シャルル
昼間とは違い、酒を飲んだ大人たちが闊歩している夜のマーケットを、ザビトはあてもなく進んでいた。
そのうちマオが見つけてくれるだろうと思っていたが、中々合流出来ない。
もしかしたら、もう宿に帰っているのかもしれない。
ザビトは提灯がぶらさげられた店の通りを歩いていき、たまに魔道具などを手に取って使えるか頭を回転させていた。
一個一個店を回っていくと、ふと一つ、気になるものがあった。
「……」
ザビトが見つめるのは、青い水晶が付いた髪飾りだ。
水晶は花の形に削られており、火の光に反射して淡い水色に光り輝いていた。
そう言えばマオは髪飾りを持っていないと言っていた。水色は彼女のブロンドの髪に映えるだろう。
買うべきか、買わないべきか。
ザビトがあまりにも熱心に見ていたからか、店主のおばちゃんがにこやかに話しかけてきた。
「お兄さん、その髪飾りが気に入ったのかい?」
「ちょっと気になって。綺麗な水晶っすね」
「そうだろう? これは『シャルル』という花をモチーフに削られていてね、人気で中々入荷しないものなんだよ」
「そうっすか」
「お兄さん、誰かにプレゼントするのかい?」
店主の気さくな言葉に、ザビトは頭を悩ませた。
金額としては買える値段だが、マオに何と言ってプレゼントすればいいのだろうか?
いつもありがとう? 違うな。
この髪飾りを君に? クサすぎる。
なんかあげたくなった? なんかって何だ?
あげれば確実にマオは飛び跳ねて喜ぶだろうが、あげる理由が見つからない。
結局、「髪がご飯食べるときに邪魔そうだったから」という安い嘘しか思いつかなかった。
ザビトが買うのを恥ずかしがっていると思ったのか、店主は親指を立てるとザビトの背中を押した。
「それだけ悩むってことは、きっと大事な子だろうね。ネックレスやイヤリングなんかもあるけど、他のにするかい?」
「いや、相手はブロンドの長髪だから、この髪飾りがいいかと思って」
「いいねえ、いいねえ。お兄さんが選んだものなら、その子も喜ぶんじゃないかい?」
「そうだと嬉しいっすね」
ザビトは迷いつつ、髪飾りを手に取った。
金属で出来たそれは、やけに手にしっくりきた。まるで買えと言わんばかりのようだ。
プレゼントを誰かに買うなど、何十年ぶりだろうか。
まさか久々のプレゼントの相手が、魔王様になるとは思わなかったが。
髪飾りを持って、花が咲いたような笑みを向けるマオを思い浮かべて、ザビトは決心して店主に髪飾りを渡した。
「これください。ラッピングもお願いできるっすか?」
「もちろんだよ! とびっきり良い包装にしてあげるね」
店主は鼻歌を歌いながら黄色の紙でラッピングをすると、ピンクのリボンを付けた。
なんとも可愛らしいラッピングである。ザビトがお金を渡し、包まれた髪飾りを受け取ると、店主は気のいい笑顔で言った。
「お兄さん、いい髪飾りを選んだねえ。その髪留めのモチーフになっている『シャルル』の花言葉を知っているかい?」
「知らないっすね。何て言うんすか?」
「『私の心臓は貴方のもの』って意味だよ」
つまり、告白用のプレゼントだね。そう言うと、店主は頑張りなよ! とザビトにエールを送った。
(……告白だと?)
いまさら返品することも出来ないザビトは、困った顔で店主と包まれた髪飾りを交互に見たのだった。
ザビトが宿に戻ると、出入り口の前でマオが立っていた。
マオの前を通る道行く人たちが、ちらちらとマオを見ている。変装していても、人間離れした容姿は目を引くらしい。
ザビトはマオに駆け寄った。すぐにマオはザビトに気が付き、満開の笑顔を咲かせた。
「ザビト、遅いよ!」
「悪い、どっかの誰かさんが見つからねえから、探し回ってた」
「うぐ! 痛いところつくね!? っていうかザビト、私の事探してくれたんだ?」
ニヤニヤとしながらマオが揶揄って来ようとするので、ザビトは事も無げにさらりと言った。
「ああ、マオの事を探してた」
「……あ、ありがとう……?」
主導権を握ろうなど、百年早い。もしかしたらマオは百年以上生きているかもしれないが。
ザビトがちらりとマオを見ると、ふと気が付くことがあった。
「お前、それどうしたんだ?」
「え? これ?」
ザビトの目線の先、マオの前髪には『髪飾り』が付けられていた。
白色の花をモチーフにした金製の髪飾りで、ザビトの買ったものとよく似ていた。
「仲良くなった酒場の子供がね、プレゼントしてくれたの。可愛いでしょ?」
「……ああ、良かったな」
ザビトはポケットに手を突っ込んで、包装された髪飾りを触った。
まさか同じタイミングで髪飾りを貰うとは。完全に渡すタイミングを逃してしまった。
ザビトがプレゼントをどうしようか、頭をフル回転させているとマオがザビトの腕を引っ張った。
「ここの宿、シャワーもあるんでしょ? 早く入ろう?」
「そうだな、砂だらけで気持ち悪いし入るか」
「やったー! 久々のシャワーだー!」
実はシャワーのある宿を探して、今日泊るところをザビトは決めたのだが、マオは知らない。
ザビトは再度プレゼントをポケットの中で触ると、重いため息を吐いて、宿に入っていくマオについて行った。




