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異世界詐欺師 ~魔法が使えない俺は、嘘だけで世界を騙す~  作者: エース・レッド


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天界

 ザビト達がホイスルーランドを出てから三日後。


 ホイスルーランドの北側に位置する森林に、ザビト達はいた。


 連日の追っ手からの逃亡にマオは体力を削られ、夜になると毎回気絶するように眠っていた。


 今夜もマオは深い眠りについているとザビトは思っていたが、どうやら違ったようだ。


 ザビトが木の根元に背を預けながら、いつも通り浅く眠っていると、カサリという草を分ける物音が聞こえた。


 すぐさまザビトは浅い眠りから目を覚ます。初めは追っ手かと思ったが、眠っていたはずのマオがいないところを見るに、マオが立てた物音のようだった。


 こんな夜更けに何処へ行こうというのか。まさか逃げる気だろうか?


 ザビトは気配を殺して、マオの気配を辿った。


 背より高い草木をかき分け、苔の生えた滑る木の幹を登り、蔦や枝を切って潜り抜け、無心でついて行く。


 数分経った後、マオの気配は止まった。


 ザビトがまた草を手で横に避けながら、マオのいる場所を探ると──


 そこには“天界”が広がっていた。

 いや、正しくは滝つぼがあり、キラキラと月光に反射する中で、裸のマオが入浴していた。


 その光景は天界と呼ぶにふさわしく、マオの水を含んだ濡れた髪がこの世とは思えないほど燦然と輝いていた。


 また水滴の付いた白い肌はミルクや砂糖菓子よりも白く、一つの傷もない芸術品だった。


 ザビトが思わず目を見開き見惚れていると、マオが振り返った。


「乙女の入浴をのぞき見するなんて、メだよ」


 悪戯な顔で、舌を出している。その光景さえ、一枚絵の絵画のようであった。


 忘れていたが、マオは人と作りが全く一緒とは思えないほど端正だ。水浴びしようものなら、並の男なら、鼻血を出して倒れても仕方ない。


 しかし俺はザビト。数あるハニートラップを難なく潜り抜け、逆に「もうこいつとは関わりたくないんだけど!」とキレられるほど、情報を根こそぎもぎ取ってきた男だ。


ザビトは我に返ると、片手を上げため息を吐いた。


「生憎俺はナイスバディのお姉さんしか興味が無くてな。貧相な体には用はない」

「うん、殺すよ?」


 マオの殺気に、魚たちが一斉に下流へと泳いでいった。眠っていた鳥たちも一斉に飛び立っていった。


 どうやらマオはザビトから逃げ出すつもりはないらしい。ただの水浴びだ。女子にとって水浴びが出来るかどうかは死活問題だろう。このままにしておこう。


 ザビトはそのまま寝床だった場所へ帰ろうとしたが、マオが呼び止める。


「ねえ、感想はそれだけ? せっかくザビトが慌てふためくところがみれると思ったのにな」

「悪かったな、面白みのない奴で」

「どうやったらザビトはドギマギしてくれるかなぁ?」


 真剣に考えているようだ。その間にもザビトの目にはマオの裸が見えているのだが、あまりマオは気にしていないらしい。


 少しでも節度を持って欲しい。そちらの方が、グッとくるかもしれない。


 などとザビトが馬鹿なことを思っていると、マオが手をポンと叩いた。


 何やら名案が浮かんだようだが、ザビトにはどうせろくでもない事だろうと思った。


「ねえ、ザビトも水に入らない?」

「おい。恥じらいはねえのか、恥じらいは」

「だって魔王様、ですから」


 マオは自慢げに胸を張ると、次に両手をザビトに差し出した。


 指先からポトリ、雫が落ちた。雫は水面に波紋を広げ、ゆらゆらと落ちていた葉っぱを揺らした。

 

やけにそれがザビトの目に残る。


「おいで、ザビト」


 ワインのような目が、ザビトを捉えて離さない。


 ──やっぱり、綺麗だ。


 このまま誘われるまま、流されてしまおうか。そんな思いがよぎる。


 ザビトは誘われるように滝つぼに近づくと、そのまま──


「入るわけねーだろ。ばーか」

「んな!?」


 入らなかった。手で水を掬い、思いっきりマオにぱしゃりと掛けた。


 油断していたマオはそれを思いっきり顔面にぶつける。口に入ったらしく、少しむせていた。


「おかしいな、今のは一緒に水浴びする流れじゃないかな!?」


 涙目で睨んでくるマオに、ザビトはしれっと横を向いた。


「あいにくストリートで一番危険なのはハニートラップなんだよ。俺に誘惑は効かないぞ」

「むー。じゃあ何なら効くの?」

「髪飾りでもつけて笑ってみな。そしたら案外効くかもしれないぞ?」

「そんなこと言われても髪飾り持ってないし! というか、からかって遊んでるだけだよね!? ね!? 本当の事教えなさーい!」


 あくまで強気なザビトに、マオは水を掬ってかけた。しかしザビトはそれを華麗によけると、マオが木に掛けてあった手拭いを投げ渡した。


 再びマオの姿を見たザビトだったが、そこには陰キャコミュ障魔王様がいるだけだった。さっきの天使のような可愛さは幻想だったのだ。


 マオは目をパチパチさせて、受け取った手拭いを見る。


「あんまり長風呂はするんじゃないぞ」


 そう言ってザビトは欠伸をして、寝床に戻って行った。


 戻る途中でザビトはぽつり呟く。


「魔王のくせに無防備すぎるだろ。だから俺みたいな悪い奴に捕まるんだよ、甘ちゃん魔王様」


 そして残されたマオは口元まで水に浸かってぶくぶくさせると、どうやってザビトを照れさせるのか、慌てさせるのか、必死に考えたのだった。


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