ストリートの本腰
「……外道が」
ユウマは剣を構えたまま、ザビトを睨みつけている。
──さあ、もっと食いつけ。俺の掌で転がれ。
ザビトはユウマを楽しそうに見つめながら、問いかけた。
「アンタに聞きたいことがあってさ。10年前の事なんだけど」
「10年前……?」
「あぁ、北部にある、地図に名前も載らない貧民街。そこでオッドアイの女の子を殺さなかったか?」
ザビトの突然の言葉に、ユウマは眉を寄せると答えた。
「……10年前に俺はこの世界に来ていない。人違いじゃないか?」
ユウマの返答にザビトは表情を無くすと、体をだらりとさせた。
やっと会えたと思った。今度こそ怨敵の相手だと思った。
しかしどうやら違うらしい。
「なーんだ、外れか。じゃ、アンタに用ねえわ」
そう呟くと、上着から二つの小瓶を取り出し、ユウマに投げ掛けた。
もう少しで液体が掛かるというギリギリのところでユウマは避け、そのまま剣でザビトに切りつけようとした。
しかし、先をザビトに読まれていた。ロープが軸足に掛けられ、ユウマはバランスを崩したのだ。
こけそうになりながらも、もう片方の足で踏ん張って再度切りつけようとするユウマ。
だが、剣先はザビトの上着を切った。
もう一度ユウマが薙ぎ払いをしようとしたところで、ナイフの切っ先がユウマの喉仏の前で止まった。
「……」
動きを止めるユウマ。勝負ありだった。
ザビトは冷酷に呟いた。
「こちとら十数年ストリートチルドレンしてたんだわ。大人数には勝てなくても、一人くらいなら何とかなるっての」
しーんと静まり返った会場内。MCが慌ててザビトの勝利を宣言する。
ユウマが剣を下した瞬間、勇者が飛び入り参加の無名に負けたと観客たちは理解し、一斉に会場内はざわついた。
ザビトを祝福する声。勇者が負けて泣く声。八百長を疑う声。などなど、声はだんだんと会場の外まで波及した。
「おい、八百長じゃねえのか、八百長!」
「そんな、勇者様が負けるなんて、そんなの嘘よー!」
「勇者様って弱いのー?」
「なんてもの見せてくれんだ、金返せ!」
声は留まることを知らない。ざわめきは街を支配していった。
「あちゃー、やり過ぎたか?」
頭をポリポリ掻いて反省しているザビトに、ユウマは悔し気に質問した。
「あんた、何者だよ……」
ザビトは空中を見て少し考えると、あっけらかんと答えた。
「ただの誘拐犯だよ、ただのね」
ザビトはステージを降りていく。大金星を上げたザビトを、マオは客席から手を振り、迎え入れた。
ザビトに向かってビールや食べかけのパンなどが投げられたが、ザビトはそれをひょいっと当たり前のように避けていた。
騒然としている会場に、緊急アラートが入る。
『隣町のフォルカナから誘拐犯が脱出した。誘拐犯は警備兵の上着を着ていると思われる。隣接の街は至急、検問を開くように。繰り返す──』
「警備兵の、上着……?」
ユウマはそう呟くと、先程までザビトがいた場所を急いで見た。
『警備兵の上着』を、確かに着ていた。
観客たちの視線も、ザビト達に突き刺さる。
「やべ~……」
ザビトは冷や汗を浮かべると、マオを脇に抱え、そして──
出入り口に向かって、ダッシュした。
「追ええええ! 誘拐犯だああああ!」
叫び声を背後に聞きながら、ザビトはマオと笑い合った。




