狡猾ゆえに愉悦なり
青年たちの身ぐるみを剥いだ後、きつくロープで縛りつけ、ザビトは両手をパンパンと払った。
部屋でミノムシのように転がっている青年たちを、マオがつんつんとつついている。なんとも緊張感のない現場だ。
「よし、これで欲しいものは手に揃ったな」
ザビトは“警備兵の羽織”を被ると、マオにも同じく被せた。
これでミッションコンプリートだ。
そのままやり残したことはないと、すぐ出て行こうとするザビト達に黒いグローブの青年が叫んだ。
「おい、言う通りにしたんだから、解毒していけ!!」
その叫びに、ザビトは「あぁ、そうだったな」と事も無げにいうと、悪魔の笑みを見せた。
「やだね」
「ッ! 何だと!?」
「だってピアスの奴、毒なんて本当は食らってないもん」
ザビトの言葉に青年たちは一瞬ポカンとした顔をした後、騙されたと気づいて怒りに叫んだ。
「ふざけんな、下衆野郎!」
「戻ってこい! 俺と剣で勝負しろ!」
「やだねー! じゃ、ありがたく羽織はいただくぜ。あばよ!」
そのままザビトは負傷した警備兵を背負っている警備兵の真似をして、街を悠々自適に闊歩した。
途中「何があったんだ?」と声を掛けられたりしたが、誘拐犯の反撃に遭った、あっちに逃げている、と伝えれば、警備兵たちは難なく躱すことが出来た。
そうして街の外へ続く門まで、簡単にたどり着いた。
門の前まで来たザビトは、マオを背負ったまま門をくぐろうとした。
ここを乗り切れば、街の外に出られる。そうなれば多少、逃げやすくはなるだろう。
しかし、槍を持った門兵に呼び止められてしまった。
「おい、こんな時間にどうした? 背中の奴は怪我でもしたのか?」
門兵の問いに、ザビトはフードで顔を隠しながらあっさりと答えた。
「こいつ、酒に酔っちまって吐きそうなんですわ。ちょっと街の外の茂みで吐かせるんで、いいっすか?」
「でもなあ」
「あ、もう吐くらしいっす」
「あああ、ここで吐くな! さっさと済ませて来いよ!」
そのまま通され、ザビトは頭を下げて門をくぐった。
まるで口から勝手に嘘が出てきているようである。ザビトの背中で、マオは白い目をしていた。
門を出た瞬間、ザビトはまずは一安心と大きく息を吐いた。
そして門兵から見えない様に、背の高さまである茂みへと入っていった。
しばらく茂みを歩いてから、ザビトはようやくマオを下した。
「……マオ、もう歩けるか?」
マオは青白い顔をしながらも、頷いた。
やっと一息つける状況になった。空は白んできており、鳥のさえずりがどこからともなく聞こえ始めて来ていた。
(もう朝になっていたのか)
マオと出会ったのは、夜の12時くらいだった。逃げ回っている内に、相当時間が経っていたようだ。気絶した時間も含めると、もっとかもしれない。
「これからどうするんですか……?」
力ないマオの質問。無理もない。ザビトは今や全世界指名手配だ。何処に行っても追われる身である。
そしてマオは全世界から救出を望まれている、攫われた女の子である。
ザビトは服を払いながら、空中を見上げた。
「そうだなー、とりあえず」
「とりあえず?」
「勇者様に会いに行くか」
マオはその場から全力で逃げだそうとした。が、いつのまにか腰に紐を付けられており、ずるずるとザビトに引っ張られていくのであった。




