↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界詐欺師 ~魔法が使えない俺は、嘘だけで世界を騙す~  作者: エース・レッド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/47

詐欺師の誕生

 お姉さんの体調が朝から良く、二人で外に出かけようという話になった。


 治癒魔法も、その日は使わない約束だった。


 久々のお姉さんとの外出に、ザビトは気恥ずかしい気がしながらも、どこに連れて行こうかと意気揚々と考えていた。


 お姉さんを家に残し、行く先のリサーチをした。


 野菜に果物。洋服に雑貨類。その中でひと際ザビトの目を引くものがあった。


 髪飾りだ。


 幸せを運ぶと言う、紫の花を象ったそれは、お姉さんの髪に映えそうだった。


 お姉さんの髪の毛はまた伸ばし始めたところだったので短いが、髪留めとしても使えそうだった。


 何度か逡巡した後、ザビトは靴磨きでコツコツと貯めたお金で、髪飾りを買った。


 喜んでくれるだろうか。それとも無駄遣いをして、と苦笑いされるだろうか。


 どうせなら、また昔みたいに花の咲いたような笑顔を見せて欲しかった。


 ザビトは髪飾りを手で持ち、お姉さんの元へ向かった。


 今日は沢山遊ぼう。沢山喋ろう。


 そして言うんだ。この街から出ようと。


 もう、街を出て暮らす算段はついていた。後はお姉さんの許可があるのみだ。


 銀世界に包まれた貧民街を、走って進んで行く。


 吐く息が白く、肺がきりきりと痛んだが、それよりも早くお姉さんに会いたかった。


 進む。進む。後は角を曲がれば、自宅だ。


 ザビトは年相応の笑顔で、無邪気にターンをかました。


 そして──


「……え?」


 目の前に広がっている惨劇に、ザビトは言葉を失った。


 ザビトとお姉さんが住むボロ屋の玄関の前で、お姉さんが誰かに腹を腕で貫かれていたのだ。


 まるで映画のような、現実味のない風景。


 しかし血だまりが、雪で白くなった地面を赤く染めていき、否が応でも現実であることを知らしめていた。


 お姉さんの腹を腕で貫いている『誰か』は、白いコートを着ていた。顔はフードで見えない。


 腕が引き抜かれる。


 バサッという音とともに、お姉さんがその場で倒れた。それと同時に赤いしみが、じわりと海のように広がっていく。


 お姉さんを腕で貫いた『誰か』は、お姉さんを見下ろすと言った。「君が聖女として持て囃されたら困るんだよ」と。


 声に魔法の意識阻害が掛かっているのか、男の声なのか、女の声なのかザビトには分からなかった。


 ただ、目の前の光景に呆然として動けなかった。


 ──ポトリ。


 『誰か』の腕から、血が滴り落ちる。それがやけに鮮明に見えた。


 ──ポトリ。


 また血が、赤が、落ちていった。


「……あ」


 やっと絞り出した声は、蚊の鳴くように小さな声だった。しかし『誰か』には聞こえたらしい。


 ザビトの方を振り返ると、『誰か』はゆっくりと口元に人差し指を立て、しーっとした。


 殺害現場を見られたのだ。普通なら、ザビトに襲い掛かってもおかしくはなかった。


 しかしザビトのことは取るに足らないとでも言わんばかりに、『誰か』はコートを翻すと、何処かへ歩き去って行った。


 ……それから何時間経っただろうか。


 我に返ったザビトは、一歩また一歩とお姉さんに近づいた。


 足が地に引っ付いたように、重たかった。何処を見ても、赤が広がっていた。


 震える手で、ザビトはお姉さんに手を伸ばす。


 その拍子に、買ったばかりの髪飾りがどろりとした血の海に落ち、ザビトをあざ笑うように赤く濡れた。


 消えていく街の喧騒。音が無い世界に、ザビトは一人ポツンといた。


 指先に触れたお姉さんの肌は、氷のように冷たい。


 何度確かめても、冷たいままだ。鉄を触っているような感触だけが、ザビトに伝わる。


 ザビトは『誰か』が歩き去る瞬間に見えた、紅眼を思い出していた。


 脳裏に焼き付いて離れないそれは、ザビトから笑顔を、幼さを、奪った。


 そして残ったのは、深い憎しみだけだった。


 ──ユルサナイ。


 そう呪文のように呟いたザビトは、冷たくなったお姉さんを抱き、泣きながら紅眼を探しだす手段を計算し始めた。


 何度も何度も、計算をした。


 そうしてザビトは『詐欺師』になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。