残った灰はどこへいく?
ザビトとマオ、魔族の子供たちは、裏路地にいた人たちの助けもありシャルテナ・アグリットの表から堂々と脱出した。
ザビトの背後では、カジノが火の海になっていた。たまに爆発音が鳴り、魔族の子供たちが怖がって耳を抑えていた。
余程裏路地にいた人たちは鬱憤がたまっていたらしい。全ての怒りをぶつけるように、カジノの中で火炎瓶を割ったり、テーブルを倒したりと暴れ回っていた。
(まあ、シャルテナ・アグリットもイカサマしてたみたいだし、これでおあいこだろ)
そんなことを思いつつ、ザビトは街を出ようとした。
が、シャルテナ・アグリットを見つめてただじっと佇む人物がいた。
ケロリだ。
ケロリはカジノの外で、ただただ火に崩れ行くカジノを見つめていた。
消火の魔法を使う素振りもない。ギャンブルをしていた時のようなおちゃらけた面影もない。
ザビトはガシガシと頭を掻くと、マオたちに先に国を出るように言った。
このまま放っておくのは、しのびない。
ケロリに近づくと、彼女はザビトに気が付いたのか、容姿らしからぬ大人びた声で話し始めた。
「悪いことしてた罰が当たったケロね。魔族の子供たちをオークションにかけていたことは、知っていたケロ」
「……」
「でも無視していたケロ。それがカジノの利益になると分かっていたし、何も断る理由なんてなかったケロ。けど……」
ケロリは急に怯え始めた。その目はここではないどこかを、誰かを見ていた。
「本当はただ純粋に、ギャンブルがしたかったケロ」
「ケロリ」
「失敗した失敗した。これは取り返しのつかない失敗ケロ。 “主様”にこれがバレたら、私は、私はきっと……あああああああ!」
ケロリはそのまま頭を抱え、蹲った。
ザビトには彼女が何に怯えているのか分からなかった。しかし推測は出来る。
この国一番のカジノを運営するのはケロリだ。きっと国の裏側まで通じているのかもしれない。
とすれば、失敗した者に待っているのは──死だ。
ザビトはケロリに手を伸ばそうとした。助ける義理はない。しかし放ってもおけない。
このまま見捨てるのは、居心地が悪いだけだ。ただそれだけだ。
ザビトの伸ばされた手を見て、ケロリは泣き叫ぶ声を止め、
そして──
「なんて、私が言うと思ったケロ? 私がただでくたばるわけないケロ」
そこには一ミリも泣いていないケロリがいた。
ザビトはやり場のなくなった手で、ケロリの頭を軽くはたいた。
ちょっとだけ同情してしまった自分が憎かった。誰かに追われているのならば、一緒に来ないか? とまで喉から出かかっていた。危なかった。
「あいた! 何するケロ!」
抗議するケロリに、ザビトは容赦なく言葉を浴びせた。
「金もっと寄越せよ」
「今カジノが燃えてるの見えてないケロか!? 鬼畜ケロか!?」
「保険金たんまりもらえるだろ。むしろプラスじゃね?」
「……本当に君は、あくどいにもほどがあるケロよ」
ケロリはため息を吐くと、黒色のカードをザビトに投げ渡した。
金色の番号が彫られ、右上に水色の魔法石が嵌められたそれは、『通信機』だった。
しかもただの通信機ではない。工業の国で特注で作られたものだ。
こんな大切なものを、なぜ渡してくれたのか。ザビトはケロリを不思議そうに見
た。
「何か困ったことが合ったら、それを起動すると良いケロよ。私に繋がるケロ。ちなみに副機能で全世界の電波塔を一度だけジャック出来る優れものケロよ」
「……なんでここまでしてくれるんだ?」
「んー、そうケロね~」
火を噴きあげるカジノを見ながら、ケロリは爽やかな顔をする。
普通なら大切にしているカジノを燃やされて、怒り散らすところだろう。しかしケロリは、なぜか感謝していた。
「“あの人”に繋がれていた鎖を、断ち切ってくれたから、ケロね」
「あの人?」
「紅眼の青年の話ケロ」
瞬間、沸騰するような憎悪がザビトの中で沸き上がった。
──紅眼。
同時にカジノで爆発が起こった。炎の熱風がザビトを包んだが、今のザビトの内心はそれ以上に昏く、燃えていた。
ザビトは力のまま、ケロリの肩を掴んだ。
ケロリの顔が痛みに歪んだが、ザビトはそれどころではなかった。
「紅眼の青年? そいつに会ったのか? 今そいつはどこにいる?」
「ケ、ケロ。お兄さんどうしたケロ? 紅眼の青年の知り合いケロ?」
「答えろ!」
余裕のないザビトの怒号に、ケロリはケラケラと笑うと、ザビトの手を振り払った。
その力は少女にしてはやけに強く、無詠唱の肉体強化の魔法を使ったようだった。
ケロリはその場でクルクル回ると、話始めた。
「私も知っていることは少ないケロよ。その紅眼の青年がオークションに出す魔族の子供を連れて来てくれていること、あと──」
口元に人差し指を当て、ニヤリと笑う。
その光景が、やけにザビトの“昔の姉さんとの記憶”を思い出させた。
さんさんと雪の降る中。一人の人間が立っていて、その足元でお姉さんは血だまりの中に倒れていて、俺は何も出来なくて──
意識が遠のきそうになるザビトの耳に、ケロリの楽しそうな声が届いた。
「隣の国のイグニースによく行っているってことくらいしか分からないケロ」
ザビトはそれだけ聞くと、ふらふらとした足どりで、ケロリから離れてマオたちが待つ場所へと向かった。
「お兄さーん、また勝負しようケロ~!」
背後から聞こえてきた声に、ザビトは片手を上げて答えた。




