ロイヤルストレートフラッシュ
「……金がねぇ」
逃亡生活で一番困ること。それは追っ手もそうだが、一番は金だ。
街を転々とし、変装用の魔道具を買い続ける為には資金が必要になる。しかしザビトの今まで稼いだお金は、底を尽きようとしていた。
元々何でも屋は儲かる職業ではない。姉の敵の情報を集めるための、フェイクだ。
しかも今回の逃亡でお金をたくさん使ったため、底が尽きようとしていた。
森の中で地べたに座りながら、ザビトはバッグから出して、風呂敷の上に並べた魔道具たちを見た。
目の色を変える魔道具に、髪の色を変える魔道具。音声を録音・再生できる魔道具に、魔導銃。あとは元々持っている短剣やナイフ、ロープに薬類などなど──
これらはホイスルーランドを出た後、闇バイヤーから買ったものだ。なので購入者の履歴を漁られることはない。追っ手くらましに丁度いい。
「これは何?」
マオが珍しそうに手にしたのは、異世界で言う『スマホ』だった。
もともと通信用らしいが、写真を取れたりと使い勝手がいいのでザビトは重宝していた。
「あぁ、それは『スマホ』だ。異世界のものらしいぞ」
「ええ、すごーい!」
マオは目をキラキラさせてスマホを触っていた。
使い方が分からないのか、ずっと画面の裏を叩いていた。
「そんな使い方してたら壊れるだろ。ほら、こうやって指で押すんだ」
「おぉー!」
使い方を見せたところで、ザビトは二台ある内の一台を、マオに渡すことにした。
何に使えるか分からないので、持っておいた方が保険になるだろう。
しかし、こうやって魔道具を見つめていてもお金が湧いてくるわけではない。
マオがスマホをもらってはしゃいでいる隣で、どうしようかとザビトは考え込んでいた。
このままでは野垂れ死が現実味を帯びてきてしまう。逃亡生活で飢え死には、あまりにも恥だ。それだけは避けたい。
それに今はスマホで元気になっているが、さっきまで疲れて死にそうな顔をしていたマオを、出来るだけ早く宿屋で休ませてやりたい。
となると、考え着く先は何度計算しても同じで。
「よし、死にに行くか」
「え?」
ザビトの決定に、マオはぽかんと口を開けた。
数日後、ザビトとマオは森を抜けて、カジノ王国──シャングリットに来ていた。
もちろん二人共髪と瞳は道具で色を変えて、口元を布で覆って隠している。
シャングリットに二人が着いたのは夜だったが、空を突きさす照明が至る所に付けられており、店に掛けられた看板などは全てネオンカラーであった。まるで昼間のような明るさだ。
また、黒スーツにサングラスを付けた屈強な男たちが常に王国内を警備しており、さすが『夜の国』と言われるだけの貫禄があった。
大金を勝とうものならどうなるのか、考えただけで恐ろしい。
目を爛々と輝かせているマオを横目に、ザビトは初めて来たシャングリットに感心すると同時に暗い裏路地を見た。
ザビトの目線の先、路地裏では何十人もの人が地面に座り込んでいた。
皆うわ言のように「お金、お金」「必ず返すので、貸してください」と呟いていた。
目はうつろで、お金に魅せられているようだった。もう正気には戻れないだろう。
中にはお金の催促か、カジノのボディーガードに殴られている人もいた。「金は、ちゃんと返済しますので! か、貸してください!」と殴られながら、またお金の催促をしていた。
シャングリットは『夢』を売る王国だ。決して『楽してお金を稼げる、夢の場所』ではないことを、暗に示していた。
「うわあ、私ここに住みたいかも!」
路地裏を見ていないマオは、能天気なことを呟いていた。ザビトは鼻で笑う。
「なら一生“夢”に溺れてな。光だけを見てればいい」
「もう! 何でそうやって世界を斜めに見るのかな。綺麗なものは綺麗でいいじゃん」
「光には闇がある。当たり前のことを忘れた瞬間、人はカモになるんだよ」
ザビトは(路地裏の奴らは金に目がくらんでる。案外使えるかもな)と思考した後、この国で一番大きなカジノへと移動した。
カジノの名前は『シャルテナ・アグリット』
ポーカーやルーレット、スロット以外にも独自の遊戯を行っている、この国で一番お金が動く場所である。
──金を望むなら、金の集まるところへ。
それがザビトの信条である。
シャルテナ・アグリットの外観は、高級そうな宿屋であった。
黒色をベースにした外装に、所々金が散りばめられている。かなりお洒落だ。
黒服のボディーガードたちが両開きの入口の扉を開けてくれ、ザビトとマオはカジノへと入っていった。




