ゲームスタート
「今からやるのは『毒入りスープ』ってゲームだケロ」
カエルのパーカーを被った少女は、自分の事をケロリだと名乗った。
ケロリは屋台のカウンターにツボと、目隠しの衝立2つを置くと、次に囲碁のような石(黒色、白色、緑色の三色)を広げた。
「この石はそれぞれ黒色が毒、白色がスープ、緑色が薬を表しているケロ」
ケロリが石を持ちながら、それぞれの意味を説明する。
ザビトは同じように石を持って、手毬のようにして遊んだ。
もうすでにゲームは始まっていると思った方がいい。ザビトは遊んでいる風を装いながら、目は鋭く情報を集めていた。
ちなみにマオはザビトの後ろで立ち、観客たちと一緒になってゲームを見守っている。ゲームはザビトに全面的に任せるようだ。
「ゲームは先攻と後攻に分かれて行うケロ。自分のターンでこの石のどれかをツボに入れるか、『飲む』を選択することが出来るケロ。ゲームの最初は、石を入れるのは絶対だケロ。1ターン目の後攻から『飲む』がコール出来るケロ」
ケロリは石をザビトと同じように手毬のようにして遊ぶと、説明を続けた。
「『飲む』をコールした時点でその回のゲームは終了、ツボの中身を出して、石がそれぞれ何個入っているか確認するケロ」
「ほう、石の数を確認するのは俺らか?」
「いや、ディーラーが公平に確認してくれるケロ。薬の石が毒の石より多ければ自分、コールした側の勝ち。毒の石が薬の石より多ければ相手の勝ちだケロ。スープの石はなにも意味のないただの石だケロ」
つまりスープの石をどう使うかが大事ということか、とザビトは頭を即座に回転させた。
マオはザビトの後ろで首を傾げていた。どうやら説明が全て右から左へ流れていっているようだ。
ケロリが説明を続ける。
「『飲む』のコールは最初以外いつでも出来るケロ。また、毒の石は一ゲーム“3回までしか”入れることが出来ないケロ」
3回とは少ない。入れるタイミングが難しくなりそうだ。
無言で考え込むザビトに気を良くしたのか、ケロリは笑顔で続ける。
「ゲームは一ゲーム1ポイントで、先に3ポイント取った方の勝ちだケロ」
「わかった」
「ちなみにお兄さん、掛け金は持っているケロ?」
「あぁ、それなら──」
ザビトは後ろにいるマオを指さした。
「俺が負けたら後ろにいる女の子を好きにしていいぜ?」
「え!? ザビト!?」
「あははは! 面白い賭けケロね。でもちょっと10憶分には足りないかもケロ。そうケロねー……」
ケロリは考え込む素振りを見せた後、指を二本立て、にんまりと笑った。
「私が2ポイント、お兄さんが0ポイントスタートなら、その条件乗っても良いケロよ?」
「いいぞ」
「いや、良くないよ!?」
騒いでいるマオを横目に、他に何か分からないことはないケロ? とケロリはザビトに聞いた。ザビトは首を振って準備OKの姿勢を見せた。
直後にゲームマスターとして、白い服を着たディーラーがやって来た。カジノ側の人間ではあるが、公平に審査してくれるらしい。そこはカジノの名誉と信用もかかっているから、信じていいだろう。
「それじゃ始めようか」
「うんケロ」
「話を聞けえええ!」
マオの叫び声とともに、ゲームが始まった。
◆◆ ◆
1ゲーム目。ザビト後攻。
ケロリは薬の石をツボに入れ、ザビトにツボを渡した。
ザビトが宙を見て考え込んでいるのを、ケロリは笑顔を浮かべつつ、見ていた。
だが、内心は思いっきりほくそ笑んでいた。
(馬鹿ケロ、この子はさっきカジノに来たばかりってボディーガードから合図があったケロ。何も知らずにこのゲームに参加するとは、カモがネギしょって調理してくださいって言っているようなものケロ。ありがたく勝利は頂くケロ)
このゲームは“絶対にケロリが勝てるようになっているのだ”。それを知らずに飛び込んできた二人は、本当に良いカモであった。
(勝ったらどうしようケロな。まずはあのマオと呼ばれている子をディーラーに育て上げるケロかな。それか、マオちゃんを餌に再度お兄さんと勝負してもいいケロな。どっちも楽しみケロな~)
ウキウキで未来構想を考えていたケロリの耳に、ザビトの冷静な声が届く。
「コール、『飲む』」
「……んなッ!?」
ディーラーがツボをひっくり返した。結果は薬の石だけだった。
「ザビト様、1ポイント獲得です。合計ケロリ様2ポイント、ザビト様1ポイントです」
ディーラーが宣言する。
動揺したケロリだが、すぐに平静を取り戻す。
(危ない危ない、こういうこともあるケロ。今のはまぐれケロ)
目の前でザビトは次のゲームの準備をしている。その顔は笑顔だ。
やけに胡散臭く見えるのは、きっとこのザビトという青年は『裏の世界』を知るものだからだ。同族の匂いがするので、あながちこの直感は間違っていないと思う。
(私に『初めの方でもコールするよ』ということを印象付けるために、わざとリスクある行動を取ってきたんだケロ。とんだ化け物ケロ)
肝っ玉で言えば、このシャルテナ・アグリットで働くディーラーたちをも凌駕している。
ギャンブラーでもなさそうなのに、どこでその力を身につけたのだろうか。
(ギャンブラーとしてぜひ育てたいところケロね)
ケロリは誰にもバレない様に息を吐くを、思考を巡らした。
(ここで私が冷静さを失ったらいけないケロ。何たってこのゲームは私が勝てるように出来ているのだからケロ)
ケロリは笑顔のザビトを見て、身震いした。
(マオちゃんの権利が掛かっているゲームをしているはずなのに、一切の緊張が無いケロ。むしろ楽しんでいるように見えるケロ。思った以上に狂人か、実力者か。どちらにしろ敵にはしたくない相手だケロ。ホントギャンブラー適性ありすぎるケロ)
ゲームは2ゲームへと進んだ。




