。
「おう、察しが早いな、その通りだ。順を追って説明するけど、実は俺たちには“協力者”がいたんだ。アンタと同じようにな」
「ッ!」
「この配布されたタブレット、ベラドンナさんが言った通り、本物のタブレットと同じように画面共有出来るんだ。だから“俺の”タブレットを“協力者”に渡して、その画面を共有した“協力者の”タブレットを持ってゲームに参加した。マオがタブレットを持っていたのはフェイクだ!」
「フェイク……」
「“協力者の”タブレットに選択画面は映るけど、他の二人はタップしても本選択にはならない、つまりベラドンナさんの協力者はちゃんと俺の選択した画面を見ていたってことだ」
「いつのまに協力者なんか……」
その声に反応して、一人の人間がベラドンナの前に現れる。その人物は――
「すまないね、ベラドンナさん」
「……店主……」
店主のおっちゃんであった。手にはタブレットを持っている。ちらりと見えたタブレットの画面には、ゲーム画面が映っていた。
先程まで店が賭けられおどおどしていたはずなのに、そこには自信に満ち溢れたおっちゃんがいた。
全部、演技だったのだ。
「悪いね、ザビト君の作戦に乗らせてもらったよ。この店は絶対に守る」
「そういうことだから、ベラドンナさん」
ザビトが悪い顔をする。
「店のお金の支払いは、来月まで待ってもらうぞ♪」
うなだれるベラドンナ。こうして試合は幕を閉じた。
ザビトは心の中で一息ついた。
上手くいったから良かったものの、何度も危ない橋を渡っていた。一歩間違えばうなだれていたのは俺の方かもしれない。
ベラドンナはわなわなと震えると、独り言を言い出した。
「あ、主様……アタシはまだ負けておりませんわ!」
すでに女王の面影はない。覇気を失っていた。
マオはザビトの腕にくっつくと、ザビトを見上げた。
「このおばさんどうするの?」
「そうだな、とりあえず黒龍の翼のメンバーさんたちをどうにかするのが先じゃないか?」
ザビトが周りを見渡す。そこには酒場にもかかわらず、今にもザビトに襲い掛からんと殺気立っている黒龍の翼のメンバーたちがいた。
リーダーのベラドンナを負かされて、大層お怒りの御様子だ。
ザビトはヘラヘラとした態度を崩さないまま、どうやってこの場を収めるか考えていた。
出来れば穏便に帰っていただきたい。難しいだろうが。
「黒龍の翼のメンバーのみなさ~ん、武器をしまっておかえり願えませんか~?」
「だまれ、詐欺師め!」
「ですよね~」
周りの冒険者たちは、事の成り行きを見守っている。一応ベラドンナが負けたことの証人になってくれる人たちなので、買収などされたらめんどくさい。
そう、ザビトが考えていた時だった。
──青いバラの花びらが、視界を覆いつくした。
正しくは、青いバラの花びらが、“ベラドンナ”を覆った。
「あ、あああああ!」
ベラドンナは目を見開き、花びらに埋もれていく。
ザビトはとっさにマオを庇った。マオは花びらをじっと見たまま、何かを考えている。
──魔法の類だろうか? それにしては冒険者たちが剣を構えていない。ということは殺気が無いということだ。
ならばベラドンナ単体を狙ったもの?
ザビトの警戒は最高潮に達していた。
花びらが床に落ちていく。
中から現れたのは、勇者・ユウマと──
剣を胸に突き刺された、ベラドンナだった。
「がはッ」
ベラドンナの口から血が溢れだす。肌を滴りおち、床に水たまりを作った。
酒場は何が起こったのか分からず、時が止まったように静かになる。
ユウマはベラドンナから剣を引き抜くと、静かに告げた。
「ベラドンナ、君は幹部候補失格だね。主様の御命令一つ叶えられないなんて」
「な、なんで……ユウ、マ様……」
「君はいらない。それが主様のご判断だよ」
ベラドンナの瞳から光が消え、そのまま地面に崩れ落ちた。
と、同時にマオがザビトの前に出ようとしたが、それよりも早い速度でユウマがザビトの懐に忍び込んだ。
一ミリも見えなかった。剣を構える間も、防御態勢を取る間もなく、ザビトの腹に重い衝撃が加わった。
「ぐはあ!?」
明らかに前よりも速い、一連の動き。
ユウマはザビトに告げる。
淀んだガラス玉のような瞳は、一切ザビトを写していなかった。
「甘えの無くなった勇者は強いよ。君の弁舌はもう効かない」
「ユ、ウマ……」
「少し、話をしようよザビト君。君は色んな事を知りすぎた」
「ザビト!」
マオの悲鳴を最後に、ザビトの意識は途切れた。




