3-9 勇者とは
ばーん!と豪快に開け放たれた扉から見えたのは、無精髭を生やし寝癖がついたままのリオネルだった。
「よおよお、皆様お揃いで。なんかあったかぁ?」
リオネルはセラフィナたちの正面にどかっと腰を下ろすと、酒を飲み始めた。
「リオネル、僕たちから大切な話があるんだ」
「ほー。どんな?」
「単刀直入に言うよ。魔王を倒したせいで、今、各地に異変が起きている」
リオネルの眉がぴくりと動いた。
「は?魔王を倒したせい……?」
どういうことかわからない、と口を開け首を傾げている。
「魔物って魔素の塊なの。魔物を倒すと魔素に還るでしょ?魔王も例外じゃないのよ」
「それで?」
「魔素があるところに魔物は生まれる」
「つまり……」
リオネルは流石に酒を飲むのをやめたらしい。段々と理解してきている様子だ。
「魔王を倒したときのでけえ魔素が世界中に散らばってるって話か」
「その通りだよ」
リオネルは口元に手を当てて何か考え込んでいる。
「ねぇ、リオネル。僕たちと一緒に来ない?今、王都近郊も大変なことになっている。呪いの影響が出ている場所もあるんだ」
「あとはお前だけだ、リオネル」
ミリエルは必死にリオネルを説得しようと試みるが、リオネルの反応はセラフィナが予想したとおりのものだった。
「いやぁでもなー、オレ貴族だし?こういうのは冒険者に」
「その冒険者が次々やられて今神殿は大忙しよ」
「え……王都の冒険者ってそんなに軟弱だったか?」
「敵が強い上に多いのよ。あんなの、あんた一人だって数の暴力で負けると思うけど?」
セラフィナが鼻で笑うと、リオネルの表情が変わった。
「あ?オレが負ける?はっは、冗談じゃねえ。オレは勇者だぞ」
「いつまで過去の栄光に縋ってるつもり?今のあんたを見て、勇者様だー!ってなる人いないわよ」
「確かに最近は言われたことねぇな」
「大体、困ってる人がいるって言ってるのに助けに行くって即決しないでだらだらしてるやつの何が勇者なのよ」
うぐ、と言葉に詰まるリオネル。使用人も言っていたが、やはり王都の人間はリオネルを、もう勇者には見えない堕落した人間として見ているらしい。
「俺たちはいつまでもここには居られない。あとはお前だけだ。さっさと行くぞ」
ヴァルトが苛ついた様子でリオネルに声をかける。リオネルはまだ迷っている。そのとき。
「リオネル様!今人々を助けずして何が勇者ですか!セラフィナ様方のほうがよほど勇者してますよ!」
それは、しびれを切らした使用人だった。部屋の外でずっと話を聞いていたのだろう。
「私達は勇者リオネルに憧れていました。ですが、今のあなたは勇者でもなんでもない。ただの堕落した貴族です」
「なっ……お前に言われる筋合いは」
「じゃあ、僕達の言う事なら聞いてくれるよね」
「そ、れは……」
リオネルは舌を鳴らし頭を掻くと、セラフィナ達の顔を一巡した。
皆、覚悟が決まっている様子だ。
「わかったよ。前にセラフィナが言ってた呪いの話とかも嘘じゃなかったんだな」
「あたし嘘つかないわよ」
「あーあ、おれの貴族生活も5年で終わりか〜」
「見苦しいぞ。さっさと旅支度をしろ」
「へいへい」
リオネルは酒を置くと、旅支度してくるわ!と部屋を出ていった。
「あ~、良かった着いてきてくれて」
「どうなるかと思ったね」
ミリエルは胸に手を当て、本当にホッとしている。
「じゃ、あたし達も旅支度しますか!足りないものとか買い足しましょ」
「そうだな。各々買い物を済ませたら、またこの屋敷に戻ってこよう」
「了解。じゃあミリエル、まずは服よ」
そうして各々は屋敷を出て、各自必要なものを買いに市場へと出た。
◇ ◇ ◇
「まーた旅に出るのかぁ。ま、旅は嫌いじゃねぇけど」
髭を剃り、服を着替える。剣は研いである、大丈夫だ。
「オレが数の暴力で負ける?あり得ないね」
セラフィナに煽られたのが効いているようだ。リオネルは防具を着込むと、剣を手に取った。片手剣ではない。大剣だ。
「5年ぶりか……腕がなるぜ」
リオネルは少しワクワクしていた。やはり冒険者の血というのは、こういうときに疼くものなのだろう。
かくして、今ここに、勇者パーティが再び集った。世界の汚れを、掃除するために。




