観察
2ゲーム目。
ザビトはさっそくタブレットで選択すると、ベラドンナに向き直った。
なんとも早い選択だ。さっきの言葉は本当だったのだろうか?
それともフェイク?
ベラドンナは目を細め、ザビトを観察した。
「はい、“夜伽”を選択したぞ」
観察されていることを気にも留めず、ザビトは告げる。
「ほーう……」
面白い。
(この子、意趣返ししようとしてるのかしら? それはそれで最高に上がるけれど……)
ベラドンナはタブレットに目を落とすと、“考えこむフリ”をした。
選択はもうすでに決まっているのだ。だからと言って早く選択してしまえば、怪しまれてしまう。
ベラドンナは心の中でニヤリと笑った。
(ザビトちゃんがこのゲームに勝つことは絶対にないわ)
ベラドンナはゆっくり時間をかけてタブレットを操作して、コールを選択した。
「コール、『ダウト』よ」
聴衆がざわざわとし始める。皆結果が気になっているようだ。
騒音の中、静かにゲームマスターが結果を口にした。
「ただ今のゲーム、ザビト様『不倫相手(1人)にメッセージを送る』を選択、ベラドンナ様『ダウト』を選択。結果、ザビト様マイナス1ポイント、ベラドンナ様プラス1ポイントとなります。合計、ベラドンナ様2ポイント、ザビト様マイナス2ポイントです」
結果を聞いて、ベラドンナは嘲笑った。
「夜伽するにはまだ早かったんじゃないかしら、坊や?」
分かりやすいくらいに煽る。これで冷静さを失ってくれたら儲けものだ。
しかしザビトはベラドンナを見ずに、欠伸をした。
「意外と子供だと思っていた奴が、実は大人だったりするんすよ」
「あら、それは失礼? 子分になったあかつきにはアタシを満足させてくれるのかしら?」
「アンタじゃ“俺が”満足出来ないっすね」
カチン。
ベラドンナはプライドを逆に傷つけられ頭に血が上るかと思ったが、息を吐いて平静を保った。
(危ない、危ない。ザビトちゃんは弁舌が上手いのね。気を付けておかないと)
こうしてゲームは進んで行った。
3ゲーム目、4ゲーム目は連続でベラドンナがポイントを獲得した。
ベラドンナがザビトを容赦なく煽る形が続き、驚くほど上手くポイントが取れたのだ。
3ゲーム目はベラドンナが『友達にメッセージを送る』を選択、ザビトが『ダウトなし』を選択。結果、ザビト0ポイント、ベラドンナプラス1ポイントとなった。
4ゲーム目はザビト『不倫相手(3人)にメッセージを送る』を選択、ベラドンナ『ダウト』を選択。結果、ザビトマイナス3ポイント、ベラドンナプラス3ポイントとなった。
これで合計はベラドンナ6ポイント、ザビトマイナス5ポイントと、大きく点差を広げる事態となった。
そしてゲームは中間地点になった。
5ゲーム目。
ベラドンナは高笑いが止まらなかった。
(こんなに上手く事が運ぶなんて、笑いが止まらないわ)
しかし、と考える。
(油断は禁物よ。まだゲームは中間地点だもの。今、点差は11ポイント。先攻で友達にメッセージを送る、後攻でダウトを選択しておけば最悪全てのゲームを取られても私7ポイント、相手マイナス2ポイントで勝てるわ。勝ちは決まったようなもの)
そう、勝ちは決まっているのだ。何も焦る必要はない。
(それにこちらには“奥の手”がある。勝つのは必然よ)
ベラドンナは観衆を一度だけチラリとみると、不敵に嗤った。
「あら、ザビトちゃんは点差がありすぎて強気に行けないのかしら。そんなのでマオちゃんを、この店を守れるのかしら?」
「……今集中してるんで話しかけないで貰っていいっすか?」
「あら、それはごめんなさい? あまりにも弱気だったから、もうゲームを諦めたのかと思ったわ」
ベラドンナの言葉に流されずに、ザビトはコールを選択した。
ザビトがどのコールを選んだのか、ベラドンナは“見抜いていた”。いや、“分かっていた“。
ザビトが選択したのは、『ダウトなし』だ。
なぜベラドンナはザビトのコールが分かったのか、それは数分前に遡る。
ザビトがタブレットを操作した後のことだ。観衆の中にいる、一人の女性とベラドンナの視線が少しの間だけ交錯していた。
実は女性は事前に仕込んで置いた、ベラドンナの仲間なのだ。
女性はザビトのタブレットの操作を盗み見ており、何を選択したのか把握していたのだ。それを合図でベラドンナに伝えていたのだ。
つまり、ザビトの選択は全て筒抜けだったということだ。
香水の匂いを漂わせながら、ベラドンナは不敵に微笑む。
(熱くなってダウトを選択するかと思ったけれど、そこまで愚かではないようね。『ダウトなし』を選択か……ならここは怪しまれないように安牌で『友達にメッセージを送る』を選択しましょうか)
ベラドンナはタブレットを操作して『友達にメッセージを送る』を選択した。
「選択が出そろいました」
ゲームマスターが手元のタブレットを確認する。
「ベラドンナ様『友達にメッセージを送る』を選択、ザビト様『ダウトなし』を選択。結果、ザビト様0ポイント、ベラドンナ様プラス1ポイントとなります。合計、ベラドンナ様7ポイント、ザビト様マイナス5ポイントです」
「……」
無言のザビト。店主のおっちゃんとおばちゃんが心配そうにザビトを見つめていた。
マオはと言えば、自分がベットされているにもかかわらず、ずっとタブレットに夢中になっていた。
まるではじめておもちゃを貰った子供のようだ。
しかし、遠慮はしない。
(さあ、喰いましょうか)
ベラドンナは爪でタブレットの画面をリズムよく弾いた。
6ゲーム目。
ベラドンナ後攻、ザビト先攻。
いつも通り、ベラドンナは観客に紛れ込ませた仲間からの合図を待っていると、ザビトが動いた。
「いつも俺が先にタブレット操作しているような気がするんだが、気のせいか? もしかしてアンタ、イカサマしてるんじゃねえの?」
揺さぶりをかけてきたのか。しかしイカサマをしているという証拠はないようだ。
疑惑の段階で仕掛けてくるとは、やはりザビトは面白い。ベラドンナは余計にザビトがほしくなった。
「ふふ、面白いことをいうのね。具体的にどんなイカサマをしているのかしら?」
「さあな。それが分かれば苦労しない。よければ教えてくれねえか?」
「ふふ、そういうのドツボにはまるっていうのよ、坊や?」
ベラドンナは話しつつ、ふむ、と考え込んだ。
(連続で勝ちすぎてしまったかしら。ここは『ダウト』で疑いを晴らしつつ、安牌の手を打っていきましょう)
ザビトにも分かるように、ベラドンナはタップする動作をした。もちろん、画面は見せていないので、相手は何を選んだかは分からない。
「はい、先に選択したわよ。これで疑いが晴れるのでしょう?」
「ああ、何もなければな」
ベラドンナは考え通り、コール『ダウト』を選択した。
結果はザビトが『友達にメッセージを送る』で、ベラドンナがマイナス1ポイント、ザビトがプラス1ポイントとなった。
合計得点はこれでベラドンナ6ポイント、ザビトマイナス4ポイント。リードは依然ベラドンナが守ったままとなった。




