夢・夢・夢
酒場にいた女の冒険者がゲームマスターをしてくれることになった。
机を挟んで、ザビトとベラドンナは対面にいる。手にはタブレットをそれぞれ持っている。
二人を囲むように観客が輪になっており、酒場は異様な雰囲気になっていた。
ルールの抜け漏れがないように、再度ゲームマスターがルール説明を開始した。
「皆様に今からしていただくゲーム、それは『恋人ゲーム』です」
話し終ると同時に、ザビトの持っていたタブレットが光り出した。見ると、画面が勝手に『恋人ゲームのルール説明』と画像を写している。
タブレットの画面に注目しながら話を耳を傾けた。
「恋人ゲームは1対1のゲームです。一試合10ターン、攻守それぞれ5ターンあります。また、今回のゲームは異世界の機器、『タブレット』を使用したゲームになります」
ゲームマスターはタブレットタップすると、ザビトとベラドンナに画面を見せた。
そこには二人のデフォルメされた人間がタブレットを持っていた。
「これは相手が不倫相手とメッセージのやり取りをしているのか、はたまた友達とメッセージのやり取りをしているのか見抜いていただくゲームとなっております」
画面の人間が、『僕たち恋人!』と呟いている。
何とも気の抜けたメッセージだ。ザビトは自分のタブレットをタップした。
「先攻は友達にメッセージを送るか、不倫相手にメッセージを送るか選択することが出来ます」
「それ以外は選べないの?」
ベラドンナの質問に、ゲームマスターは「選べません」と答えた。
「また、後攻は相手が友達とメッセージのやり取りをしているか、不倫相手とメッセージのやり取りをしているか考え、不倫相手だと思ったら『ダウト』友達だと思ったら『ダウトなし』をコールします」
ザビトの視界の端では、マオが熱心にタブレットを触っていた。
皆が心配そうにザビトを見る中で、マオだけ異質である。
まあ、心配されたらされたで困るのだが。
ザビトは欠伸をかみ殺した。
ルール説明は続く。
「自分が先攻側で、友達とメッセージのやり取りをしておりダウトをコールされるとセーフ、自分にプラス1ポイント、相手はマイナス1ポイントとなります」
「なるほどね」
ベラドンナが呟く。
「逆に不倫相手とメッセージのやり取りをしておりダウトをコールされるとアウト、自分はマイナス1ポイント、相手はプラス1ポイントとなります」
コホンとゲームマスターが軽い咳をした。
「また、自分が友達とメッセージのやり取りをしており、相手にダウトなしをコールされるとセーフ、自分はプラス1ポイント、相手は0ポイントとなります。自分が不倫相手とメッセージのやり取りをしており、相手にダウトなしをコールされるセーフ、自分はプラス1ポイント、相手はマイナス1ポイントになります」
そしてここからが大事なところですが、とゲームマスターは続けた。
「不倫相手は最大“3人”までメッセージを送ることが出来ます。その場合は人数分、ポイントが増減するのでお気をつけください」
「つまりどういうことかしら?」
ベラドンナの疑問に、ゲームマスターが答えた。
「つまり、自分が3人の不倫相手とメッセージのやり取りをしており、相手にダウトをコールされるとアウト、自分はマイナス3ポイント、相手はプラス3ポイントとなります。」
「ほう、気を付けないといけないわね」
ベラドンナは髪を靡かせた。
瞬間また甘い匂いが漂い、男たちは目をハートにした。
ザビトは一ミリも動じていなかった。
「自分が3人の不倫相手とメッセージのやり取りをしており、相手にダウトなしとコールされるとセーフ、自分はプラス3ポイント、相手はマイナス3ポイントになります」
これにてルール説明は終わりです。とゲームマスターが最後を締めくくった。
ベラドンナはタブレットで口元を隠すと、ザビトに目を細めた。
一挙手一投足がどこまでも妖艶だが、ザビトには効かない。
「ザビトちゃん、這いつくばる準備は出来たかしら?」
「さあ?」
「それではゲームを開始します」
そうしてゲームの火ぶたが切られた。
◆◆ ◆
1ゲーム目。
コイントスでベラドンナが先攻となった。
ベラドンナは心の中で高笑いが止まらなかった。なぜならば、このゲームはベラドンナがもっとも得意とするゲームだったからだ。
ザビトは罠にわざとかかったようだが、いずれその選択を後悔することになるだろう。
ベラドンナは揺さぶりをかけていくことにした。
「ザビトちゃんはどうしてマオちゃんと一緒にいるかしら、もしかして本当に惚れたの?」
「さあな。マオに聞いてみてくれ」
「え? ザビトが勝手に連れ出──」
「やっぱりなんでもない。俺が惚れただけだ」
「あら、素敵な言い方ね」
ベラドンナはマオを見つめると、笑みを深くした。
──仕掛けるなら、ここね。
ベラドンナは妖艶な笑顔を装ったまま、牙をむいた。手札を切ろうと、頭をフル回転させる。
「私が勝ったら、マオちゃんも貰ってもいいかしら?」
「マオを?」
──揺れろ。揺れろ。
勝ちの報酬の上乗せは、それだけで脳のリソースを圧迫する。
ベラドンナは追撃をかける。
「マオちゃんはアタシには劣るけれど、綺麗な容姿をしているわ。磨けばもっと良くなる。アタシの手元で育てたいの」
ベラドンナは話しながらタブレットを操作すると、迷いなく『友達にメッセージを送る』をタップした。
話に耳を傾けていたザビトは、その動作を見逃したようだった。
「マオのことそんなに気に入ったんすか?」
「ふふ、どうかしらね。ほら、コールを選択しないと時間切れになっちゃうわよ?」
本当は時間切れなんてない、ブラフだ(あまりにも遅延行為だと見なされた場合は除く)。
しかし、ベラドンナは追撃の手を緩めない。
「ほら、早く早く」
「待ってくれ、今考えてる」
「ふふ。ザビトちゃん、良いこと教えてあげましょうか」
ベラドンナはニッコリ笑うと、人差し指を自分の唇に当てた。
余りにも魅惑的な動作に、観衆の何人かが鼻血を出して倒れていた。
──アタシに靡かない男はいないのよ。“あの方”以外わね。
ベラドンナは唇をゆっくりと舐めた。
「アタシは“殿方と夜伽したわ”」
「夜伽……」
つまり“不倫相手にメッセージを送った”という“ブラフ”だ。本当は友達にメッセージを送っている。
ザビトは考え込む素振りを見せると、タブレットを操作し、口を開いた。
「じゃあ、コール『ダウト』」
ゲームマスターが手元のタブレットを見て、二人の結果を確認する。
そしてゲーム結果を告げた。
「ただ今のゲーム、ベラドンナ様『友達にメッセージを送る』を選択、ザビト様『ダウト』を選択。結果、ベラドンナ様プラス1ポイント、ザビト様マイナス1ポイントとなります」
ベラドンナは口元をタブレットで隠した。
こんなに上手くハマってくれるとは、嬉しくて仕方がない。このゲームは、いや試合は頂いたも同然だ。
「悪いわね、ポイントは頂くわ」
ザビトはタブレットを見ると、興味なさげに呟いた。
どこまでいっても読めない男だ。だからこそ、子分にしがいがあるのだが。
「……なるほど、そう来るなら次のゲーム、俺は本当に『夜伽』をしようかな」
「ほう?」
2ゲーム目が始まる。




