大切なもの
砂の混じった暴風が吹く公道で、魔族の子供達とは別れることになった。
ここはシャングリットとイグニースの国境付近だ。
周りを見ると岩山や赤土がいたるところに散見され、針の付いた緑色の葉っぱなどが生えている。
砂と岩しかない場所で、ひっそりと咲くピンク色の小さな花などもあり、水分がどこから来ているのかザビトは不思議に思った。もしかしたら花の根に貯水機能があるのかもしれない。
(何かの道具に役立てるか?)
そんなことを考えながら、ザビトは子供たちと別れの挨拶をしているマオを、欠伸をしながら見た。
「いい、危ないと思ったらすぐに高位魔法を使うんだよ?」
『はーい!』
「合言葉は?」
『まおーさいきょー!』
「よし、行ってらっしゃい」
何の合言葉なのか不明だが、子供たちは真剣にマオに返事をしていた。
程なくして、魔族の子の一人がザビトの元へとやって来た。手に何か持っている。
「お兄さん、これあげる」
手渡されたのは、異世界の『桜』という品種の花が彫られた髪飾りだった。
ザビトはそれを受けとりながら、苦笑した。
自分の髪は短い。飾りつけをするには、ちと足りない。
「ありがたいが、俺は髪飾りつけないぞ?」
そう答えたザビトに、魔族の子供はニコッと笑った。
「おばあちゃんがね、『貴方の大切だと思う人にこの髪飾りをあげなさい』って言ってたの。だからあげる」
「おいおい、あげる相手はちゃんと見た方がいいぞ? 俺みたいな悪い奴に渡しちゃ、せっかくの宝物が売り払われちまうぞ?」
「それでもいいよ、お兄さんの力になるなら」
あまりにも純粋すぎる返答に、ザビトはいつもの軽口を叩けなくなってしまった。
こういう綺麗な人種に会ってしまうと、なんと答えればいいのか分からない。
正直に言って、やりづらい。
マオや汚い大人相手なら、いくらでも煽り、転がし、計算で動くのだが、純粋な相手にはそれが効かない。
ストリートの手段が効かない相手というのは、ザビトにとって天敵であった。
まさか魔族の子供が天敵になるとは思わなかったが。
ザビトが困っていると察したのか、マオがニヤニヤしながら話しかけてきた。
「その子ね、ザビトが髪飾り受け取ってくれるかなってめちゃくちゃ心配してたんだよ。受け取ってもらえてよかったねー?」
「うん!」
「……そうかよ」
居心地の悪くなったザビトは髪飾りを腰ポーチの中にハンカチに包んでしまうと、先へと歩き出した。
きっと今、耳が赤くなってしまっているかもしれない。純粋なものに触れて、浄化されてしまいそうだ。
ぶっきらぼうなザビトを見て、マオは聖母のような笑顔をこぼした。
「もう、ほんと素直じゃないんだから」
そのまま子供達とは別方向に別れ、新たな国へと旅立っていくのだった。
深夜。砂丘にあるレンガを積まれて出来た空き家に、ザビトとマオは泊まっていた。
ガラスの張られていない窓に腰かけながら、ザビトは魔族の子供からもらった髪飾りを月明かりに照らした。
木で出来たそれは、一個一個職人が手作りしているのか、精巧な作りをしていた。
「……大切な人、ねえ~……」
そんなこと初めて言われた。ハッタリをかまして生きてきたので、罵詈雑言を受けることはあっても、好意的な言葉をかけられることはなかった。
いつも『あいつには気を付けろ』『あいつは悪魔だ』と言われてきた。
別に慣れ切っているので何とも思わないが、そういえば昔に一人だけ、違う感情を向けてきた人がいたかもしれない。
「……アリーシャ姉さん……」
ストリートでザビトを育ててくれた、お姉さん。
ザビトは髪飾りを胸に当てると、目を瞑った。
心臓の音はやはり聞こえない。けれど今でもお姉さんの眩いブロンドの髪は、はっきりと思い出された。
懐かしむように、ザビトは昔の記憶に潜った──




