ショウタイム
「ザビト……」
ザビトは返事をするようにマオの肩を軽く叩くと、声を張り上げた。
「一人一人競売するのもまどろっこしいからよお、全員まとめて競売にかけるのはどうだ?」
ザビトの提案に、会場は席を切ったように喧噪に変わる。
やれそんなこと出来るかだの、やれ一気に買えるなら儲けものだの、それぞれの思惑が交錯している。
(ザビトは一体何をするつもりなんだろ?)
銃をギュッと抱きしめ、ザビトを見上げるマオ。
ザビトは騒がしくなった会場の中で、不敵に微笑んだ。
突然の乱入者に、司会者は馬鹿にしたように鼻を鳴らすとザビトの提案を蹴った。
「すみませんがまとめての競売は不可とさせていただきます。手順通り競り合っていただけると──」
「あれあれ~? まとめての競売出来ないんだ~? それとも、まとめて出来ない理由でもあるのかな、司会者さん?」
「そういうわけではございませんが、ルールなので」
「ルールは胴元の都合の良いように作られているもんよ。現にこのカジノ、イカサマばっかりみたいだし?」
司会者の眉が寄る。
それを見るザビトの表情は、まるで悪魔のようだった。
会場の空気は一層騒がしいものとなり、司会者が慌てて声を掛けるがすでに遅い。
苦し紛れにザビトの元にボディーガード達が現れ、ザビトの肩を掴もうとする。ザビトはそれを難なく避けると、追い打ちをかけた。
「そりゃあいっぺんに競売にかけられたら困るよなあ、せっかくの“偽物”を用意したのに、安上がりで買いたたかれちまう」
「偽物って、言いがかりはよしてください」
「言いがかりねえ、じゃあ根拠を示そうか?」
話を聞く気はないと、司会者の合図でボディーガードたちは魔導銃を取り出した。会場は途端に安っぽい悲鳴が上がるが、皆逃げるそぶりはない。裏カジノに通うだけあって、“静観”と“演技”はお手の物のようだ。
やけに通る声でザビトは告げた。
「会場のみんなー! 騙されるな! あの魔族の子供たちは“パチモン”だ。目の色が違うのは、異世界で言う『カラコン』を使ってるからだ。それに角は収納式の作り物だ! 全部偽物だ」
「んな!?」
「俺たちはカモにされてたんだよ! 許せねえよな、みんな!」
「勝手なことを言うな! あいつを取り押さえろ!」
司会者の声にボディーガードたちが動く。
会場の人たちは困惑したようにその様子を見守っていた。
時を同じく、マオは内心混乱していた。ザビトは子供たちが魔族であることを知っているはずだ。なのになぜ偽物だと言ったのか? 本当に助ける気が無いのだろうか?
(いや、もしかしたら、この状況こそがザビトが意図していたもの……?)
だとすれば、行きつく先はきっと……。
そこまで考えて、マオは鳥肌が立った。ザビトという人間に、どうしようもなく光を感じた。
ザビトはその場で動かず、ボディーガードと司会者に向けて一言言った。
「ここで俺を取り押さえるってことは、全部自白してるようなもんだけどOK?」
「これで自白になるわけがないだろ! デタラメだ!」
「なら、ちゃんと魔族の子だと証明しな。一人で良いから、魔法封じの魔法石を外しな。そしたら信じてやるよ」
「クソガキがッ!」
会場中の視線が司会者に突き刺さる。皆魔族の子だとは信じつつも、どこかで本当か? と疑っているような雰囲気が流れ始めていた。
白のシーツに黒いしみが広がっていくように、一度浮かんだ疑念は解けない。
これこそがザビトの思惑だったのだろう。
絡めとるように、追い込むように、一手一手確実に刺していくのだ。
司会者はザビトの言に従うしかない。荒々しくそばにあった檻に近づくと、鍵を開け、魔石を外した。
途端に会場が数度寒くなったような気配がした。魔族特有の魔力が流れ出したのだ。
幼いとはいえ魔族の一員であることに変わりはない。その魔力量ははるかに人間をしのいでいる。
人間が正気でそばにいられるような代物ではない。
司会者は慌てて魔石を嵌め直した。
「こ、これでいいだろう? ちゃんとこいつらは魔族だと証明したぞ! 会場の皆さまご安心ください! すぐにあの狼藉を働く男は取り押さえますので!」
ボディーガードたちがザビトに近づく。するとザビトはニヤリと心底嬉しそうに“嗤った”。
「はいはいありがとね~自分達から証拠出してくれて」
「は?」
ザビトは器用に椅子の背もたれに立つと、大仰に礼をした。
そして──
「国際警察だ。魔族取締法違反の疑いで、貴様らを逮捕する」
警察手帳を開示した。時を同じくして、トイレの方から発砲音と警報が鳴り始めた。
観客たちは悲鳴を上げ、我先にと出口へと駆け出していく。
私服警官が何十名も入口から入ってきて、「警察だ、大人しくしろ!」「全員地に伏しなさい!」と叫んでいる。
会場は大パニックだ。皆警察をすり抜け、出口へ逃げていく。
その流れに逆らうように、ザビトはステージに上がった。
魔族の子供たちの瞳に、希望の灯がともる。
檻にザビトが手をかけようとした。刹那、ザビトの頭の後ろにカチャリという音が響いた。
背後にいたのは司会者だった。怒髪天の勢いで、ザビトを睨みつけている。
「舐めた真似してくれやがって。捕まるならお前も道ずれだ!」
トリガーに指を掛けようとする司会者。しかしそれは不発で終わった。
「道ずれはザビトだけで十分だよ」
魔導銃を司会者の頭に当て、マオがそう呟いたからだ。
司会者は「クソ!」と叫ぶと、魔導銃を床に放り出し。両手を上げた。
結局、司会者は身体をマオたちに縛り付けられ、ボディーガード達は逃げていなくなっていた。
魔族の子供たちの檻を開けながら、マオは驚いた様子でザビトを見た。
「まさかザビトが国際警察だったなんて知らなかったよ。ずっと潜入捜査してたんだね」
その言葉にザビトはピッキングで檻のカギを開けつつ、答えた。
「ああ、それはデタラメだ。国際警察でもなんでもねえ」
「え?」
「トイレから聞こえる発砲音も警報も、ただの録音魔具だ。行っても誰もいやしねえよ」
「え? あの警察の仲間の人たちは?」
「皆路地裏にいたカジノ敗退者だよ。カジノぶっつぶそうぜって言ったら、快く警察役をやってくれたぜ」
マオは唖然としてザビトを見た。トイレに行っていた数刻の間に、そこまで用意周到に準備を終わらすとは、ザビトには何手先が見えているのだろうか。
「あぁ、見事に皆ハマってくれて助かったぜ。嬉しくって涙がでらあ」
悪魔のような笑いを零すザビトに、助けた魔族の子供たちと一緒になってマオは怯えたのだった。
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